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映画『ウクライナ・クライシス』感想

謎の元教師と老夫婦、スヴィトラーナから読み解く映画の深層

2022年 5月25日(水)鑑賞
1.映画の基礎情報
  題名: ウクライナ・クライシス(原名ビシュート)
  監督: イヴァン・ティムチェンコ(ウクライナ 2019年)
         
2.映画のあらすじ
 2014年、クリミア併合をめぐり、ウクライナとロシアが対立し、ウクライナ義勇兵(ドンバス大隊)と親ロシア派の反政府軍による内戦が勃発した。ウクライナ義勇兵は反政府軍に占領されたイロヴァイスク市の奪還に成功するが、ロシア軍の参戦により、逆に包囲され窮地に陥ってしまう。負傷したビシュートたちはアパートに逃げ込み、その住民たちの協力もあり、無事帰還する。一方、生き残っていた他の義勇兵たちは人道回廊を通って撤退を開始するが、ロシア軍による総攻撃を受けてしまう。

3.感想
 ウクライナ義勇兵も親ロシア派の反政府軍もたくさんの人がなくなっており、どちらが悪いという話ではなく、それが2014年に起きていたと考えると恐ろしい話であった。私が印象に残った人物は義勇兵に捕虜にされた兵士の父親である。彼は親ロシア派の士官として指揮もとっており、かなり初めの段階から登場していた。部下や敵兵に対してあたりが強く、大きな体と怖い顔からも悪い人間であると感じていた。しかし、人道回廊を進むウクライナ義勇兵をロシア軍が攻撃したことを知った時に激怒しており、息子を取り戻そうとする姿勢からも、決して悪い人物ではなく、むしろ彼は紛争でたくさんの人がなくなっている現状にイライラしているように見えて、正義感の強い、仲間や家族を大切にできる人間ではないかと思うようになった。
 そんな彼は、息子が死んだことを知った時、怒りの矛先をウクライナのリーダー格、ビシュートに向け、人間性を捨てて激怒し、全力でビシュートを殺そうとした。彼の行いはもちろん間違っていることもあったが、したくもない紛争に無理やり参加させられ、息子を殺されて自我を失ってしまうのも仕方がないのではないかと感じた。また、彼が最後ビシュートたちから解放された時に何を思ったのか、軍にはどんな報告をしたのか、答えはわからないが考えてみると面白かった。

1)この映画は何を言いたいのか
 私はこの映画が伝えたいことは戦争の悲惨さと家族の大切さであると感じた。映画の中にはわざわざ体内に打ち込まれた弾丸を麻酔なしにピンセットで抜くという眼をそむけたくなるような痛々しいシーンが2回も使われていたり、紛争によるいざこざからレイプに発展したりするシーン、ごみをあさって飲み物を探すシーンなど、銃撃戦以外にも悲惨なシーンが多々見受けられた。また、そのところどころに引き離された家族や、それぞれ家族に送るためと思われる動画を移動中に回していたりするなど、家族の重みを思い出させてくれる場面があった。

2)イロヴァイスクの家族はなぜビシュートをかくまったのか、砲弾はどこからの攻撃か
 親ロシア派隊長の秘書、スヴィトラーナは親ロシア派に疑問を抱いていた髭面の教師の教え子なのではないかと考える。教師と離婚した妻の発言によると、イロヴァイスクの若者のほとんどが髭面の教師の教え子だという。また、髭面の教師とスヴィトラーナはウクライナ義勇兵であると分かっていながら、ビシュート達を助けるという共通の行動をとる。また、イロヴァイスクから離れたいとも思っている。二つの共通点を確認できる。以上から、髭面の教師は授業でもウクライナ派の思想を語ってきた可能性があり、それに影響されたスヴィトラーナとその家族は、町に住む親ロシア派の人間や紛争に対する疑問から、ビシュートを助けたと考える。
 砲撃はスヴィトラーナを黙らせろと命令されたロシア軍の兵士だと考える。彼の部隊はスヴィトラーナから告発を受けており、トラブルになる前に好きなやり方で黙らせろと命令を受けていた。告発書が数枚あったことからも親ロ派は多くの問題を抱えていた残虐な部隊であることが想像できる。以上から、親ロシア派の兵士がスヴィトラーナを黙らせるために砲撃したと考える。

3)髭面の元教師は何者か
 2)でも少し触れてしまったが、髭面の教師は新ロシア派の思想に疑問を抱いており、教師であった頃はその疑問を生徒たちに投げかけていたことがうかがえる。しかし、町のほとんどの住民は親ロシア派であることから自分の居場所を見失い、町を出る。ウクライナ西北方面に向かうバスでビシュートのピンチを目撃した際には、当たり前のように銃で人を打ち、ビシュートの手助けをしていた。容赦なくロシア人を打った姿勢からもウクライナに対する思いはかなり強いと考えられる。このことからビシュート達を助け、その後行動を共にしたのではないかと考える。(紅しょうだ)


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世界遺産の今-本物と復元で価値伝える

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復元建物に人を感動させる力はない

 新年度早々、4月6日に取材を受けた通信社の記事はGW開けに配信されるということであったが、一向に連絡がなく、よほど人気のない特集記事で掲載紙がなかったのか、と思っていたところ、30日(月)の深夜に某紙の紙面が送信されてきた。遺跡整備における復元建物などの表現方法を主に縄文世界遺産を素材にして論じ、その〆の部分をわたしがコメントする体裁になっている。
 これまで分かっている掲載紙は以下のとおり。

東奥日報(青森) 2022/05/14
高知新聞 2022/05/16
長崎新聞 2022/05/17
埼玉新聞 2022/05/19
伊勢新聞 2022/05/23
京都新聞 (夕刊)2022/05/24

 少ないですね。菅原遺跡CG復元の報道とは大違いだ。でもまぁ、この時代遅れの内容では、地方の各紙は買う気にならんでしょう。いまごろ三内丸山の巨根建築をクローズアップしても、喜んで読み漁る人はいませんよ。復元建物や遺跡整備について批判一辺倒になる必要はないけれども、少なくとも中立的立場から賛否両論取り上げて議論の俎上にのせないとね。これでは現場に対する忖度でしかない。インタビュー時には、増えすぎた世界遺産の不要性、感動できない復元建物やVA、日本が得意とするシリアル・ノミネーションの欠陥などが話題となり、おおいに盛り上がったが、こうした話題を通信社側はすべてカットし、私一人に批判的論調を押しつけた格好になっている。当日の録音データはすでに文字おこしを終えており、いつかその全貌をお知らせできる日が来ることをひそかに願っている。


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空き家探索(6)-上方往来河原宿その5

0525T01逆光01


パソコンとメールの正常化

 メディアセンターに預けたパソコンがリカバリーを終えて2日前に戻ってきました。センターで何度も確認しての持ち帰りですので、これで大丈夫です。一方、edion-netのメールは受信のみ可とし、送信をストップしたままにしていました。しかし、こちらもサポートセンターと電話協議の結果、さきほど送信可としました。パソコンがリカバリーされて無菌の状態となり、メールのパスワードも変更しているからです。詐欺メール問題は解決しました。ほんとうに多くの方々にご迷惑をおかけしました。繰り返しお詫びします。

