ジョコビッチが教えてくれた

昨年いちばんの収穫はダイエットに成功したことだ。夏のブータン行に携帯した森永卓郎 『モリタクの低糖質ダイエット』 (2016)の指示にできるだけ従い、炭水化物と糖分の摂取を控えたところ、年末までにウェストが20㎝細くなった。家に所有するズボンの7~8割が履けなくなっていたのだが、それらすべてのホックが腹位におさまったのである。
年末の澳門には以下の2冊を携行した。
①ノバク・ジョコビッチ『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館、2015)
②柳澤 健『1993年の女子プロレス』(双葉社、2016)

グルテン・フリー
①については、低糖質ダイエット本の一種であろうと思って買ったのだが、たんなるダイエット本ではなく、人生そのもの、人の生き方そのものに対する深い洞察に満ちている。森卓本では、炭水化物や糖質をすべて悪玉扱いしているが、ジョコ本はちがう。悪いのは麦類に含まれるグルテンであって、炭水化物も糖も必要なときにはとるべきだという考え方をしている。グルテンはつまり、ゲル状の蛋白質で、血液を粘つかせ、鼻づまりの直接的な原因になる。クッキー、ケーキ、パン(とくに菓子パン)、パスタなどに大量に含まれている。
ジョコビッチは3食すべてにおいてグルテンを排除する。麦でできたフードは全排除だ。しかし、糖と炭水化物は毎日摂取している。その摂り方には厳しい原則がある。朝には蜂蜜を大匙2杯舐め、昼はグルテンフリーのパスタをかなり食べる。それらは過酷なトレーニングをこなすエネルギー源となるものである。ところが、夜はあらゆる炭水化物を口にしない。これはおそらく体重と血糖値をコントロールするためであろう。こうした炭水化物の部分的な制御とグルテンフリーを組み合わせた食生活をまずは2週間続けてみる。すると、体重が数キロ減少し、鼻づまりが解消される。体が軽くなってスタミナが持続するようになる。
澱粉カットした自らの経験を思い出すと、1週間めは空腹感にさいなまれるが、2週間めで慣れてきて、3週間経ったところでウェストを計測すると8センチも減っており、その成果に驚喜し、やる気がおこった。だから、たしかに2週間という試行期間は重要だと思う。


わたしたちはジョコが食べているグルテンフリーの食材をもっていない。しかし、その代用になるものはある。まず思い浮かぶのが蕎麦だ。森卓本では、蕎麦も澱粉が多いからカット、と書いてあった。おかげで、昨年後半の蕎麦摂取量は例年の1/4程度まで抑えられた。しかし、ジョコの理論に従うなら、グルテンフリー・パスタとして蕎麦を昼食にとることは問題ない(夜は避ける)。加えてじつは、米もグルテンフリーの炭水化物だ。食べ過ぎてはいけないが、朝食として納豆ご飯を食べるのはわるいことではないだろう。白米を玄米なり雑穀米にすればさらによい。パン&珈琲&ジュースの洋食より、米&味噌汁&納豆の和食のほうが、グルテン・フリーという点において、はるかに健康的であるはずだ。

いまわたしは森卓の方法とジョコの方法のいずれに従うべきか。娘はいう。すでに急激に体重が落ちているのだから、これからは無理をせずゆっくり減量するのがいい、と。そして、以下のように決断した。しばらくは両者併用でいこうと思っている。まだ完全に腹の肉がとれたわけではないので、週の半分は完全な澱粉カットを堅持するが、残りの半分はジョコ式のグルテンフリー+澱粉制御に移行しようと思う。
ジョコビッチはただダイエットのためにグルテンフリーを取り入れたわけではない。かれは心身の健全化にむけて食事を改変するところから始めたのだ。よい食事は体だけでなく、心を健全にする。メンタルを強くする。この問題はマインドフルネスにいきつく。一日のうち半時間でいいから瞑想せよ、とジョコビッチは説いているのだ。
幸福な人生は良い食事から始まる。そして、睡眠をたっぷりとらなきゃいけない。こんな夜更かししててはいけないのです。

中野のぶるちゃん
前世紀、わたしはプロレスの大ファンであったが、女子プロレスのファンではなかった。しかし、昨年11月28日、ブル中野が「しくじり先生」に出演し教鞭をとること知って触覚が異常に反応し、ただちに録画の手続きを済ませた。放送は移動中でみられなかったが、深夜にネットを開いて検索すると、賞賛の嵐になっている。そのままyoutubeで90年代の試合を見返した。凄まじい試合ばかりである。男子以上と言っても言い過ぎではない。週末には奈良に戻り、家族全員で「しくじり先生」の録画をみた。ここでもまた拍手の嵐になった。全日本女子プロレスが倒産に至るまでやってきたことを確認すべく、何冊か本を注文した。②は14人のレスラーのインタビュー集である。じつに面白い。少し難しいこと言いますとね、現象学的社会学における間主観性の命題に行き当たる。「事実」は存在しない。ある現象に対して、その現象に係わる人間の証言は見事に食い違っている。遠い過去の事実などないのだ。事実は関係者それぞれの意識のなかで自分に都合のよいように濾過され、歪曲されている。


そして、逆説の歴史を知る。ビューティ・ペアやクラッシュ・ギャルズなどのベビーフェイス(善玉)対ヒール(悪役)の戦いに若い女子の観客が熱中した宝塚的擬似格闘技時代をヒールの実力者たち、ブル、アジャ、北斗が塗り替えた。ヒール同士の戦いは男子プロレス顔負けの壮絶悲惨なものであり、男の観客を続々と引き込んでいくのだが、その一方で、若い女子の観客を遠ざけてしまう。結果として、女子プロレスの入門志願者がいなくなって、団体の存続を困難なものにしていったのだ。新しい制度を築きあげた原動力が体制崩壊の因となる。こちらはプラトンの国家論だね。
ブル中野は、いま「GIRS 婆 BAR 中野のぶるちゃん」のオーナーママとして活躍中。いちどひやかしてみるべ。