男はつらいよ-寅さんの風景(6)

寅次郎かもめ歌
5月25日(木)。『男はつらいよ』シリーズの第26作「寅次郎かもめ歌」(1980)を2年生にみてもらった。マドンナは伊藤蘭。キャンディーズ解散後、ソロとして復帰した直後の演技である。わたしは、この作品がとても好きだ。中期の傑作の一つだと思っている。とくに気に入っているのは夜間学校のシーン。先生役の松村達雄がじつに効いている。国鉄便所掃除の詩を朗読するシーンは寅さん映画史上屈指の場面であろう。松村達雄がおいちゃん役ではなく、脇役ででている作品に秀作が多いとも思っているが、「口笛を吹く寅次郎」の和尚役と本作の夜間高校教師役が双璧ではないか。ところが、レビューを読むと賛否両論で、わたしと同じ高評価もあれば、「中途半端」という低評価もある。そして学生たちの反応はどちらかといえば、後者に近いものだった。すみれが男と一夜を過ごし、朝帰りをしたところで旅にでる寅さんは「無責任」という感想もあった。わたしには寅さんの気持ちがよくわかる。父親代わりの娘に対する愛情が7割、恋愛感情が3割。相手の男を目の前にしたら「何をするかわからないだろ」とさくらに告げて団子屋から消える寅さんの心情が痛ましかった。余談ながら、誘拐犯手配の似顔絵は寅さんとフィアンセの大工(村田雄浩)の両者に似ている。すみれの好みは寅さん似だということを暗示したものと思われる。地震と津波で壊滅した奥尻島の漁村風景も貴重。
<ストーリー> 北海道は江差。追分まつりのバイに出かけた寅さんは昔仲間のツネの死を聞き奥尻島へ渡る。墓参りをすませての別れ際、島で働くツネの娘すみれは「東京へ出て働きながら夜間高校に通いたい」と訴える。柴又とらやでは突然寅さんがすみれを連れて帰って来たのでひと騒動。事情がわかるとセブンイレブンへの就職も斡旋してやり、夜間高校への入学も一家をあげて応援する。わがことのように嬉しい寅さん。そんなある日、すみれの恋人が現れた。彼女の告白に顔色を変える寅さんはまた旅に出る。