逆光に苦しむ黄昏

 5月25日(水)の全体ゼミでは、イバン・ティムチェンコ監督『ウクライナ・クライシス』(2019)を視聴しました。戦争の激しさ、という点を除外すると、監督は何を言いたかったのか、理解し難いところもありますが、なにより学生諸君はロシア-ウクライナ関係の基本が分かっていないようです。たとえば、ウクライナ国内の親ロシア軍と越境してきたロシア政府軍の区別がつかない。ウクライナ軍も政府軍ではなく、ドンバス大隊という義勇軍です。単純な感想ではなく、以下のような問いかけをしておきました。
 【1】この映画は何が言いたいのか?
 【2】イロヴァイスクの家族(老夫婦とスヴィトラーナ)はなぜビシュートら2名
    のウクライナ兵を匿ったのか、被弾はどこからの砲撃によるものか?
 【3】ゴミ捨て場をあさる髭の教師は何者か?

 視聴後、ゼミ生は2班に分かれました。先週調査したT01家の実測をCADで清書する学内班、現場に再度赴いてフォトスキャンの立面図作成のため多重撮影をする学外班です。学外班はさらに3班に分かれましたが、西を向いて建物の東面を撮影する2名は強烈な逆光に苦しみました。休憩時に撮影写真を確認すると、反射光で外観がほとんど映っていません。時間をおいて再撮影を試みました。逆光は緩んでいるようないないような・・・立面図ができるかどうか、スキャンしてみないと分からない状態です。その後、大学に戻ると、学内班の大半の学生が演習室に残ったまま作図を続けていました。学外班が加わって楽し気におしゃべりを始めます。もう帰ったほうがいいんじゃないの、と何度か促しましたが、みな動きません。楽しそうです。コロナ禍の2年間、ついぞみられなかった光景に接し、正直嬉しくなりました。
 私が先に帰宅しました。帰宅すると、すでにほろ酔い状態の者が1名・・・


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宝島社ムック本に菅原遺跡のCG掲載!

2022日本の古代史(菅原遺跡CG)p80 web


 宝島社のムック本(TJMOOK)『日本の古代史』に菅原遺跡「円堂」復元CGが取り上げられました。文献情報をまとめておきます。

最新調査「東大寺の大仏造営に貢献した稀代の名僧 行基を弔う施設だった? 菅原遺跡の円形建物跡」
瀧根能之(監修)『新発見でここまでわかった! 日本の古代史』
TJMOOK 宝島社、2022年6月22日:p.80

 こういう発掘速報系のムック本はかつて頻繁に刊行されたものですが、これだけ世の中が揺れ動いて変わってきている状況下で、やっぱりまだ出るんだっていう印象です。原稿は編集部が書いたものですが、間違いが散見されますね。こういう速報を素人が書いてミスのない記事になるはずがありません。たとえば、

  この建物は、円形の多宝塔の原型だったと考えられる。中国にある敦煌莫高窟
  の壁画には円形の仏塔が描かれているが、こうした情報をもとに築かれた建物
  かもしれない。

とあります。しかしながら、菅原遺跡の「円堂」は多宝塔とは無関係で、法隆寺夢殿に代表される古代の八角円堂に十六角形の土庇(掘立柱の裳階)をめぐらせたものです。また、敦煌莫高窟の壁画に「宝塔」の表現は認められるものの、宝塔に裳階をつけた多宝塔は明確に確認できません。多宝塔風の楼閣は複数描かれているが、それらは多宝塔ではないと私は思っています。上に引用した記載は発掘調査した元文研の速報に従ったものですが、こうした誤解については、『ブータンの風に吹かれて-中後期密教の比較文化-』の巻頭論文で指摘しています。
 菅原遺跡のページと見開きをなす81ページには、「三蔵法師の弟子・道昭とゆかりが深い瓦窯跡の発見」(p.81)も掲載されています。道昭は行基の師匠ということになっているので、有り難い情報ではあります。ただし、各所で述べてきたように、行基と道昭の交渉を説く記録がないというのだから、両者の師弟関係自体が潤色に満ちているようです。
 じつは菅原遺跡の結末をまだ私たちは迎えていません。その顛末もまもなくお知らせできるでしょう。 


2022日本の古代史(菅原遺跡)p80 2022日本の古代史(表紙)web        

空き家探索(5)-上方往来河原宿その4

0518谷本家20土蔵01南03妻壁02葵御紋web 0518谷本家20土蔵01南03妻壁01コテ絵sam 土蔵1(北蔵)妻壁


葵御紋の米蔵群

 T01家の土蔵2棟についてはプロが実測してくれたので、またたくまに平面と断面が完成しました。一般に歴史的建造物は、背(丈)が低い方が古く、高い方が新しい。T01家の蔵は棟の高い建造物であり、コテ絵の図柄も派手なので、ぱっとみ明治以降という印象を受けるけれども、以前からこの家の蔵は天保ころにさかのぼるという話を聞いたことがあり、このたびプロ君が気づいたとおり、入口のマグサや妻壁に三葉葵御紋のコテ絵が残っている。三葉葵の家紋といえば、徳川家以外にないわけで、当然のことながら、江戸期の建立とみなさざるをえない。


0518谷本家20土蔵01南03外観02路地側web 0518谷本家20土蔵01南03外観02web


 管理人さんからの聞き取りによると、「これらの土蔵は米倉であり、徳川家に米を上納していた、という話を聞いたことがある」とのこと。コテ絵の文様なども、天保(1830~1844)という年代観にぎりぎり引っかかる様式ではないか、と思えてくる。以下、実測図に即して、平面と構造形式をまとめておく。
 
 土蔵1: 敷地の南側、小路沿いにたつ東西棟。二階建切妻造桟瓦葺。桁行7間×梁間3間。
      東側に納屋が付属する。小屋組は梁を相接して積み上げ、束を用いない。
      戸口のマグサと背戸川に面する妻壁の妻飾に三葉葵家紋のコテ絵を残す。

谷本家土蔵1_page-0001        0518谷本家20土蔵02西01裏外観sam
実測図清書(土蔵1=南蔵)

0518谷本家20土蔵01南03外観02背戸川web 0518谷本家20土蔵01南03外観01

0518谷本家20土蔵01南02葵御紋まぐさweb 0518谷本家20土蔵01南02葵御紋まぐさsam
土蔵1(北蔵)↑マグサ葵御紋のコテ絵 ↓小屋組
0518谷本家20土蔵01南01小屋組web 0518谷本家20土蔵01南01小屋組sam


