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男はつらいよ-倉吉長屋物語

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Go for Broke !

 塩谷定好記念館(赤碕)での演奏会を終え、雨の降り始めた9号線を東に向かった。行く先は倉吉市河原町。お馴染みのフィールドだが、今回ひとりで立ち寄ろうとしたのは、5軒長屋が取り壊されると聞いていたからだ。河原町・鍛冶町の町並みの核となる部分であり、本当に取り壊されるとしたら大変なことなので、改めてきちんと撮影し、記録にとどめておかなければならない、と思っていたのである。
 夕闇のなか、日没ぎりぎりの時間に撮影を終えた。長屋を目の当たりにし、1975年の文化財保護法改正時に導入された「伝統的建造物群」制度の根本理念を思い起こした。建造物単体では必ずしも文化財価値が高いとは言えないが、群をなした場合、新たな価値が生まれる。その群としての、つまり「町並み」としての価値を評価しようという発想である。五軒の長屋は、1棟1棟に注目すると、そう大きな価値はないのかもしれないが、群をなすことでかけがえのない景観資産となっている。しかも、場所は県指定文化財「旧小川酒造」の対面である。この地域の歴史的風致にとって最も重要な景観地の一つであるにも係わらず、多額の税金を投入してなされるという小川財団の整備のために長屋群を撤去するというのだから、空いた口がふさがらない。


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 世界遺産を参考にして考察したい。一つのモニュメント(記念建造物)ないしサイト(遺跡・庭園)を世界文化遺産リストに搭載しようとする場合、バッファゾーン(緩衝帯)の設定と保全が求められる。文化遺産は単独に存在しているわけでなく、周辺の生活世界を構成する諸要素と有機的に連携して一定の歴史的環境を形成しているわけであり、その風致の全体的な向上をめざすべきものである。こうした発想は世界遺産にとどまらず、どのような文化遺産においても考慮されなければならない。中核となる一つの文化遺産は、周辺エリアの関係諸遺産と統合することによって輝きを増すのである。小川家住宅・庭園の場合、八橋往来に沿う町並みや鉢屋川沿いの水辺景観はとくに重要な関連遺産なわけだから、個人所有の不動産に投資するだけでなく、周辺環境と一体化した整備をめざす必要がある。ところが現実には、宅地内の整備を推進しようとする勢いに任せて、八橋往来に対面する町並み(長屋群)を削り取ってしまおう、というのだから、正気の沙汰ではない。

 長屋群の重要性については「保護文化財小川家住宅保存計画」(2014)の中にも明記されている。長屋群は小川家所有の不動産であるけれども、税金を投入して小川家の建造物・庭園を整備しようとしているわけだから、保存計画の意向に反して、財団が任意に取り壊してよいものではない。ところが、この貴重な文化資産=景観資源である長屋群の撤去を小川財団とともに主導しているのが倉吉市教委文化財課であることも明らかになってきている。かりに所有者が老朽化などを口実に長屋群の取り壊しを主張したとしても、歴史的風致の維持向上をめざす立場から誤った考えを是正して所有者を説得し、町並みと県指定文化財の融合する将来構想を示してみせるのが文化財課の職責である。にも係わらず、文化財課はあたかも開発主体のような立場で町並みを破壊しようとしている。
 しかも滑稽なことに、町並み破壊の主体者は、つい最近まで町並み保存の推進派であった。2014年12月20日の第2回れきまち研究会で、河原町・鍛冶町の町並み保全について「私は重伝建をお薦めしたい」と公言しているのである。多くの住民を前に重伝建を推奨した人物が180°方針を転換し、いまは町並みを削る開発を先導しているのだから、笑い話では済まされないのである。おまけに、その人物は、町並みを守りたいとして陳情する地域住民に対して侮蔑ともとれるヒステリックな発言を繰り返しているという。それが本当だとしたら、パワハラ以外の何物でもないであろう。


公民館便り28年10月_01sam 河原町公民館便り10月号


 
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 県教委も情けない。長屋群の取り壊しを主導する市教委文化財課に対してまともな指導もできず、むしろ市の動きに加担しているようにみえるからだ。県側の実態はそうではないと信じたいが、このまま長屋群が撤去されるのなら、県も市も同罪である。こうした行政の暴走は、いま豊洲市場や五輪施設の問題で揺れている東京都政となにも変わらない。そもそも、補助金によって大がかりな修復・再生を実行しようとしているにも係わらず、小川財団の整備プロセスはまったく公開されていない。いちど情報を透明化していただきたい。いったい、だれがどのようにして基本計画を構想し、長屋群の取り壊しを決めたのか。税金をどれほど投入するのか。一般市民に対して誰がどのような暴言を吐いたのか・・・等々。


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土蔵の手作りライブハウス

 朗報もある。河原町の土蔵1棟がライブハウスに衣替えした。たった一人の音楽好きの住民が手作りで土蔵を演奏場に改装したのである。内装は黒木の丸太造、ログハウス風だ。素晴らしいことだと思う。塩谷定好記念館での演奏を終えた直後にこのライブハウスに出会ったことに縁を覚える。50代最後の演奏を終えたばかりの私は、「60代になったらぜひここで」と秘かに誓ったのでありました。それまでになんとかオリジナルを1曲仕上げたいものだ。塩谷記念館で若い仲間がJTの「DON'T LET ME BE LONELY TONIGHT」を弾き語りした。ああいう曲が書きたいな。
 Go for Broke !  当たって砕けろ。  




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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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