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2013-2015科研費の研究成果報告

1.研究種目審査区分: 基盤研究C
2.領域または細目:  5804
3.研究課題名:

  チベット系仏教及び上座部仏教の洞穴僧院に関する比較研究
  Comparative study on the cave monasteries of Tibetan Buddhism and Theravada Buddhism

4.研究課題番号: 25420677
5.研究年度: 平成25~27年度
6.研究成果の概要:
 ブータン高地では崖寺が各地に造営されており、本堂ラカンから離れた崖に瞑想洞穴を営む。17世紀の国家形成以前、僧院に本堂は存在せず、ただ瞑想洞穴だけがあって、僧侶たちは長期間の瞑想修行に没頭していた。その伝統は今も受け継がれている。こうした瞑想洞窟の実態を理解するため計15ヶ寺で調査した。ソンツェンガンポ王による7世紀の吐蕃建国時に創建したと伝承される中央ブータンのジャンバラカンでは、本堂内陣中央柱から放射性炭素年代測定サンプルの採取に成功した。その成果は1632-1666 cal AD (信頼限界74.4%)である。吐蕃の年代ではなく、ドゥック派による国家形成期を示した点、大変興味深い。
【キーワード】 ブータン チベット仏教 密教 瞑想 洞穴 懸造 崖寺 民話

 abstract:  Cliff monasteries are constructed at the several districts in Bhutan highlands and the meditation caves are established on the cliffs apart from the main hall called lakhang. The monasteries had not the main hall , but only meditation caves and the monks were devoted to long-term meditation practice at the caves before 17th century when the nation state was founded. Its tradition have been inherited to nowadays. We have investigated 15 monasteries in total to understand the actual situation of such meditation caves. In Jambay Lakhang monastery, which was transmitted to have been constructed by Srongbtsansgampo at the time when Tufan ancient Tibetan dynasty was founded at 7th century, we succeeded to get the sample of radio-carbon dating from inner sanctum central pillar of the main hall. The result is 1632-1666 cal AD (reliable limit 74.4%). It is very exciting that the result points not the foundation time of Tufan dynasty, but the time after the foundation of Bhutan national state.
【Keyword】 Bhutan Tibetan Buddhism Esoteric Buddhism Meditation Caves Overhang style architecture Cliff monastery Folktales



1.研究開始当初の背景
 石窟寺院の起源と展開については、大乗仏教の拡散地域を対象に研究が蓄積されており、筆者は懸造と複合する日本の岩窟・岩陰型仏堂と中国石窟寺院の系譜論的比較研究を進めてきた。一方、チベット系仏教の洞穴僧院や上座部仏教の洞窟僧院に関する研究は手つかずの状態にある。瞑想修行を重視するチベット系仏教・上座部仏教において、修行の場としての僧院は塔・仏堂などの礼拝対象から離れた位置にあって独立化しており、しばしば岩陰・洞穴・洞窟などがその役割を果たす。礼拝対象と僧院の分離は、インドの初期石窟寺院のあり様を彷彿とさせるものであり、石窟寺院の全貌を理解するためには、チベット系仏教・上座部仏教の洞穴/洞窟僧院の調査研究を避けて通れない。

2.研究の目的
本研究ではブータンの洞穴僧院とミャンマーの洞窟僧院を主な対象として、分布調査・測量・実測・年代測定などに取り組み、瞑想と瞑想洞穴の実態をあきらかにする。また、ブータンの瞑想洞穴にみられる懸造の構造を日本の岩窟・岩陰型仏堂と比較検討する。

3.研究の方法
 ブータンの洞穴僧院については、仏堂内部の撮影等が原則禁止されているので、おもに崖寺境内の屋根伏配置図の測量をメインにおき、必要に応じて内部の略測等もおこなう。測量器材としては、DGPSとレーザー距離計・方位計(インパルス社)の複合器を使用する。ヒアリングについては、崖寺の縁起等に加え、瞑想体験を中心とする僧侶のライフヒストリーについての長時間の聞き書きをおこなう。このほか、可能な範囲で僧院建築部材の年輪サンプルを採取し、科学的年代測定を試みる。ミャンマーについては、鍾乳洞内を広範囲に利用して洞窟僧院が造営されており、今回は詳細な調査は断念し、予備的な調査にとどめる。