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空き家探索(4)-上方往来河原宿その3

0518谷本家00正面外観01web 0518谷本家00廊下の調査風景01


長押のない書院

 5月18日(水)、全体ゼミにOBまで参加して、大所帯での河原宿T01家の調査に取り組みました。実測・採寸の対象は主屋と土蔵2棟であり、さらにドローンによる空撮もおこないました。
 主屋の平面については、前日、4年生以上がカフェ黒田で経験したばかりです。私たち3年生は4年以上の先輩とペアを組みました。院生・4年生も茶室と黒田家で訓練してきたものの、まだまだ初心者で不慣れな中、後輩を指導しつつ自分も間取りを描くので大変だと思いました。ペアになった一組で1枚の実測図を仕上げるのではなく、全員が画板と方眼紙をもって間取りを描いていきました。この間、先生は主屋全体の平面図を描いていかれましたが、柱筋のずれが激しく、予想以上に苦戦されている模様。


0518谷本家01奥の間01調査風景01 0518谷本家01奥の間02座敷飾sam


 平面図を作成していて分かったのは、前日のカフェ黒田がそうであったように、農家の前側に武家屋敷(書院造)の要素を大々的に取りこんでいることです。オクノマの座敷飾は、黒田家と同じく、左から平書院・床・棚と並びます。欄間も類似のものが入っていますが、長押を全く使っていません。これは古式であり、ひょっとすると、葵御紋のコテ絵を残す土蔵の年代と一致し、幕末まで遡る可能性もありますが、とりあえず今回は幕末~明治前期(推定)としておきます。


0518谷本家01奥の間03平書院の裏の古壁web 0518谷本家01仏間sam
↑(左)平書院の裏側に残る古い壁 (右)仏間
0518谷本家11奥の角屋02天井web ツノヤの一番奥の寝室(天井)


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mリーグ麺麺位決定戦




麺麺位をドンブリ戦に

 トロイにやられるなんて、ほんととろいですよね。結構落ち込みましたが、不審なメールも届かなくなりました。気持ちを切り替え、前を向いて生きていかねばなりません。ご迷惑をおかけした方々には改めてお詫び申し上げます。こんなときは大谷翔平(日米通算150号おめでとう!)か、麻雀ですね。mリーグの麺麺位決定戦でもみて、ほっこりしますか。平和の祭典です。麺麺位決定戦は日清食品とmリーグのコラボ対局でして、通常の麻雀牌ではなく、日清食品牌を使っています。これが可笑しいの。ほっこりします。通常牌(↓左)と日清食品牌(↓右)の違いを簡単に説明しておきます。

  萬子(マンズ) → 麺子(メンズ)
  筒子(ピンズ) → 呑子(ドンズ) * どん兵衛の呑
  索子(ソーズ) → ソース  *一索(イーソ)→ひよこちゃん
  東南西北(トン・ナン・シャー・ペイ) → 日清食品
  白発中(ハク・ハツ・チュン) → 白(マヨネーズ?)・ハングリー・(箸の)

 打ち手は以下のとおり。

  東家: 堀 慎悟(サクラナイツ・協会)
  南家: 佐々木寿人(格闘倶楽部・連盟)
  西家: 小林 剛(パイレーツ・麻将連合-μ-)
  北家: 丸山奏子(ドリブンズ・最高位戦) この日はドンぶりズ?

 人選は絶妙です。堀・佐々木・小林に多井を加えればmリーグ四天王ってところですが、この4人はリーグ戦で何度も戦っているし、おじさんばっかりでは華がない。女子を入れるとしたら、だれか。難しい。女優なみに美しい方ばかりですから。なにより、日清食品にふさわしい人でなければなりません。連盟系女子の場合、とくに華やかですが、タレント系と申しましょうか、ウォーター系と申しましょうか、少々清楚から遠ざかります。清楚系といえば、最高位戦の瑞原さんと丸山さんが票を集めるでしょうね。ただ、瑞原さんは小林選手と同チームですから、丸山さんになったんじゃないか、と想像しております。丸山さんはドリブンズの研修生的若手ですが、このところめきめき実力が上がってきています。先の「最強選」予選を勝ち抜き、ファイナルに駒を進めました。予選で小四喜を和了したんですよ。この日もあと一歩で優勝でしたが、小林さんのしぶとい試合運びに屈しました。こういうロースコアの争いは小林選手の最も得意とするところですね。
 麺麺位決定戦、来年からは全選手参加のトーナメントにしたらいいんじゃありませんかね。リーグとは別枠の天皇杯扱いで。総勢32名ですから、8卓→4卓→2卓→1卓の15試合で片付きます。シーズンオフには最適のカップ戦、いやドンブリ戦になるんじゃないでしょうか。


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実測演習(2)-カフェ黒田

0517黒田家01実測風景04浅川・上野 0517黒田家01実測風景01寺澤・上野・上田


農家に定着した書院造の諸要素

 5月17日(火)。先週の茶室での実習に引き続き、郡家の古民家カフェ黒田にて実測・採寸に取り組みました。4年生以上の5人で、一人が2部屋ずつ描き、キッチン部分を除く平面図を完成させました。
 私が今回担当したのは仏間とその隣の旧板間(広間=玄関横の部屋)の2部屋です。測量するにあたって建物の造りを細かなところまで見ていくと、いくつか発見をしました。仏壇は半間の押入(片開戸)横の中央奥に位置し、仏壇の前に新しい板材が上下にh張ってありました。かつては、この部分に引き違い戸(襖?)があり、敷居・鴨居を新材で隠した可能性があります。また、旧板間の前方には板間が残っていました。板材は比較的古く、増設ではなく、当初材の可能性があります。


0517黒田家03内部01床と平書院01 0517黒田家03内部02棚と長押と床柱
↑(左)床と平書院 (右)棚と長押と床柱


 休憩時間には、民家(農家)における書院造、すなわち武家屋敷の影響を学びました。まずはいわゆる「座敷飾の3点セット」から。座敷飾の3点セットとは、押板(床)・棚・付書院のことです。このうち付書院は出文机、棚は巻物棚を原型としており、つまり「机+本棚」であることから、書院は「書斎」のことであったことが分かります。押板(床)は、唐物数奇(中国の骨董や絵巻物)の展示棚です。カフェ黒田の場合、付書院は机を縁に出さない平書院の簡略形式になっています。このような座敷飾は武家屋敷の書院に特徴的なものですが、江戸期には豪農の住まい、明治期以降、小作農の住まいに波及していきます。


0517黒田家01実測風景05上田 0517黒田家01実測風景03東・浅川 0517黒田家01実測風景02テイ


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詐欺メール発生のお詫びと対応

 多くの方々にご迷惑をおかけしています。不可解な文言とパスワード、添付資料のついたメールは、送信者が誰であれ、添付資料を開いたり、返信したりせず、ただちに削除してください。

