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遊牧の彼岸-アムド高原の青い海(Ⅰ)

0916黄河源流01 黄河源流域


黄土高原とアムド大草原
 
 中国にいるとおかしくなる。腹を下しているわけでもないのに、午前だけで5回も厠に通うからだ。それは、胆嚢のない御前が中国の油を消化しきれないからだろうと勘ぐる貴方は間違っています。ケントがこういう症状に悩まされたのだ。唐辛子とラードの油質に日本人の消化系器官が適応しきれないのであろうか。 
 細かいことを言えばきりがない。4年ぶりの中国は変わったようで相変わらずのところである。日本からの旅客は確実に減少している。今の中国ではリピーターが増えるわけはない。しかし・・・すべてチャラです。笑って許しましょう。青海湖をみたから全部帳消し。峠から青海湖を眺め、言葉を失った。青海省に行って本当に良かった。


0916東関清真大寺01 東関清真寺(モスク)


 アムド(東北チベット=おもに青海省)はチベットもしくはヒマラヤを介してブータンと真反対の位置にある。風土は根幹から異なっている。ブータンはベンガル湾のモンスーンを受け入れて雨季と乾季の明瞭な東南アジア的気候であり、生態系も多様である。一方、アムドは乾燥冷涼の高地大草原で、もちろん草花に覆われているのだが、ところどころに露出している地層断面をみると、黄土高原との親近性を強く感じさせる。黄土高原が標高2500~3000mまで平行移動し地表に薄い緑の膜を張った茫茫たる無限大の彼岸である。
 青海省は新疆ウイグル自治区とともに「羌」の故郷である。羌とは羊を飼う遊牧民のこと。中原の文明と敵対した西方の騎馬遊牧民のようで、じつは中原文明の成立に大きく貢献している。中国最初の統一国家「秦」の兵馬俑の軍人たちこそまさにに「羌」の一群だと言う人もいる。最終日に参観した青海省博物館で最も驚いたのは、黄河中流全域に特有な仰韶(ヤンシャオ)文化が甘粛省を超え、青海省の西寧近辺まで及んでいることであった。紀元前5千年代から中原と青海省には文化的な交流ないし同一性が存在したということである。
 鍵を握るの黄河であろう。西寧から同仁に至る途中、黄河の源流域と交錯した。河岸におびただしい数の羊がいる。遊牧民はただ草原を移動しているのではない。古典に「水と草を逐う」と記されているとおり、草原と川(水流)のあるところを巡りめぐっているのだ。ここでもまた「流域」という地理的概念が文化的同一性の背景として厳然とある。


0916蓮華生大師(パドマサンバヴァ)タンカ01 0916蓮華生大師(パドマサンバヴァ)タンカ
↑蓮華生大師(パドマサンバヴァ)@青海チベット文化博物院 ↓白馬寺 
0916白馬寺01
 

0916青海省文物考古研究所01 省文物考古研究所門前にて


 大草原は緩やかに起伏する。ヒマラヤ山麓の急峻な岩山とはちがって、崖があまりない。したがって、調査対象であるところの崖寺や洞穴をさがすのは容易ではなかった。しかし、この地で「瞑想」修行が軽んじられたわけではない。チベット~アムド地域に密教を伝えたのもパドマサンバヴァ(ブータン側でいうグル・リンポチェ)である。チベット仏教は顕密併習を原則とするので、広大な寺院の境内は顕教のエリアと密教のエリアに分かれる。密教のエリアに外部者は入れない。そこは修行の場であり、おそらく瞑想や呪術の訓練をしているのであろう。そうした苦行僧を「活仏(生き仏)」と呼ぶ。現地で何度も「活仏」という言葉を耳にしたが、それがどんな存在なのか、わたしはまだ知らない。


0916白馬寺02修行洞01 0916白馬寺02修行洞02


白馬寺の修行洞

 9月16日(水)@省都西寧。午前に青海チベット文化博物院(医学博物館)、金塔寺、イスラム寺院を見学した後、午後一で青海省文物考古研究所へ。1998年に半年間奈良に滞在経験のある肖永明副研究員(考古学・43歳)、張君奇研究員(建築史・66歳)と面談した。二人は、わたしたちの研究主題が「瞑想洞穴」であることを知り、驚いたようだ。「瞑想洞穴」は中国語で「修行洞」という。こういう用語があること自体、「瞑想洞穴」の存在を否定できないわけだが、二人とも調査の遂行は簡単ではないだろうと言う。しかし、口頭およびデジタルデータの両面で重要な情報をご提供いただいた。1週間旅した結果、灯台もと暗しで、西寧の近郊に崖寺・修行洞が少なくないことが分かった。西寧市内の北山寺、互助県の白馬寺などである。
 16日は白馬寺を経由して同仁(レゴン)まで移動。白馬寺は唐代開山の崖寺で、廃絶した修行洞の痕跡を3ヶ所確認できた(↑)。測量できないわけではないが、国家文物局の許可が必要ということになればやっかいではある。


0916白馬寺02修行洞04


回転火鍋

 同仁の夕食で「回転火鍋」を初めて経験した。カウンターにIHコンロが座席分だけセットされ、着席すると、小さな鍋がそこに置かれる。目の前のキャタピラには数十種類の鍋具材がぐるぐる回っているのだ。具材は基本的に串刺しで、サランラップを巻いている。タレは10種類以上あり、客は好みで自分の好きな味にする。摂氏100度の高熱で煮沸されるので、滅菌によろしく、加えて薬味にすり下ろし大蒜をいれれば、胃腸での消化・殺菌に効果がある。ものすごく美味しいわけではないが、決してまずくはない。日本で回転火鍋店を開けば、そこそこの利益が期待できるのではなかろうか。
 以上が二日めまでの活動である。


0916白馬寺02修行洞03
↑ こちらも修行洞?  ↓回転火鍋(同仁)
0916回転火鍋01 0916回転火鍋02

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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