寅さん埴輪(4)


寅さんの風景を求めて
記念館をでると中庭があり、入口にむかって左側にひろい休憩室(兼パネル展示室)を設けている。テーブルと椅子がぎっしり詰まっていて、たぶんこの部屋は講演会場にでもなるのだろうと思った。広い休憩室だが、中にいたのは二人のおじさんのみ。一人は背をむけて坐っていて顔はみえないが、穏やかで低い声をしている。対面に坐った方が長い時間まくしたてるように高い声で話し続けていた。どうやらインタビューらしい。無口なインタビュアーはさておき、饒舌なほうは、そうだな、やや若返った森川信が神経質な顔立ちになったような風貌をしてるんだが、不似合いなことに、ポニーテールで長髪を束ねている。
LABLOGの愛読者ならご存じのように、わたしはちょっとしたポニーテール(馬尾)フェチなんですが、オヤジのポニーテールには興味がない。中高年男性のポニーテールとは何の象徴なのだろうか。すくなくとも、普通の会社員でないことは確かだね。大学の先生なら有りかもしれないが、実際に見たことはない。自由業・・・芸術・芸能関係の人だろうか?
「もうね、趣味とかいう段階じゃないと思うんですよ。たんに寅さんが好きで、
その撮影場所を訪れるっていうレベルじゃなくて、学(学問)として、こういう
作業を積み重ねる時代がやって来ようとしている・・・」
似たようなことを今年のゼミで学生に話したことがあるものだから、鏡に映る自分をみているような気がしてイヤになり、いったん休憩室をでたのだが、自動販売機でデミタスコーヒーを買ったあと腰掛ける場所もないので休憩室に戻った。

馬尾さんはよくしゃべる。寅さんの撮影場所を執拗に探し回って、自分のサイトにアップし続けているようだ。同士を求めている。ネットワークを組んで、組織的に寅さんの風景を解剖したいみたいだ。今でも、そういう仲間は各地にいるのだが、旅行気分で探し方がルーティーンになっており、甘いんだとこぼしている。自分と同じだけの執拗さをもって風景を追いかけてくれないと困る、というのだ。
アマチュアにそこまで期待できないよね。そうだな、科研の基盤Bぐらいで資金を確保し、調査マニュアルを確定させながら研究協力者を動因してやりでもしなければ、一定の成果をあげるのは難しいでしょう。ところが、そういう「調査」の成果はあまりおもしろいものにはならないんだな。学術風ではあるけれども、無味乾燥の典型に陥る危険性がある。一人でこつこつやれる範囲のことをやればいいんだ。