 5月18日(水)午後から怪しいメールが数多く着信するようになり、そのなかに親しい関係にある先輩研究者が含まれていました。その方のメールは断続して3本ありました。その日、私はゼミ生を引き連れて大学近くの民家を調査(実習・演習)していて、帰宅後、疲れてしまい、眠りに落ちました。
 一夜あけて19日の朝から、たまっているメールの対応に取りかかりました。当該の先輩研究者は「原稿を読んでほしい」とか「こういう目次はどうか」という依頼や質問をよくしてくる方で、今回もそういうメールだと思い込んでしまいました。zip形式の添付資料をデスクトップにダウンロードし、開いてみると、拡張子のついていないデータで、何度クリックしても開きません。別のメールでもういちど試してみたのですが、結果は同じでした。そこで、先輩に問い合わせのメールを返信し、さらにもういちど追伸のメールを送りました。
 その後まもなく数ヶ所からメールや電話で問い合わせがありました。私名義のおかしなメールが届いているというのです。ひょっとしてウィルスに感染したのかも、と思い、職場のメディアセンターに連絡したところ、とりあえずネットを切断するよう指示がありました。当該の先輩研究者にも電話しましたが、そのようなメールを送信したことはない、と言われます。慌ててメールアドレスを確認すると、アドレスが異なっています。同教授のアドレスはメール毎にすべて違っていることにようやく気づいたのです。アドレス名の未確認が最大の失敗だったと反省しています。午前中はネットを切断した状態で、午後の講義の準備をしました。パソコンは支障なく動きます。
 講義終了後、メディアセンターに駆け込み、ウィルスチェックを受けました。その結果、最新のトロイ系スパイウェアが検出されたのですが、「隔離」でも「駆除」でもなく、「処理が必要」と表示されました。その最新型をネットで検索してもでてきません。「処理」の方法が分からないのです。結果、当然のことではありますが、当該のパソコンはリカバリーになり、エディオンネットのメールはパスワードを変更し、送信不可の状態にしています。ただし、大学のアドレスやヤフーメールは健全であり、今使っているパソコンもウィルススキャンの結果、異常なかったので、こうして使用しています。正常に動きます。
 ちなみに、ウィルス駆除ソフトの結果によると、トロイ系最新スパイウェアがコンピュータに侵入したのは、19日7時47分頃でした。先輩研究者に返信したのが7時54~56分ですので、侵入時刻は添付資料を2度開こうとしていた時間と一致します。つまり、返信以上に添付資料への接触が危険だと考えられます。

 特定の人物を装う詐欺メールの特徴を示しておきます。

1)日本語の場合、短文でぶっきらぼう。添付資料を読めという指示とパスワードだけが記載されている。
2)英文など欧米系の文章は長文の例とともに、1)と同様の短文+パスワードもある。
3)メールアドレスは見覚えのない奇妙な文字列になっていることが多いが、盗まれたアドレスを使用している場合もある。
4)盗まれたアドレスが送信者になっている場合、過去の送受信メールの文言を本文に含む場合がある。これを見破るのは並大抵ではないが、不審な添付資料ならば開けてはいけない。

 今回のウィルス感染により、私のもっているメール情報(数百名のアドレス)が盗まれてしまいました。その結果、送信者と受信者はそのアドレスリストから自在に選択できるので、詐欺メールの送信者は私とは限りません。リスト内の全員が送信者にも受信者にもなりえます。実際、そのような被害が多発しています。
 もう少し慎重にメール対応すべきでした。皆様に深くお詫び申し上げます。

【追記1】 21日(土)の午後になって、不審なメールは著しく減り、夕方には全くなくなりました。私だけでなく、親族のパソコンやスマホも同様の傾向です。このまま沈静化することを祈っております。
【追記2】 先輩研究者によると、私が問合せする18日朝以前、印刷会社より同類の苦情の電話があり、その後、印刷会社から受信した対処メールが転送されてきました。その印刷会社と私には全く接点がなく、互いのアドレスを知りません。私のメールに印刷会社のメール情報は含まれていないのです。したがって、スパイウェアの主は先輩研究者のアドレスから私と印刷会社の情報を抜き取った可能性が高いと思われます。先輩研究者は、点検・修復のため、パソコンを業者に預けたそうです。


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2021年度科研実績報告(2本)

 科研実施成果報告のシーズンです。コロナ禍による海外渡航が叶わず、新旧2本の科研が重複しております。旧科研にはまた繰り越し金が発生しました。今年こそブータンでの調査を実施したいと願っています。以下、成果概要です。

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1.題目: ブータン仏教の調伏と黒壁の瞑想洞穴-ポン教神霊の浄化と祭場-
2.年度: 平成30年度~令和4年度   3. 研究種目名:基盤研究(C)一般 18K04543
4.成果概要:
 2021年度もブータンへの渡航は叶わず、国内での活動に終始した。2012年より始まったブータン調査に係る成果報告・論文・卒業研究・修士研究を集成して項目別に分けながらデータとテキスト・図版類を整理し、ブータン仏教空間論を主題とする単行本の出版のための準備を進めた。ポン教とチベット仏教に関しては、2020年度から収集した中国側の論文(西蔵チベット族自治区及び青海省・四川省・雲南省のチベット族自治州を対象)を読み進めた。また、2022年1月末に出版された熊谷誠慈氏(京都大学)の編著『ボン教-弱者を生き抜くチベットの智恵』は2020年3月の国際シンポジウムの成果であり、おおいに触発された。
 一方、奈良市疋田町でみつかった菅原遺跡「円堂」の復元に取り組んだ。円形の平面をもつ仏堂の遺構と推定され、日本建築史に類例がない。8世紀中後期に存続した菅原遺跡は『行基年譜』にいう長岡院の可能性が高く、行基が入滅した喜光寺の西1kmの丘上に所在する。円形に並ぶ柱穴と基壇跡が回廊・塀等によって囲まれており、法隆寺東院伽藍を彷彿とさせる。中心にある「円堂」も、基壇上の本体部分は八角堂であり、そのまわりに十六角形の土庇(裳階)をめぐらせている。こうした特殊な遺構の復元案を1案に絞るのではなく、A案(栄山寺八角堂を意識)、B案(薬師寺玄奘三蔵院八角堂・安楽寺八角三重塔等を意識)、C案(興福寺北円堂と法隆寺東院夢殿を意識)の複数案を併行して検討した。また、インドで流行した密教の影響は空海以前の奈良時代から始まっており、その代表的な遺産が東大寺の毘盧遮那仏・大仏殿だと捉え直すとともに、大仏鋳造を主導した行基が師匠の道昭(玄奘の弟子)やインド僧菩提遷那などを通して中後期密教の影響を受けており、その反映として、大野寺の土塔や菅原遺跡の円堂に「円」の造形があらわれた可能性があると推定した。






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よみがえる盃彩亭(3)ー廃材でつくる茶室と菜園の整備

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ハーブを植える

 5月10日(火)。普段より少し早く集まり裏山の茶室「盃彩亭」菜園にて、追加分の苗を3株植えました。先生が奈良から買って帰ってきたハーブ(ペパーミント1株、レモンバウム2株)を畝の隙間に植えました。日当たりを考慮して苗を全体的にずらしたのですが、まもなく先輩たちがあらわれて、全体の苗の位置を再調整されました。前回に植えた苗(獅子唐・唐辛子の類)を移植する際、確認したのですが、根がきっちり伸び出していました。一般的な畑に比べ日照や水はけが良い条件にあるとは言えないと素人ながらに 思っていたところ、目に見えた形で成長していて一安心です。院生の滅私さん曰く、ちびだったレタスも一回り大きくなっているそうです。


