平成27年度 科学研究費 実績報告
科研最終年度(2015)の実績報告です。
1.研究題目: チベット系仏教及び上座部仏教の洞穴僧院に関する比較研究
2.種目・課題番号: 基盤研究C 25420677
3.補助事業期間: 2013~2015年度
4.研究費総額: (直接経費)4,000,000円 (間接経費)1,200,000円
実績概要
本研究は上座部仏教の洞窟僧院、チベット系仏教の洞穴僧院を研究対象としている。前者については、科研採択前の2011年におこなったラオスとミャンマーでの踏査をふまえ、2年度(2014)にミャンマーのピンダヤ及びシュエウーミン洞窟僧院を視察した。いずれも小型の鍾乳洞をおもに礼拝窟とするもので、夥しい数の寄進仏を窟内に安置するが、その一部に瞑想窟を含む場合もある。一方、チベット仏教ドゥック派を国教とするブータンでは、瞑想場としての崖寺(Drak Geompa)が各地に造営されており、中心的礼拝施設ラカン(本堂)から離れた崖の洞穴に瞑想施設(ドラフ/チャムカン)を営む。規模の小さい洞穴を利用し、その正面に懸造の掛屋を設けるだけの素朴な施設だが、密教修行の根幹をなす瞑想の場として現在なお重要な意味を担っている。そもそも、ドゥック派が全土を制圧して国家形成がなされる17世紀以前、瞑想場に本堂ラカンは存在せず、ただ瞑想洞穴だけがあって、僧侶たちは長期間の瞑想修行に没頭していたとされる。現在でも、若手の僧侶は修学時に3年3ヶ月3日の瞑想を窟内で続けることが必須とされる。一日の睡眠時間は5時間前後、軽食を2回とる以外はひたすら瞑想に集中する。この修行を終えることで一人前の僧侶とみなされるが、その後、長期の瞑想を継続する場合も少なくない。
こうした瞑想と瞑想洞窟の実態を理解するため、初年度(2013)は西ブータン、2年度(2014)は東ブータンと中央ブータン、3年度(2015)は中央ブータンと西ブータンで計15ヶ寺の調査をおこなった。昨年度の対象はダカルポ・ヨウト寺(パロ)、ケラ尼寺(パロ)、タンディネ寺(ティンプー)、レモチェン寺(タン)の4寺である。ブータンでは仏堂の内部の撮影等が原則禁止されているので、前年(2014)までと同様、おもに崖寺境内の屋根伏配置図の測量をメインにおき、必要に応じて、内部の略測等もおこなった。2014年までと異なるのはヒアリング内容である。従来は崖寺の縁起等の聞き取りにとどまったが、昨年は瞑想体験を中心とする僧侶のライフヒストリーについての長時間の聞き書きをおこなった。こうした情報収集を今後も続けていきたい。
このほか、ソンツェンガンポ王による吐蕃建国時(7~8世紀)に造営したと伝承される中央ブータンのジャンバラカンで、本堂内陣中央柱から放射性炭素年代測定サンプルの採取に成功した。その成果は1632-1666 cal AD (信頼限界74.4%)である。吐蕃の年代ではなく、ドゥック派による国家形成期を示した点、大変興味深い。かりに瞑想場としての成立が吐蕃時代にまで遡るにしても、現在の本堂は国家としてのブータンが誕生して以後のものである可能性が高まった。
2014年からはクンサン・チョデン女史のブータン民話に係わる著作の翻訳にも着手している。クンサン女史はブータン初の女性作家であり、民話研究の第一人者である。2015年9月にはウゲンチョリンの実家(現在は民俗博物館)でクンサン夫妻に面会し、翻訳成果を謹呈した。現在、正式な出版にむけて準備中である。民話の解読をとおして、元は遊牧民であった人びとの世界観と仏教の無常観との係わりを導きだしたいと思っている。
研究成果
1.論文
吉田健人・浅川滋男(2015)
「ブータンの崖寺と瞑想洞穴」『公立鳥取環境大学紀要』第14号:pp.51-70
2.発表
大石忠正・武田大二郎(2016)
「ブータン第4次調査速報」
第1回 仏ほっとけ会(摩尼寺・大雲院仏教講座)
2016年2月21日 @大雲院本堂
3.図書
クンサン・チョデン(浅川研究室訳 2015)
『メンバツォ -炎たつ湖』公立鳥取環境大学保存修復スタジオ
クンサン・チョデン(浅川研究室訳 2016)
『心の余白 -私の居場所はありませんか?』公立鳥取環境大学保存修復スタジオ
4.web
「スケッチ・オブ・ゴンパ -第4次ブータン調査」(1)~(10)
公立鳥取環境大学保存修復スタジオのブログLABLOG 2Gに掲載。
