思い出の摩尼(2)-吉川さんにコメントを頂戴して


高校放送部以来の晴舞台
11月12日(土)、待ちにまった「吉川美代子さんと愉しむ講演・朗読会」の日になりました。昨年度の長谷川きよしコンサートでは駐車場案内等の裏方係でしたが、今回のイベントでは表舞台で朗読することになっていたため、とても緊張しました。
境内ではいくつか屋台も出店し、会場全体はとてもなごやかな雰囲気で、天気は去年のイベントと同様、雲一のない快晴です。良いイベント日和となってくれました。
今回のイベントは吉川美代子さんによる講演会と民話朗読の二部構成となっています。民話朗読の部では学生の朗読発表もあり、私と石田さんの二人が朗読の大役を担います。私自身、人前で朗読するのは高校の放送部以来で、まさかこのような大舞台で再び朗読する機会にめぐりあえるとは夢にも思っていませんでした。

私が朗読するのは小泉八雲の怪談「鳥取の蒲団のはなし」です。明治の鳥取を舞台にした民話(再話)で、両親を亡くして貧しさに苦しみ、家主に虐げられた二人の子どもの霊を描いた作品です。「ブータンの民話朗読」と銘打った朗読会で何故小泉八雲かというと、この怪談の最後のほうに登場する「千手観音堂」が摩尼寺本堂(本尊:千手観音)ではないかという説があるからです。この怪談は昨年4月に「とっとりの幽霊布団」というタイトルで映画化されており、千手観音堂を摩尼寺本堂とみる意見には、八雲の曾孫、小泉凡さん(島根県立短大教授)によっても、あるていど指示されている、というような新聞記事を読んだ記憶があります。しかしながら、私たちの先生は民話解説において、怪談に登場する千手観音堂は、「摩尼寺であってもおかしくはない」が、廃寺の可能性があることを強調されました。
さて、これまで実際に何話も朗読の練習を重ねてきたのですが、「鳥取の蒲団のはなし」は今まで経験した中で一番難しく感じました。私がこれまで朗読した本は主に人の心情を描いた短編小説が多かったからです。怪談のように、第三者の語り部のような文体を朗読するのは初めてでした。また、文章量も格段と多く、後半になるにつれて顎が疲れていく感覚も覚えます。しかし、読めば読むほど、この話のおもしろさに気づかされました。全体的に淡々と話が進むからこそ、読むたびごとにさまざまな想像力を働かせたくなります。読めば読むほど深い作品であると感じました。と同時に、これまで経験したことのない朗読に新鮮さを覚え、楽しく作品と向き合うことができました。



吉川さん講演の影響
吉川さんの講演(↑)から休憩をはさんだ後、いよいよ朗読会が始まります。ブータンの民族衣装を纏い、壇上に登り朗読を始めます。スポットライトを浴びて大勢のお客さんを前にしたのですが、落ちついて、吉川さんの講演で学んだ「会話のキャッチボール」を意識しつつ淡々ではありますが、お客さん全員に読み聞かせるように朗読ができたと思います。高校三年間朗読に精を尽くし、全国大会でのプレゼンを終えた後、自分の朗読はこれで限界だろうと思っていました。しかし。吉川さんの講演を聞いた後に、また自分の朗読が新しい形で成長したのを感じました。朗読後はこれまでにない満足感で充たされました。

学生ふたりの朗読が終わるといよいよ吉川さんの朗読です。朗読するのは昨年のプロジェクト研究4で2年次学生が翻訳した『心の余白『です。吉川さんは、原文に何度も目を通され、訳文をわかりやすく修正されたばかりか、書題を『大きな心と小さなおうち』に変更されました。その朗読は素晴らしいものでした。抑揚のつけかた、口語体セリフの表現、文章間の間のとり方等、その一句一句にただただ魅了されるばかりです。吉川さんが朗読を終えると、会場内は盛大な拍手が巻き起こりました。自分もゼミ生として、そして元放送部の端くれとして、この素敵な空間に居合わすことができたことを光栄に思います。
イベントも無事終え、片づけの合間に吉川さんと記念撮影することになりました。撮影が終わると吉川さんは私の元にこられ「センテンスごとの抑揚をもっと表現すると良い朗読になる。間のとり方をもう少し工夫するとあなたの淡々とした朗読の良さがより際立つ」とアドバイスをしてくださいました。ドッキリしました。抑揚の表現、間のとり方は私が放送部の顧問の先生に指摘された朗読の課題と同じだったからです。吉川さんはただ一回聞いただけで私の課題を見抜いたのです。本番間際で集中力を高めなければならない状況下で、私の朗読を真摯に聞いてくださっていたのです。それも、二度と会うことないであろう私に直々にアドバイスをしていただいたことを思うと胸がいっぱいです。

もう二度とないだろうと思っていた朗読を再び、それもこんな大きなイベントで披露できることにただただ感謝の念でいっぱいでございます。イベントで朗読を披露することになった時、正直今まで朗読してきた本とはずいぶん違う怪談を、10分間も朗読できるだろうかという不安に苛まれていました。吉川さんがメインであるにせよ、お金を払って聞いてもらうわけですから、それに見合った朗読ができるのであろうかというプレッシャーもありました。しかし、朗読練習を始めると、懐かしさとともに今までに読んだことない本の朗読に新鮮さを感じ、とても楽しく朗読できました。短期間の練習ではありましたが、本番では、これまで自分が良いと思える朗読と同等か、それ以上の朗読発表ができたと感じます。このイベントを通じて吉川さんに会えて朗読を聞いてもらえたことは私にとって大切な思い出となりました。また、朗読する機会を与えてくださった教授、並びに、リハーサルに付き合ってくれたゼミ生各位には感謝せずにはいられません。重ね重ねではございますが、本当に皆様、ありがとうございました。(鬢鬢20)