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茶室を測る

 今回の卒論ゼミのメイン活動は上記の茶室の実測・採寸です。来週おこなう河原宿の空き家T01家の実測に向けた演習です。講義の関係で先生と院生は少し遅れてくるとのことで、『民家の見方 調べ方』とにらめっこし、とりあえず書いてみることに。方眼紙に建物の枠取りをします。最初間違えてしまいましたが、大きさの基準と して半畳を10㎜×10㎜(1マス5㎜の方眼紙では2×2マスで半畳とすべきを、1×1マスで描いてしまい、先生から拡大修正するよう指示がありました。そして、枠に柱を描き、次に間仕切り建具を描きます。今回は壁と引き込み戸だけでした。最後に囲炉裏等も描き込みます。採寸は、柱間は柱などを部分で計るのではなく、通しの寸法をとるスキルを学びました。
 実測・採寸は初めての体験で、特に最初は先生がいない状態での挑戦で不安でしたが、ひとまず形にはできたと思います。自分たちで描いた実測図を基に、院生のテイさんと私はCADで清書します。テイさんはその日のうちに完成されました(私はまだ四苦八苦しています)。ご覧のように、いびつな形になっています。先生によると、これは茶室の4面ずべてで寸法をとったことによるそうです。直交2面だけにすると長方形もしくは正方形で表現できるとのことです。わたしは今、CADに苦闘していますが、手描きの平面図はもちろんCAD のスキルも磨き、手早く正確な図面を仕上げることのできるよう努力していきます。(4年 こしひかり)


0510茶室02実測01 0510茶室02実測02図面sam

茶室平面図ーテイ(1)
【テイ君のAUTO CAD】 心々寸法で描け、と指示したんですが、内法になってますね。要改善!


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ナターシャ・グジ- in キエフ(2)-折り鶴の論争

さだこの折り鶴


 5月11日(水)、合同ゼミでDVD「ナターシャ・グジ- in キエフ 」(2016)を鑑賞した。すべてのレポートを紹介するわけにはいかないが、今回はネット上で炎上した「折り鶴」の論争に焦点を絞り、いくつかの感想を掲載し、コメントで教師の私見を述べる。

大合唱した「故郷」の想い出

 DVDにもかかわらずグジーさんの歌声はとても美しく、生で聴いたら鳥肌が立つほど圧倒されそうな気がした。いくつかの曲を聴いたが、私が特に印象に残っているのはアンコールの「故郷(ふるさと)」である。私には、作曲者の岡野貞一が鳥取出身であることとは別に特別な思い出がある。「故郷」は中学時代に学年の合唱曲であった。
 私の出身中学(愛知)は、合唱に力を入れており、毎年ハイレベルなクラス対抗の合唱コンクールが開催されていた。ある時、宿泊合宿を利用し「故郷」を学年全体で合唱することが決まり、私たちはそれに向けて練習を重ねた。当日、300人で歌ったホール全体に響き渡る「故郷」のことを今でもよく覚えている。私は歌が苦手であり、練習が苦痛だった。しかし、「故郷」を通してみんなで歌うことを楽しめるようになり、合唱に対するイメージが変わるきっかけとなった。その後、学年集会や修学旅行、卒業式などイベントごとでは必ず「故郷」を歌った。そんな思い出の曲をグジーさんが歌っているのを視て、なんだか嬉しくなった。
 また、3月に東京のチェコ大使館で行われた「ナターシャ・グジー チャリティーコンサート for ウクライナ」では「翼をください」が歌われていた。この曲も私の好きな曲なので、出雲・鳥取コンサートではぜひ歌ってほしいと思う。

折り鶴のTPO

 折り鶴は日本の伝統文化である折り紙の一つである。今日では平和のシンボルと考えられ、多くの国々で平和を願って折られている。このように折り鶴が平和と結びついたのは、広島の原爆被爆から10年後に白血病で亡くなった少女、佐々木禎子さんが大きくかかわっている。禎子さんは、白血病の回復を願って包み紙などで鶴を折り続けたが、8か月の闘病生活の後、1955年に亡くなった。禎子さんの死をきっかけに、被爆死した子どもたちの霊を慰め平和な社会を築くための像をつくろうという運動が始まり、全国からの募金で平和記念公園内に「原爆の子の像」が完成した。今も「原爆の子の像」には日本国内をはじめ世界各国から折り鶴が捧げられている。
 このたびのウクライナ侵攻に係わる折り鶴の問題について、私はタイミングと場所を考えるべきであったと思う。この問題は岐阜や埼玉の団体がウクライナ大使館に千羽鶴を送ろうとしたところ、「千羽鶴を送るのは迷惑ではないか」という指摘があったことから始まった。その後、ニュースで取り上げられ、複数の芸能人が批判する事態となった。数多くの反応があり、私はその中で賛同できるものとできないものがあった。折り鶴は災害からの復興を願い、自治体に寄贈されることがある。しかし、東日本大震災など大規模な自然災害が多発する近年では、被災地に贈られる千羽鶴が、必要物資の供給を妨げる「ありがた迷惑」となるケースが発生している。送る側は善意と思って送るが、もらう側はどう感じているかわからない。日本各地から大量の折り鶴がウクライナ大使館に届いた場合、置き所に困ってしまう。保管場所がなくなり、処分しようとしても、千羽鶴はそう簡単に捨てられるものではない。また、戦時下のウクライナの人々が、千羽鶴を見てどう思うかわからない。


0511井上贈答品01 0511井上贈答品02
愛媛のOB月市くんからみかんジュースとタルトが送られてきました。DVD鑑賞後に全員でごちそうさま!

