グルリンポチェがやってくる(6)

ラモおばさんは牛をかっていない人みんなに
ミルクの入ったオケをくばりながら言いました。
せいいっぱいがんばってくれたのね、
ありがとう、牛のおばあちゃん。
ほらみんな、ほんの少しだけれども、お供えのミルクがあるわよ。

だって、きょうはグルリンポチェがかならずやってくるんですもの。
グルはもうすぐ朝やけの光にのってやってくるの。

イェシェイちゃんは家じゅう走りまわり、
これも、それも、なにもかも、ドルマおばあちゃんにわたします。
おばあちゃんはそれらの品もので、仏だん※15に供えるお皿をみたしていきます。
ドルマおばあちゃんは注意ぶかく
じぶんが知っているあらゆる食べもののお供えをお皿につみあげていきます。
畑でとれたてのゆでたイモ、

まだ実っていないオオムギの穂、
サヤつきのみどり豆、
焼き菓子ツォグはたくさんつみ上げ、
さいごにタマネギの葉をうまく結びあわせて
弓の形にしたものをのせます。


イェシェイ!
急ぐのよ。このお供えものをもってお寺に行きなさい!
イェシェイちゃんはせいいっぱい走ります。
息を切らせて、お供えものをお寺のかんり人さんにとどけ、
またいそいでおうちにかえるのです。

だって、グルリンポチェがおうちにやってくるとき、
イェシェイちゃんはお迎えしなければならないんですもの。

香炉※16からかぐわしい煙がうずまき、
ブツマだけでなく家のすみずみまで香りがみちていきます。 {有田}
【注】
※15 仏壇
ブータンではチベット仏教が信仰されており、どの家庭にも仏間があって仏壇が置かれている。
仏壇にはブータン仏教の開祖グルリンポチェの像やタンカ(仏画)を祀る。

http://faam.city.fukuoka.lg.jp/cgi-bin/collection.cgi?cnid=0405281008410114 (福岡アジア美術館 - ブータン)
※16 香炉(incense burner)
ブータン香は、インドの一般的なスティック香のような竹芯がなく、
日本の線香を太く(約5-7mm程度)、大きくしたような形状。
サフラン、クローブ、ナツメグ、レッド・ホワイト サンダルウッド(白檀)など、
約100種類もの貴重な天然材料を用いて伝統的手法で作られている。