縄文-建築考古学、再び(4)

岩宿人の住まい
作業終了後、岩宿博物館の展示を初めてみせていただいた。トビラをあけて仰天。ごらんのとおり、鹿の毛皮のテントが展示してある。もちろん岩宿時代(後期旧石器時代)の住居復元である。毛がついたままのふさふさの毛皮を重ね葺きしている。こういうことやっているのなら、早めに教えてくれればいいのに・・・それにしても驚いたのは、四角形の平面だな。わたしなど、「ありえない」としか思えないのだが、どなたか高名な先生が「四角だ」と書いているので、そうしたそうです。

桐生仲町
夜は舎弟に連れられ、桐生仲町にくりだした。舎弟は川谷拓三に似ている。酒を好み、色を嫌う。1軒めはたしか「あすなろ」という居酒屋だった。居酒屋はデンプンカットに宜しい。デンプンとは何か。ごはん、饂飩、麺、餅などの主食に加えて、餃子の皮、揚げ物の衣・・・等々である。居酒屋のアテには野菜・肉・魚が多い。これらの焼き物、炒め物、煮浸し、サラダならなんの問題もない。デンプンカットに大歓迎の食品ばかりだ。酒も蒸留酒なら構わない。日本酒・ワイン・ビールなどの醸造酒はいけない。醸造酒は砂糖水と同じ。体内に入って糖に変わり、血糖値を著しく高める。米・小麦とともに糖尿病の直接の原因であり、癌細胞のエネルギーともなる。
舎弟が生ビールを頼む。わたしはハイボールにする。ビールは醸造酒で、ハイボールは蒸留酒の炭酸割である。似て非なるもの。舎弟は生ビールをお代わりする。わたしは焼酎の水割りに替える。ハイボールから焼酎の水割りへ。これで血糖値を低く抑えることができる。
ヴィレッジ
翌檜(あすなろ)を出る。街は暗い。弥生町よりもはるかに暗い。人は歩いていない。ただ、門前に短いスカートを穿いた女たちがたむろしている。日本人ばかりではなく、フィリピン人もいる。こうした呼び込みたちに興味がないわけではないのだが、舎弟はこれを忌み嫌っており、足早に通りを駆け抜けようとする。「ひやかしてみるか」とかましてみれば、
「明日は朝の5時から運動会のための草取りがありますから」
と言って帰ろうとする。「どうやって家に帰るの?」と問えば、「タクシーで」。「駅前のホテルまで歩いて帰るから」と答えて舎弟を振りきろうとするのだが、今度は「ついて行きます」。「おまえは帰れ」と寅は繰り返し、源公は首を横に振る。しばらくして、「ヴィレッジ」という名のジャズバーに行き当たり、忍び足で踏み込んでいった。
客はテーブル席にカップル1組。ほかには、カウンター端に雰囲気の異質な女性が1名坐っているだけ。つまり、がら空きだ。カウンターの向こう側に黒子のような女性バーテンダーが2名いる。カウンターの片隅に腰掛けようとすると、舎弟は真反対の動きをみせる。カウンターでバーテンダーたちとお喋りすればよいと思うのだが、舎弟はこれを嫌うのである。おかげで、店の片隅のテーブルに、川谷拓三のような男とカップルの如く対面して坐り、酒を飲むことになった。
影から来た魔法使い
銘柄は忘れたが、バーボンのストレートにチェイサー(お冷や)をつけてもらった。しばらく待つと、カウンターに腰掛けていた女性がピアノに向かった。矢野顕子のような弾き語りをするピアニストだ。1曲めのオリジナルが秀逸だった。その後、スタンダードのカバーを続けざまに歌ったが、最初の曲がいちばん良かったな。
舎弟は不敵な笑みを浮かべながらバーボンを舐め続ける。飲み方がはやい。お代わりを注文すると、黒子のバーテンダーがやってきたので、「あのピアニストはなんという方なのですか?」と質問した。
「くろさわあやさん です」
舎弟がスマホで検索すると、「黒沢彩」「黒澤あや」「黒沢綾」の3名がヒットした。目の前で弾き語りしているのは、「黒沢綾」さんみたいだ。 こちら のサイトをご参照ください。
プロムナード、あるいは遊民舎
メニューの最後の方に店の由来が説明してあった。曖昧な記憶だが、黒子バーテンダーの女性がジャズ・ボーカルを学んで東京通いをしていたのだが、東京-桐生の往復が面倒臭くなって、自らジャズバーを開店した、ということらしい。ヴィレッジ(Village)という店名は、グリニッジ・ヴィレッジから一文字頂戴したものだと説明に書いてある。
黒沢さんが歌い終えそうなころから、客足が増えてきた。舎弟はまたお代わりをする。
「明日は朝5時から草むしりなんじゃないの?」
と問う。舎弟はまたしても不敵な笑みを浮かべた。バーボンのストレートが堪らぬらしい。わたしの方から「店を出よう」と急がせた。街に出る。同じ問答の繰り返しだ。「おまえは帰れ」と寅は命じ、源公は首を横に振る。また街を歩いた。まもなく「ぷろむなーど」というバーの前に来た。ガラス越しに中をみる。なんや、革工房やないけ。ショットバーは、どうやら中2階にあるみたいだ。革なめしで苦労している舎弟のためにとドアをあけた。ブラックコーヒーを頼む。
マスターは「遊民舎」という革工房を主催する職人である。熱い珈琲を啜りながら、なめし革の処理、とりわけ縫合について教えていただいた。縁は異なもの味なもの・・・どこになにが転がっているかわかりませんね。 【完】

@桐生新町重伝建地区のお茶屋さん