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第3回れきまち研究会「まちの里山資本主義」の記録(5)

第3回れきまち研究会【鼎談】

  天野 博之(河原町の文化を守る会)
  宗元 英敏(池中山光澤寺住職)
  浅川 滋男(司会=鳥取環境大学)
     

光澤寺での「宿坊」経営

 ○司会  本当におもしろいお話でしたね。私も昨夜「限界集落株式会社」の最終回をみまして、ああいう落とし方をするとは思いもよらず、うるるんときてしまいました。いま天野さんがスピーチされた内容と昨夜の「限界集落株式会社」最後の決断は非常に重なるところがあります。要するに、株式会社としてお金儲けすることよりも、限界集落の一人の仲間を救うことのほうが大事だという判断です。人こそがなにより大切だという発想なんですが、それと共通するお話をいま聞かせていただけました。
 私たちが外から、町を重要伝統的建造物群にしようとか、登録文化財を増やそうとか、余計なアドバイスをする必要もないかもしれません。行政に頼ったり、補助金もらって活用したり、なんて次元をすでに超越しておられる。
 これから八頭町(旧八東町)光澤寺の宗元英敏住職にご参加いただき、「鼎談」に移らせてうただきます。宗元さんはKDDIという都会のIT企業の戦士だった方です。その職を辞して故郷八頭町の光澤寺の住職になられました。光澤寺の経営も里山資本主義と言ってよいものだと思います。すでにある寺の資産を活かして「宿坊」の経営をされているのです。宿坊には、おもに県外からお客様がたくさんこられるようです。瞑想とか写経などの修行体験に加えて、宿坊宿泊と精進料理の提供をされています。その精進料理が、なんとイタリアンなんです。一食1,500円のイタリアン精進はとても美味しい。あっさりした西洋風の精進料理です。うちの研究室は3年生の歓迎会を光澤寺の宿坊でやらせていただきました。では、まず自己紹介を兼ねてそのあたりをお話しください。

若桜鉄道阿部駅04


 ○宗元  みなさんこんにちは。私、八頭町の八東というところにおります。若桜鉄道でいけば、丹比駅の近くです。若桜駅のひとつ手前。列車を乗り継ぐと倉吉までだいぶ遠かったですが、高速道路も整備されまして近くなったと思っていました。ところが、倉吉まで1時間半かかります。この会場に来る直前までエプロンをしていました。お昼に宿坊のお客様があったものですから、まず法話をして、ランチはイタリアン精進ではなかったのですが、要望があったもので、ビーフシチューとかいろんなセットをお出しして、全部配膳を出し切って慌てて車に乗ったというのが実情です。
 ご紹介にありましたように、私、生まれてから八頭高までは地元におりまして、大学から関西に行って、会社を転々として、KDDIの本社で営業マネジャーをやっていた経緯があります。45歳でやめて、光澤寺に入りました。光澤寺に入ったら期待されていなかったというのがよくわかりました。帰る前は期待されているかなと思いましたが、期待されていない。そして、高齢化が予想以上に進んでいる。空き家が多い。1年に1回、報恩講にお参りすると、跡継ぎが誰もいない。これはもう私の代でも危ないし、5年10年もたないかもしれない。このままではいけないと思って宿坊を始めたのですね。宿泊者はほとんど県外からです。
 テレビで何回か紹介していただいたこともあり、最近は日帰り客が増えています。公民館、婦人会、老人会、警察官とか環境大学のフィールド演習とか、去年だけでもいろんなところから400~500人来られています。宿泊者以外に、です。この会の主題は「まちの里山資本主義」ですけれども、町にはお寺という資産がたくさん眠っています。公民館とかいろんな会場があるけれども、お寺には本堂がある。外国の方はお寺が大好きですから、本堂などを有効活用すれば、とても興味を示します。お寺に来てお経を読んで仏さんを拝むなどの体験をしたら、それだけでとっても喜ばれます。
 国内のお客さまとしては、20~30代がいちばん多い。宿坊を始めるときは50代以上が大半を占めるだろうと予想していました。ところが、20~30代の女性一人旅が東京から何人も来られます。今は心が揺れ動く時代です。そういう情緒不安定の時代に、若い方がお寺を訪れる。50~60代の女性も多いです。なぜかというと、いろんな人生の苦しみが固まってくる年齢なのでしょうね。そういう苦しみを解放する場所としてお寺が選ばれる。30歳前後の女性と50~60代の女性の一人旅がいちばん多いという事実は、宿坊をやって初めてわかったことです。まだ始めて3年目ですけれども、すでに9ヶ国の外国人が宿坊に泊まられています。そういうことで、町には意外といろんなものが眠っているような気がします。そういうことについて、今日みなさんとお話しできればいいと思います。