http://asaxlablog.blog.fc2.com/
1.研究題目: チベット系仏教及び上座部仏教の洞穴僧院に関する比較研究
2.種目・課題番号: 基盤研究C 25420677
3.補助事業期間: 2013~2015年度
4.研究費総額: (直接経費)4,000,000円 (間接経費)1,200,000円
実績概要
本研究は上座部仏教の洞窟僧院、チベット系仏教の洞穴僧院を研究対象としている。前者については、科研採択前の2011年におこなったラオスとミャンマーでの踏査をふまえ、2年度(2014)にミャンマーのピンダヤ及びシュエウーミン洞窟僧院を視察した。いずれも小型の鍾乳洞をおもに礼拝窟とするもので、夥しい数の寄進仏を窟内に安置するが、その一部に瞑想窟を含む場合もある。一方、チベット仏教ドゥック派を国教とするブータンでは、瞑想場としての崖寺(Drak Geompa)が各地に造営されており、中心的礼拝施設ラカン(本堂)から離れた崖の洞穴に瞑想施設(ドラフ/チャムカン)を営む。規模の小さい洞穴を利用し、その正面に懸造の掛屋を設けるだけの素朴な施設だが、密教修行の根幹をなす瞑想の場として現在なお重要な意味を担っている。そもそも、ドゥック派が全土を制圧して国家形成がなされる17世紀以前、瞑想場に本堂ラカンは存在せず、ただ瞑想洞穴だけがあって、僧侶たちは長期間の瞑想修行に没頭していたとされる。現在でも、若手の僧侶は修学時に3年3ヶ月3日の瞑想を窟内で続けることが必須とされる。一日の睡眠時間は5時間前後、軽食を2回とる以外はひたすら瞑想に集中する。この修行を終えることで一人前の僧侶とみなされるが、その後、長期の瞑想を継続する場合も少なくない。
こうした瞑想と瞑想洞窟の実態を理解するため、初年度(2013)は西ブータン、2年度(2014)は東ブータンと中央ブータン、3年度(2015)は中央ブータンと西ブータンで計15ヶ寺の調査をおこなった。昨年度の対象はダカルポ・ヨウト寺(パロ)、ケラ尼寺(パロ)、タンディネ寺(ティンプー)、レモチェン寺(タン)の4寺である。ブータンでは仏堂の内部の撮影等が原則禁止されているので、前年(2014)までと同様、おもに崖寺境内の屋根伏配置図の測量をメインにおき、必要に応じて、内部の略測等もおこなった。2014年までと異なるのはヒアリング内容である。従来は崖寺の縁起等の聞き取りにとどまったが、昨年は瞑想体験を中心とする僧侶のライフヒストリーについての長時間の聞き書きをおこなった。こうした情報収集を今後も続けていきたい。
このほか、ソンツェンガンポ王による吐蕃建国時(7~8世紀)に造営したと伝承される中央ブータンのジャンバラカンで、本堂内陣中央柱から放射性炭素年代測定サンプルの採取に成功した。その成果は1632-1666 cal AD (信頼限界74.4%)である。吐蕃の年代ではなく、ドゥック派による国家形成期を示した点、大変興味深い。かりに瞑想場としての成立が吐蕃時代にまで遡るにしても、現在の本堂は国家としてのブータンが誕生して以後のものである可能性が高まった。
2014年からはクンサン・チョデン女史のブータン民話に係わる著作の翻訳にも着手している。クンサン女史はブータン初の女性作家であり、民話研究の第一人者である。2015年9月にはウゲンチョリンの実家(現在は民俗博物館)でクンサン夫妻に面会し、翻訳成果を謹呈した。現在、正式な出版にむけて準備中である。民話の解読をとおして、元は遊牧民であった人びとの世界観と仏教の無常観との係わりを導きだしたいと思っている。
研究成果
1.論文
吉田健人・浅川滋男(2015)
「ブータンの崖寺と瞑想洞穴」『公立鳥取環境大学紀要』第14号:pp.51-70
2.発表
大石忠正・武田大二郎(2016)
「ブータン第4次調査速報」
第1回 仏ほっとけ会(摩尼寺・大雲院仏教講座)
2016年2月21日 @大雲院本堂
3.図書
クンサン・チョデン(浅川研究室訳 2015)
『メンバツォ -炎たつ湖』公立鳥取環境大学保存修復スタジオ
クンサン・チョデン(浅川研究室訳 2016)
『心の余白 -私の居場所はありませんか?』公立鳥取環境大学保存修復スタジオ
4.web
「スケッチ・オブ・ゴンパ -第4次ブータン調査」(1)~(10)
公立鳥取環境大学保存修復スタジオのブログLABLOG 2Gに掲載。
http://asaxlablog.blog.fc2.com/