 批判の中には折り鶴自体を否定するものもあったが、私はそうは思わない。折り鶴は、ウクライナの戦災や平和について考える機会を与えてくれる大事なものである。もちろん、支援という意味では折り鶴ではなく、募金を通して食料などの必需品を届けるほうがよいだろう。折り紙に使うお金を送金すべきとの批判も少なくない。しかし、折り鶴を一方的に批判する人よりも、折り鶴の意味を理解している人たちのほうが、ウクライナのために行動を起こすと思う。
 また、キエフの国立博物館における「ピース・オン・ウイング」プロジェクトで日本とウクライナの文化交流があったように、折り鶴には様々な意味がある。このプロジェクトでは、日本とウクライナの子どもたちが折った鶴を交換した。折り鶴は、平和について考えるだけでなく、国と国をつなぐ文化の懸け橋となっている。以上のことから折り鶴は、平和の象徴や文化交流の懸け橋となるが、災害や軍事侵攻が起きた時は送る側の気持ちではなく、送られる側の気持ちを考えるべきである。もし、私が折り鶴を作るのならば、自分の活動場所となる建物の前など人目に付くところに飾る。平和を祈るとともに、より多くの人にウクライナへの関心を高めてもらうことを目的として鶴を折る。(院生 滅私)


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ナターシャ・グジ- in 出雲

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出雲からウクライナの人々へ

 ナターシャ・グジ-さんの出雲公演が来たる6月12日(日)、出雲市民会館で開催されます。今日チケットをネット販売で購入しました。大阪はソロの弾き語りでしたが、出雲は1部がソロ、2部がピアノ伴奏付きとなっています。

 詳細はオフィス・ジルカのホームページをご参照ください。
http://www.office-zirka.com/profile/index.html

 以下、公演の概要を転載しておきます。

6月12日(日)
出雲からウクライナの人々へ / ウクライナ支援
ウクライナの歌姫 ナターシャ・グジーチャリティーコンサート
【おすすめ公演】※120分2部構成(2部にピアノ)・発売中!
[ 出演 ] ナターシャ・グジー(歌・バンドゥーラ) / 小関基之(ピアノ)
[ 時間 ] 開場 13:30 開演 14:00
[ 料金 ] 3000円 ※未就学児童はご遠慮ください。 
    ※チケット代金は全額ウクライナへ寄付させていただきます。 
[ 会場 ] 出雲市民会館 ※島根県出雲市塩冶有原町2丁目15番地
[ 主催 ] 株式会社アリオン [ 後援 ] 出雲市
[ 申込・問合 ] チケット販売専用サイトを覧ください。
    ※お問合せは、TEL:050-3559-4066(受付:月~土9:00-17:00/祝日除く)
      Mail: 40year@arion.co.jp



↑「プーチンは舐められてる」って刺激的なテーマですね。廣瀬さんを呼んで講演してもらいたいとは思っているのですが、忙しすぎて無理だろな~きっと高いんだろうな~アゼルバイジャン研究の第一人者って、私の建築考古学みたいなもんじゃないのかな。ライバルがいない??


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蒼空への旅立ち(4)

sayonara(中川イサト)


SAYONARA

 黄金週間も終わってしまいますね。数日前、人生においてそうそう出会えないCDを手にしました。ほかならぬ、中川イサトさんの『SAYONARA』(1990)です。恥ずかしながら、イサトさんの作品は、CDが『1310』(1977)、DVDが『アローン』(2004)と『あの日の風-with 武蔵野レビュー』(2007)しかもっていませんでした。いずれも私が50歳代(10~15年前)に購入したものです。当時、相当数のソロギタリストの活動に耳を奪われており、ソリストとしてのイサトさんの相対的なポジションはさほど高くなかったのですが、その一方で、弾き語りに突出した魅力を感じていました。絶妙のミュートが効いたギター伴奏と低くて渋い声。とくにお気に入りだったのが『坂庭省悟トリビュートやくそく』(2006)に収録された「筑後川」です。単純なスリーフィンガーのようで、あの味は絶対に出せない。どうしたら、あのようなミュートが表現できるのか不思議でしたが、最近「小室等の新音楽夜話」での解説を聞いてようやく理解したしだいです。

 『SAYONARA』はソリストとしてのイサトさんの力量と幅広い音楽性が頂点に達した傑作だと思います。このころコンディションがとても良かったようで、その証拠となるライナーノーツのメッセージを抜粋してみましょう。

  もう随分ながい年月、音楽の仕事に携わってきたのですが、
  この“SAYONARA”のレコーディングほど夢中になった事は、
  これまで一度もありませんでした。コンディションにも因るのだろうけど、
  昨年('90年)の秋頃から自分のバイオリズムがピークの状態で持続していて、
  それがかなり影響しているようです。(略)
  それにしてもアコースティック・ギターって何んて奥の深い楽器なんでしょう。
  これからも追求し続けたいと思っています。(略)





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ウクライナ雑感(2)

ウクライナの風に吹かれて(ロゴ)43web ウクライナの平和を願う鳥取のチャリティ音楽活動をWWUT(ウート)と略称します。
義援金は在日避難民の支援に限定して送金する予定です。



 5月7日(土) 11:45に毎日新聞が配信した以下の記事に注目していただきたい。そもそもブチャの虐殺がロシア軍ではなく、ウクライナ軍の仕業であるというロシア(あるいは駐日ロシア大使館)のねつ造広報を、こうして慎重に検証しなければならないほどロシア擁護の意見が膨れあがっているところに問題があるのだが、あまり感情的にならないようにして読んではみたものの、コメントに相当数のロシア擁護論が蔓延していることに呆れ返る。その多くは、ロシア側のプロパガンダだが、そのプロパガンダに洗脳された「無知」な日本人も相当紛れ込んでいるようだ。

ロシア投稿のブチャ虐殺否定動画に矛盾 「死の通り」とは別地点
https://news.yahoo.co.jp/articles/8643b40d1954e9cfcc802b5e9a92ce514859b9e8

 コメントがロシア寄りか否かの判定は、「いいね(そう思う)」と「いやね(そう思わない)」の数に反映されている。今のところ、反露系の拍手が親露系の拍手の2~3倍あり、昨年の自民党総裁戦のコメントほど異常な事態には陥っていない。あのときはユーチューブも乗っ取られていた。現状、そこまでのロシア擁護には至っていないけれども、それでも露系プロパガンダとそれに洗脳されたコメントの多さには驚くばかりだ。どこかの組織が組織ぐるみで情報戦に加担していない限り、ここまで増えないのではないか、と想像している。これが有事の情報戦ということだろう。考えてみれば、先日のフランス大統領選で、EUの正統といえるマクロンが苦戦し、ロシアと連携した極右ルペンが票をのばしたのと少なからず似た現象なのかもしれない。

 そのフランスで一つ付け加えておくと、昨晩のNHKの報道で、人口統計論を駆使する歴史学者(名前を覚えていない)が、今後の予測は不可能だとした上で、以下の2点を重要な現状認識として掲げていた。
  1)ロシア軍が予想に反して著しく弱かったこと、核使用を棚上げにして
    戦力を比較すれば、NATO軍はロシア軍を恐るるに足る存在ではないと
    認識しはじめている。一方、
   2)ロシアの経済はしぶとく相当な耐性がある。ところが、EU側の経済は
    エネルギー供給停止の影響が大きく、脆弱であることが明らかになり、
    戦争が長期化すれば、むしろ欧州側が音を上げてしまいかねない。

 西側の経済制裁は、ロシアの全体主義政権を揺るがすと思っていたが、その影響をより強烈に受けるのは制裁を課した西側にあるとする見方が現実のものになったとしても、身内の分裂は避け、困窮に耐える必要がある。さもなければ、日本や東欧諸国への軍事侵攻がなされるかもしれない。