4.研究成果
 ミャンマーの洞窟僧院は鍾乳洞をおもに礼拝窟とするもので、 夥しい数の寄進仏を窟内に安置するが、その一部に瞑想窟を含む場合もある。一方、チベット仏教ドゥック派を国教とするブータンでは、瞑想場としての崖寺が各地に造営されており、中心的礼拝施設ラカン(本堂)から離れた崖の洞穴に瞑想施設を営む。規模の小さい洞穴を利用し、その正面に懸造の掛屋を設けるだけの素朴な施設だが、密教修行の根幹をなす瞑想の場として現在なお重要な意味を担っている。そもそも、ドゥック派が 全土を制圧して国家形成がなされる17世紀以前、瞑想場に本堂ラカンは存在せず、ただ瞑想洞穴だけがあって、僧侶たちは長期間の瞑想修行に没頭していたとされる。現在でも、若手の僧侶は修学時に3年3ヶ月3日の瞑想を窟内で続けることが必須である。一日の睡眠時間は5時間前後、軽食を2回とる以外はひたすら瞑想に集中する。
 こうした瞑想と瞑想洞穴の実態を理解するため、計15ヶ寺を調査した。その結果、崖寺境内の空間構成、本堂の構造と仏像の配置、瞑想洞穴の構造と地形・懸造との関係などがあきらかになった。
 多くの僧院で古材の放射性炭素年代測定サンプルを採取した。年代測定の業者委託費が高額であるため、AMSサンプル2点のみの測定となった。うち1点はソンツェンガンポ王による吐蕃建国時(7世紀)に創建したと伝承される中央ブータンのジャンバラカンで採取した本堂内陣中央柱のサンプルである。測定の結果は1632-1666 cal AD (信頼限界74.4%)である。吐蕃の年代ではなく、ドゥック派による国家形成期を示した点、大変興味深い。かりに瞑想場としての成立が吐蕃時代にまで遡るにしても、現本堂は国家としてのブータンが誕生して以後のものである可能性が高まった。なお、ダカルポ-ゲムジャロ寺のサンプルからもこれに近い年代が得られた。
 2014年からはクンサン・チョデン女史のブータン民話に係わる著作の翻訳にも着手している。クンサン女史はブータン初の女性作家であり、民話研究の第一人者である。2015年にはウゲンチョリンの実家(現在は民俗博物館)でクンサン夫妻に面会し、翻訳成果を謹呈した。現在、正式な出版にむけて準備中である。民話の解読をとおして、元は遊牧民であった人びとの世界観と仏教の無常観との係わりを導きだしたいと思っている。

5.主な発表論文等

〔雑誌論文〕(計 1件)

吉田健人・浅川滋男(2015)
「ブータンの崖寺と瞑想洞穴」『公立鳥取環境大学紀要』第14号:pp.51-70

〔発表〕(計 3件)

浅川 滋男(2014)
「めざせ、ブータン-洞穴僧院と瞑想修行」
2014年8月9日@鳥取県立図書館大研修室 
2014年8月23日@鳥取環境大学西部サテライトキャンパス

大石忠正・武田大二郎(2016)
「ブータン第4次調査速報」
 第1回 仏ほっとけ会(摩尼寺・大雲院仏教講座)2016年2月21日 @大雲院本堂

〔図書〕(計 2件)

クンサン・チョデン(浅川滋男監訳2015)
 『メンバツォ -炎たつ湖』公立鳥取環境大学保存修復スタジオ

クンサン・チョデン(浅川滋男監訳 2016)
 『心の余白 -私の居場所はありませんか?』公立鳥取環境大学保存修復スタジオ


〔その他〕
ホームページ等
【2012年度】
雷龍の彼岸-ブータン仏教紀行(1)~(9)
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-107.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-124.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-125.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-126.html
(5)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-128.html
(6)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-129.html
(7)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-130.html
(8)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-135.html
(9)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-136.html

【2013年度】
ドラフ巡礼-ブータンの洞穴僧院を往く(1)~(15)
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-416.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-415.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-419.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-420.html
(5)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-414.html
(6)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-418.html
(7)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-424.html
(8)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-417.html
(9)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-421.html
(10)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-427.html
(11)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-429.html
(12)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-438.html
(13)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-439.html
(14)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-436.html

【2014年度】 
天まであがれ-東ブータン高地の遊牧的世(0)~(3)
(0)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-746.html
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-748.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-757.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-751.html

【2015年度】 
スケッチ・オブ・ゴンパ -第4次ブータン調査(1)~(10)
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1073.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1074.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1075.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1076.html
(5)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1078.html
(6)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1079.html
(7)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1088.html
(8)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1091.html
(9)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1080.html
(10)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1081.html

トンマのプージャ
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1096.html

衝撃の放射性炭素年代-速報
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1155.html

遊牧の彼岸-アムド高原の青い海(1)~(6)
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1083.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1097.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1098.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1103.html
(5)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1110.html
(6)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1115.html

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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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