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南斯拉夫紀行(Ⅲ)

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モスタルの黒い雨

 モスタル訪問では、夕刻から黒い雨にたたられた。古橋の石段は滑りやすく、石畳の道に雨水が溢れた。カフェで雨宿りするしかない。スピーカーからブルースが流れていた。いつものように、熱いミルクを添えたエスプレッソを注文する。気づくと、奥の席にもうひとり客がいて、煙草を燻らせながらエスプレッソを啜っていた。人なつこい顔をした青年で、かれの方から声をかけてきた。日本人だよ、と答えると、かれはパレスチナ人だと自己紹介した。

  「16日かかって、やっとここまで来たのに、この雨さ・・・」

 パレスチナから16日を要してボスニア・ヘルツェゴビナにたどり着いたのだ。「難民」という言葉が頭を掠める。たしかにバルカンは、中東からトルコを経由して西欧に至る移動ルートの一つである。とりわけボスニアは、歴史的にみればオスマン・トルコの飛び地のようなものであり、中東のイスラム勢力にしてみれば、西欧寄りにある安息の地なのかもしれない。


0323モスタルじどり01 モスタル


シベニクの半旗

 このたびのバルカン渡航に家族は反対していた。3月13日にトルコの首都アンカラ、19日にはイスタンブールで自爆テロがあった。トルコでのテロは昨年末から何度も繰り返されている。わたしたちの搭乗するターキッシュ・エアラインは往路・復路ともにイスタンブール空港を経由することになっていた。そして、訪問地のバルカン半島自体が避難民の重要な移動ルートである。外務省から渡航不可の通知があったり、旅行社から催行中止の伝達が届いても不思議ではない。家族の不安は募る。「少し危なっかしいぐらいが面白い旅になるんだよ」と説き伏せはしたが、正直に告白するならば、少々不安なところもあり、旅行保険の額をかなり引き上げた。そして、アルバニアに到着した22日、ブリュッセルで悲惨な爆破テロ事件が勃発する。


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 ガイドは一連のテロ事件に言及するのを控えていた。しかし不問に伏したままでいられるわけはない。3月25日のシベニク(クロアチア)で重い口をようやく開いた。駐車場から世界文化遺産「聖ヤコブ大聖堂」に向かう途中に市庁舎があり、門前に国旗・州旗・市旗が掲揚されていた。本来それらはポールの上まで押し上げて強い風に棚引かせるものだが、市庁舎の旗はポールの中間にとどまって、弱々しく頭を垂れている。これを「半旗」という。反旗を翻すの「反旗」ではなく、半旗を掲げるの「半旗」である。「弔旗」と言い換えてもいい。クロアチア政府と人民がブリュッセルの被害者に対して哀悼の意を表しているのである。


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↑シベニク市庁舎前の半旗


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ネコノミクスの街

 物騒な世相のなかで、「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれるバルカンを旅してきた。セルビアをロシアとすれば、クロアチアはイタリア、スロヴェニアはオーストリア、ボスニアはトルコのような国だと感じた。そうした地域に民族対立、宗教対立、共産主義、スラブ覇権主義などの火種が燻り続けてきたが、いまようやく小さな平和を享受し始めている。愚かなことを言うものだとお叱りを受けるかもしれないが、わたしは古い町並みに隠れ潜む「猫」たちが平和のシンボルに思えてならなかった。
 モンテネグロにも、クロアチアにも、ボスニアにも、スロヴェニアにも猫がいた。猫は人を恐れない。旅人は猫を発見すると、驚喜して近づき、写真を連写する。土産物店には、猫の図柄をあしらったグッズが並ぶ。キーホルダー、ハーブ石鹸、グラッパのグラス・・・何にでも猫がデザインされ、飛ぶように売れていくではないか。ネコノミクスは日本国内だけでなく、全世界的な現象なのだという思いを強くした。
 そして、倉吉に想いを馳せる。登録文化財から県の保護文化財に格上げされた河原町の旧小川家住宅を「小川記念館」として再生させる事業が本格化し、2年後に開館する予定だという。人口減少と高齢化に苦しむ河原町・鍛治町にとって久々の朗報であるけれども、わたしは一つだけ杞憂を抱いている。小川家環翠園にたむろする多くの猫たちは歴史遺産の整備によって住処を失ってしまうのではないか。あの猫たちはいったいどうなるのであろうか。


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 2005年のことである。東大寺転害門に野良猫が50匹ばかり住みついて、お寺が困っているという話題をワイドショーが取りあげた。そこで、強気の評論家が「ホームレスだって強制退去させられるのに、野良猫をどうして追い払ってはいけないのか。国宝で世界遺産の建造物を守るのは当たり前で、動物愛護がそれに優先されるなんて、本末転倒もはなはだしい」と激昂・批判した発言に対して反論したところ、多くの拍手を頂戴した(http://asalab.blog11.fc2.com/blog-entry-40.html)。文化財もペットも人類の生存に直結するわけではなく、生活を側面から支えるものであり、その点で両者の価値は等価であることを主張しただけのことなのだが。
 小難しいことはさておき、倉吉の一大風景地であるところの鉢屋川と五叉路に似合うものは歴史的な町並みばかりではない。まずは地蔵、つぎに鯉、そして猫を忘れるわけにはいかない。ネコノミクス全盛のこの時代、猫を大事にして、猫の名所を確保し、猫のグッズを制作してみては如何なものか。そうすることで、新しいご利益が地蔵のまわりに出現するような気がしている。【完】


160310 小川家住宅記念館へ 公民館便り28年4月号pdf_01
↑セルビア対ボスニアの戦いです。

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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