 以下の動画は大変説得力のあるインタビューであり、視聴をお薦めします。

元CIA諜報員がプーチン氏の“心を読む”(2022年5月7日)
https://www.youtube.com/watch?v=NEq5Ey0QDKw



1961年11月13日、ホワイトハウスでの演奏。平和を祈るカタルーニャ民謡「鳥の歌」はその後、数多の音楽家に受け継がれていくが、結局、カザルスに優る者なし。これが本物の音楽なのだと気付かされる。

ウクライナ雑感(1)




洗脳される若者たち

 昼の情報番組「ひるおび」で若い哲学者が「プーチンは確かに悪い。しかし、ロシア国民までも悪者にするのではなく、かれらとの融和や情報交換により、ロシアの専制体制を変えていくべき」という発言をした。そのとおりだと思う。しかし、こうした共産主義国家との交流にはつねに間諜の問題がつきまとう。とりわけ今回の騒動の場合、すでに世界を巻き込んでおり、その情報戦は身近なところにまで及んできたことを肌で感じている。おまけに、そうしたお庭番はロシア人だけではない。日本人にもいることを知っておかなければならない。
 最近、二人の若者から中立を装う発言を聞く機会があった。一人は学生であり、いま一人は某自治体議員を務めている大学のOBである。かれらの主張を箇条書きしておこう。
 1)いまは戦争状態にあり、プロパガンダをおこなって自国の正当性を主張しているのはロシアだけでなく、ウクライナも同じである。だから、メディアやネットで流れる西側の報道を真実として受け入れるのは危険であり、報道は出来るだけ視ないようにしている。あるいは距離をおいている。
 2)ウクライナのゼレンスキー政権はネオナチ、アゾフ大隊はそのシンボルであり、ロシア政府がこれらを駆逐しようとすることにも理がある。
 3)戦争をしている一方の側を支援し、義援金を送金することはできない。ウクライナは軍需産業で儲けており、大使館に送金した場合、何に使われるか分からない。県庁に置かれている募金箱もよくない。

 おおむねこういう意見であった。学生の意見は黙認したが、議員には反論した。1)については、まず「戦争」という認識が間違っている。戦争ならば、ロシアの国土でも戦闘が発生していいはずだが、95%以上の戦闘はウクライナ国内でおこなわれ、夥しい数の死傷者や避難民が発生している。これは明らかに「侵略」である。また、報道が偏っているというのなら、ウクライナ国民が自らのスマホで記録し発信した動画・写真をみた方がいい。そこには侵略の惨状がリアルに映し出されている。現地に赴き死と隣り合わせの状態で取材を続ける戦場カメラマンやジャーナリストの報道に敢えて目を背けるのは、侵略者であるロシアに与しているのと同じである。中立を保つために報道に接しないという態度では、いま起きている惨状の真実には近づけない。溢れかえる報道やネット情報の真偽を自ら見極める必要がある。
 2)については、2014年のクリミア半島侵攻以降のドンバス内戦において、親露派(分離派)と義勇軍の戦いが際だって印象的に歪曲されたものである(映画『ウクライナ・クライシス』がその状況を中立的に描いている)。アゾフ大隊はたしかにネオナチ的な指向をもつ極右勢力であったが、国軍に編入されて後はその傾向を薄め、近年はユダヤ教徒も大隊に加わっている。仮にアゾフ大隊がネオナチ/ネオコンであったとしても、国境を越えてロシアに攻め入ったわけではない。ロシアがアゾフを除去したいというのなら、ルガンスク・ドネツクの地域紛争にとどめるべきであり、首都キーウの陥落をめざす必要はなかったし、核兵器の使用をちらつかせて西側諸国を恫喝する必要もなかった。ロシアは最初からウクライナ全土を制圧し、傀儡政権の樹立をめざしていた。西側に近い旧ソ連の構成国をロシアの植民地にしようとしたのである。
 ウクライナという国家は全体主義的な思想をもっていないし、もちえない。ただただロシアの恐怖政治から逃れ、EU/NATOの民主主義勢力に参入したいという希望があり、そうした意向をもつ国民が選挙で選んだのがゼレンスキー大統領だということである。言い換えるならば、スターリン等に虐げられたソ連時代には二度と戻りたくないという強い意志をあらわしている。こうして選ばれたゼレンスキーをネオナチ/ネオコンと誹謗するプーチンこそが前世紀的な全体主義・覇権主義の独裁者であり、でなければ、21世紀のこの時代にあって隣国に侵攻するなどありえないことである。いま起きている事態は地域紛争ではなく、世界を破滅に導く狂った暴挙としかいいようがない。
 そもそもゼレンスキーは、ナチのホロコースト(大量虐殺)の対象とされたユダヤ人である。反ナチの典型というべき人物だが、ロシアのラブロフ外相は「ヒットラーにはユダヤ人の血が流れている」と失言し、あくまで「ゼレンスキー=ナチ説」にこだわった結果、イスラエルが激怒し、全世界のユダヤ人を敵にまわすことになった。
 3)の軍需産業で儲けているのはロシアの方である。北朝鮮に武器を供与している張本人であり、日本の最大の脅威になっている。県庁の募金箱に募金して、その義援金が大使館やウクライナ政府に渡るのがイヤなら、ユニセフでも国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)でもどこでも適切な機関に送金することだ。一千万人を超える避難民の生活(衣食住・雇用・言語習得等)の支援は緊急を要している。避難民が発生しているのはウクライナの側だけであり、ロシア国民は経済制裁の影響をいかほどか受けているだろうが、住む家を失っているわけではない。この現実一つをとってみても、このたびの騒乱は、双方対等の「戦争」ではなく、一方的な「侵略」であることは明々白々であろう。
 ちなみに、ロシアがウクライナに侵攻したのは、ウクライナがNATOに加わりたかったからではなく、NATOに所属していなかったからである。バルト3国やポーランドではなく、ウクライナが餌食となったのはそういう理由による。ウクライナとともに標的にされていたのが非NATO系の日本だということを重く受け止めねばならない。



人道回廊を通って避難する人々を狙い撃ちするわけですから、「停戦」と言われてもピンときませんね。



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ナターシャ・グジー コンサート in キエフ

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カザルスの「鳥の歌」

 メーデーの大阪公演で購入したDVD『ナターシャ・グジー コンサート in キエフ』を何度も視ています。このDVDは市販品ではありません。「連歌・鳥の歌」「ピース・オン・ウィング」の両プロジェクトに一定の賛同金を寄せた場合、1セット配布されることになっているのですが、グジ-さんのコンサートでは直売されるようです。入手できたことを幸運に思います。「連歌・鳥の歌」はチェロ奏者、パブロ・カザルスが歌いかけたカタルーニャ民謡「鳥の歌」を世界の音楽家が俳諧連歌のように表現していくプロジェクト、「ピース・オン・ウィング」はチェルノブイリ原発事故30年記念式典で日宇両国の子どもたちが折った折り鶴を交換するプロジェクトです。
 DVDは2枚組になっており、演目・演者は以下のとおり。

