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ケーシーの蹴球診断【バンコック】

 8月晦日、西ブータンのハ(Haa)地区にいた。宿舎のソナム・ジンカ・ファームハウスは農家を大改装した民宿で、頗る居心地がよい。なにより看板娘が綺麗だった。その名もキンレイ。綺麗なキンレイ。いつもすっぴんのキンレイは高校を卒業したばかりの18歳。無口だが、愛想はよく、小声で恥じらいながら英語を話す仕草が愛らしい。民話の中の、そうだな、たとえば「アンティ・マウス」のタシ・ドマを思わせるような牧歌的少女ではあったが、すでにしてその影に妖艶さを秘めていた。

 深夜、学生たちの部屋でおしゃべりしていると、ドアを叩く大きな音がした。ガイドが部屋に飛び込んできて、慌てた顔でいう。
  「キンレイが高熱を発して、ロビーの床で横になっている。薬はありませんか?」
 わたしは医者ほど多くの薬をフィールドにもちこんでいる。そのすべてを手にしてロビーに駆けつけた。頭に手をあてる。38度以上の発熱だ。おまけに喉が痛く、咳がでる、という。扁桃腺が腫れた風邪の症状に違いない。顆粒の風邪薬、解熱剤、気管支系の炎症抑制剤、抗生物質を与えた。
  「喉が痛くてなにも食べていない。何かお腹にいれてから薬を飲んだほうがいい?」
キンレイは訊ねる。
  「ライススープ(おもゆ)を飲んでからにしたほうがいいよ。」
とわたしは答えた。彼女は苦しげな体に鞭打ってたちあがり、厨房におりて戻ってきた。そして、ミネラルウォーターで4種類の薬を飲み干し、眉間に皺をよせながら、民宿対面にある実家に帰っていった。
 なんだか気が抜けた。部屋に戻るしかない自分が情けない。ひとり後悔と反省の時間をしばし過ごした。調査道具に足りないものがあるからだ。どうして聴診器をもってこなかったのか。ケーシー高峰の映像が揺らめいては消えていった。

 えぇい、iPadでも開くか。あれっ、日本がホームの埼玉スタジアムでUAEに逆転負けを喫した~(仰天)。ヤホーニュースは、浅野のゴールが誤審で取り消されたことを強調している。埼玉スタジアムで「中東の笛」? 日本で最も過激なレッズのサポーターが溢れたスタジアムで中東の笛やらかせて、カタールのレフェリーをそのまま帰らせたのか?? 帰国させていいのか???



 そして驚いたことに、五輪で大活躍した大島が戦犯扱いされているではないか。大島-南野-浅野のセットは今すぐにでもA代表で通用する、と少し前に書いたばかりなのに・・・大島は近い将来、A代表の核になる選手だ。ハリルホジッチが使いたかったのも無理はない。 
 翌朝、キンレイはけろりとした顔で朝食の配膳をしてくれた。
  「こんなところで働いちゃいけません。家に帰って休みなさい。睡眠がいちばん良い薬だよ。」
 すると、キンレイは微笑みながら答える。
  「いえ、あなたたちと一緒にいる時間を大切にしたいの・・・、うふふ」
 なんて、真っ赤な嘘でっせ。
 くらのすけ15に敗戦を告げると、目をまるくして驚いた。「えっ、負けたんですか!?」 静岡でサッカーをやっていただけのことはあり、ヤツはサッカーについて一家言をもっている。ボランチの一押しは柴崎らしい。「いや、大島は柴崎よりも、山口蛍よりも上だ。いまにヨーロッパで活躍するようになる」とわたしは大島に太鼓判をおした。

 すべての調査を終え、バンコクまで戻ったのは9月4日の午後6時半。関空をめざすTG便の離陸は11時半だから5時間の余裕がある。しかし、チェックインは離陸時間の二時間前、つまり9時半には済ませたいので、街にでるのを諦めた。空港に近いエアポートホテルでディナーすることにしたのである。いつもは盛り場の屋台で酒盛をする。それが調査隊のルーティーンであり、事実上の解散式なのだ。タイの屋台の美味さは一言で表現できないほどだが、たまには本格的なタイ料理も食べさせないとね。わたし自身、ひさびさのタイ料理に舌鼓を打った。
 その3日後、バンコクでおこなわれた日泰戦を奈良の自宅で視た。なるほどね、UAEに負けるわけだ。中東の笛じゃない。弱いから、下手だから、負けるんだ。スウェーデンに勝ちきった五輪代表のほうがマシなんじゃありませんか。少なくとも、大島-南野-浅野のセットは、長谷部-香川-本田をあきらかに上回っている。ストッパーは吉田より植田のほうが逞しくみえませんか?
 男子サッカーは撫子や女子バレーとはちがう、と信じていたのだけれど、タイ戦をみて、今はすべてがかぶり始めている。リセットするほかないでしょうね。ロシアW杯にはでられなくていいから、世代交代を進めてほしい。そのためには、評論家のようなハリルホジッチ監督より、若手育成に定評のある森保監督のほうがいい。

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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