悟りのまち

 ○司会  お寺といえば、私とか眞田会長(倉吉文化財協会)は、職業柄、建築や美術品ばっかりみてしまう。その結果、お寺の建造物を指定文化財にしようとか、登録文化財にしよう、という発想でとまってしまうのです。ところが若い人は「文化財」そのものにはあまり興味を示さない。光澤寺になぜ人が集まるかというと、宗元さん自身の言葉をお借りしますと、「心のよりどころ」なのですね。生きていくことに不安で仕方がないアラサーの女性とか、私たちのような世代の人間がお寺に集う。瞑想とか写経をして精神を安定させたい。
 一方、天野さんのスピーチを聞いて思うに、「河原町の文化を守る会」のメンバーはすでに悟りを開いておられますね。地蔵菩薩の御利益かもしれませんが、自分の身近にある日々の生活こそが幸せであると言われる。禅宗の「日々是好日」とか「吾唯足知」の実践者としか言いようがない。幸せはこの町にあるという自覚があるのは素晴らしいことだと思います。
 ○天野  そうですね、いい人たちに囲まれていますから。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される、意地を通せば窮屈だ。ご存じのように、漱石の『草枕』の冒頭ですが、だからと言って、人の世ではない人でなしの国はもっと住みにくいわけです。そんなことを言っていたら住む場所はなくなってしまう。ここにいるからには、どのようにして活きいきと楽しく生きるかということを考えたほうがよっぽどいいのではないか。そのうちに仲間もできてきます。そういう発想です。

サブシステムとしての里山

 ○司会  光齢者の件ですが、経済的にわりあい安定しているからそういう境地になるのであって、たとえば、もし若い人を迎えるようになった場合、まったく儲けないというのでは済まないことになってきますよね。
 ○天野 『里山資本主義』の中に「里山資本主義だけでやっていこうというのはとても無理だ」と書いてあります。里山資本主義というのはあくまでマネー資本主義のサブシステムだと考えなさいというのです。ですから、儲けるときは本気になって仕事しなければいけないし、それから、やはり心のつながりとか、そういうお金では買えないものをサブシステムに求めなさいということですね。たとえば、真庭でバイオマス燃料を利用して発電所を起こしたとしても、それで日本中のエネルギーが全部賄えるはずはない。しかし、小さな地域でそれをすれば、廃棄物や副産物で得られるエネルギーで地域のエネルギーはなんとか賄える。そういう認識でやっていかないといけません。里山資本主義だけで365日3食食っていくというわけにはまいらないと思いますね。

踊ってのたれ死に

 ○司会  宗元さんにもお聞きしたいのですが、宿坊経営によって儲けなければいけないという問題がありますね。それとも、宿坊はサブシステムでいいとお考えなのでしょうか。
 ○宗元  そうですね、宿坊もサブシステムで始めているというイメージです。あくまでもお寺を生かす、そして次の世代にお寺を残すための方策の一つとして。周辺の地域は高齢化と独居化が進んでいます。衰退していく村や町を、その衰退した状態でもしっかりと支えていくシステムが欲しいと思っています。人口減少が猛烈な速度で進行しています。隣の若桜町の人口はいま3,500名です。それが2040年には1,700名になる。半分以下ですね。町として成り立たないのがわかっている状態の中で、それでもそこに住んでいく人たちを支える仕組みはないのかということから宿坊の発想が生まれています。お寺というのはお布施で成り立っているのだったら、そのお布施を還元していくシステムをつくろう。お寺が衰退して、今の私のお寺ではもう食べられません。夫婦2人でも食べていけません。それでもそこに残って、サラリーマンをやめてまた兼業するのもおかしい。では、お寺に残って、そこでやっていける仕組みは何かと考えたとき宿坊が浮かんだ。ですから、宿坊はまだ投資のほうが先に出ていますから、退職金を切り崩してやっています。いつか黒字になるかもしれませんが、儲からなくてもいいとじつは私も思っています。人が来てくれるだけでいい。お寺が有名になれば県外に出ていった檀家さんも喜んでくれるだろう。そして、八東に残られている方も勇気が湧くだろう。自分のお寺がどこですかと訊ねられたら「光澤寺です」と答えるときに「ああ知っている」と言ってもらえるほうが良いに決まっています。そのために私はやっているのであって、いざとなれば、もうお釈迦様も野たれ死にですからね。最後は下痢で道に倒れて阿難に寄り添われて死んだのがお釈迦様ですから、私もそれでいいと思っています。
 そういう面では先ほど天野さんが言われた「ばか者」になろうということなんですが、幸い若桜鉄道の社長として去年から「よそ者」が着任されました。結構くだらない企画をやって、ようやるわと思う企画が注目を浴びて、私もこの格好で観光ガイドをやらせていただいています。毎週土曜日とかあいているときを狙って観光ガイドに行って、「よそ者」に「ばか者」も加わって一緒に踊りましょうかということを、昨日もフェイスブックで大議論になりました。町議会議員さんも加わっての大議論がたまたま昨日もあったのですが、どうせやるなら、踊って野たれ死んでもいいではないかというのが私の感覚です。【続】


【これまでにアップしたサイトです】
 第3回れきまち研究会の記録(1) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-995.html
 第3回れきまち研究会の記録(2) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-997.html
 第3回れきまち研究会の記録(3) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1005.html
 第3回れきまち研究会の記録(4) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1010.html


若桜鉄道阿部駅02
↑若桜鉄道安部駅。「男はつらいよ【44】寅次郎の告白」(1991)の舞台となった若桜鉄道の駅舎です(登録文化財)。今回以降の写真はすべて安部駅です。

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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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