【Disc1】 1.Opening 2.鳥の歌 3.踊る娘 4.旅歌人〈コブザーリ〉  5.木の根
     6.斜影   7.彩雲    8.PANORAMA  9.アガイティーラ  10.鳥の歌 
     11.生命の旋律  12.白い翼  13.希望の灯  14.わがキエフ 
     《アンコール》 15.Shedrik  16.ふるさと  17.Ending
    @キエフ国立オペレッタ劇場 2016年4月26日
【Disc2】 
 1.鳥の歌  連歌・鳥の歌 2016年欧州ツアー@カタルーニャ・ウクライナ
   バルセロナ/アウディトリ Hall3  2016年4月22日
 2.チェルノブイリ30年・東日本大震災5年 式典
   ~禎子の折り鶴寄贈式・ウクライナと日本の子どもたちによる折り鶴交換式~
   @キエフ/国立チェリノブイリ博物館  2016年4月26日

 ナターシャ・グジー 〈ヴォーカル・バンドゥーラ〉
 金子 飛鳥 〈ヴァイオリン・コーラス〉
 井上 鑑 〈キーボード・ピアノ〉
 市川 慎 〈筝・十七絃〉
 吉田良一郎 〈津軽三味線〉



@国際連合本部、1971年
1961年のホワイトハウスでの演奏は こちら にアップされています。ケネディ夫妻が応対。ベトナム戦争(1955-1975)まっ盛り、キューバ危機はこの翌年(1962)です。


 

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ウクライナ支援コンサート@大阪

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なっちゃん、降臨

 5月1日(日)、大阪天満橋のエルシアターでナターシャ・グジーさんのバンドゥーラ・コンサートを聴いてきました。エルシアターはエル・大阪というビルの中にあります。エル(L)はlaborの頭文字、すなわち「労働」を意味しています。なるほど、メーデーにふさわしい会場ですね。和風に表現するならば、黄金週間の労働節に労働会館の劇場で、ウクライナ支援の慈善音楽会「ウクライナに平和を!」に参加してきたということです。
 会場には開場時間の12時半前に着いたのですが、ご覧のとおり(↓)、屋外まで長蛇の列(全席自由)。会場は満席、たぶん800人以上の聴衆で溢れ返っていました。コンサートのライブ自体、いつ以来だろう、10年ぶりぐらいじゃないか、と思うのですが、隣合う席に坐るのも3年ぶりです(床屋や講義室は1席あけ)。大阪だけでなく、先日の函館会場でも750名が集まったとのことであり、ロシアのウクライナ侵攻に関する国民の関心の高さが窺われます。事務局の側に立った場合、とくに重要な配布物はアンケート(↑↑右)だと思いました。コンサートの感想だけでなく、コロナ感染対策のための個人情報を必ず記入して、全員がボックスに投函する必要があります。私たちも鳥取ではこうしないといけない。


グジ-DSC_1263 グジ-DSC_1266


 13時開演。チケット購入時の予定にはなかったのですが、半時間ばかり前座の落語がありました。さごばさんのお弟子さん、桂塩鯛さんがおもしろい噺をされました。なんでまた平和を願うバンドゥーラ・コンサートに落語なんかな、と思うのは私のような田舎者だけなのかもしれません。大阪の方々には落語がうける。会場は笑いの渦に巻き込まれ、盛り上がりました。
 落語の真打を前座にして、いよいよコンサートの真打登場。白いブラウスと赤いスカートの民族衣装を身に纏ったグジーさんは、遠目からみても、抜群の存在感があります。オーラがちがう。司会の女性は「天使が舞い降りてきたような」と形容しました。たしかにその通りです。演目は以下のとおり。

1.キエフの鳥の歌
2.踊る娘
3.旅歌人(コブザーリ
4.いつも何度でも
5.涙そうそう
6.命はいつも生きようとしてる
7.防人の詩
8.わがキエフ
9.鳥の歌
《アンコール》
10.希望の大地
11.故郷(ふるさと)





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蒼空への旅立ち(3)




巨星オシム往く
 
 中川イサト、小坂忠に続き、イビチャ・オシムまで旅立ってしまった(享年80歳)。なんてこった・・・
 2007年に脳梗塞で倒れてから16年も経ったんだ。オシムは日本代表史上最も聡明な監督であった。あの知性に敵う人物はいない。いつも弱い者の側に立っていた。ユーゴ代表監督の時代、パルチザン・ベオグラードの監督も兼任していた。ダービーの相手、レッドスター・ベオグラードはトヨタカップを制するほどの世界的強豪で、綺羅星のようなスター選手を集めていたが、パルチザンは貧乏でスター選手は少なく、劣勢は否めなかった。にも拘わらず、五分以上の成績を残せたのはオシムの戦略・戦術が並外れて優れていたからである。ベッケンバウアーの信頼篤く、バイエルン・ミュンヘンの監督をオファーされるも断り、グラーツ、千葉などの弱小チームを次々と建て直してリーグ有数のチームに蘇らせた。日本代表も、そうした弱小チームの一つであり、オシムは日本人の特性を活かしたチームへと改革してくれるはずだった。上の動画をみるだけでも、日本に何が必要なのかがよく分かる。とくにコーチ陣の欧州での体験を増やせという指摘は鋭い。



最近いちばん驚いた動画です。身の回りに危険が及びませんように!


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浜湯山辣韮ドリーム(1)

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春爛漫-摩尼山・砂丘・ラッキョウ畑

 4月27日の夕刻近く、浜湯山のラッキョウ(辣韮)畑を突撃訪問した。ラッキョウの収穫・出荷は梅とほぼ同時期なので、たぶん6月であろう。間近に迫っている。今年どういうわけか、ラッキョウ畑の景観で卒論に取り組みたいと希望する学生がおり、先んじて現場を訪問し、農家の方に話をしておきたい、と思っていた。GW前に訪問するとしたら、この時間しかないと即断しての電撃訪問である。
 場所は懐かしい浜湯山。摩尼山を遠望できる。数ヶ所で作業をする農家の集団があり、さっそく畦をあるいて近寄り、草取りされているマダムに声をかけた。


0428浜湯山ラッキョウ畑01草取り02摩尼山02sam


 不躾かとは思ったが、遠慮無く、

  あのぉ、ボランティアで作業を手伝いたいという学生がいるんですけど、可能でしょうか?

と訊ねると、

  えっ、ただでいいんですか?

と驚かれる。もちろんいいんですけれども・・除草・収穫・出荷・流通・種蒔き・開花に至るまで作業をつきあいながらお話をうかがい、卒業論文にまとめることになります、と説明した。基本的に認めていただいたが、次回はGWあけに当該の学生を連れていき、ご主人にも説明することとなった。


0428浜湯山ラッキョウ畑01草取り02摩尼山01 0428浜湯山ラッキョウ畑01草取り02摩尼山03ひとでなしsam
遠景にみえるフタこぶ駱駝のような山が摩尼山です。左の低い峰が鷲ヶ峰、右の高い峰が山頂。


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プロフィール

魯班13世

Author:魯班13世
--
魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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