男はつらいよ-寅さんの風景(12)

プロジェクト研究1&3発表会
7月25日(火)、早くも前期プロジェクト研究「男はつらいよ-寅さんの風景」の発表会を迎えました。朝9時からのスタートという不運のため、学生の客足はいまひとつでしたが、教員3名に事務職員若干名など大人の参加者が目につきました。
発表の構成は以下のとおりです。
1.イントロ(寺西)
2.男はつらいよ純情篇(盛・芝田)
3.わたしの寅さん(古市・岡本)
4.口笛を吹く寅次郎(鈴木・岩本・宮平)
5.寅次郎夕焼け小焼け(竹内・吉竹)
6.寅次郎かもめ歌(木山・海老名)
7.寅次郎の告白(砂見・塩坂)
8.「寅次郎の告白」ロケ地訪問と再現撮影(日野・能勢)


午前9時、カチンコの音が響き、発表開始。担当した1年生のパワポ・スキルは突出したものであり(ここ数年指導した学生の中でもピカイチ)、講演も落ち着いたもので、聴衆ははやくも画面に釘付け状態。順調にスタートを切った。

2番目は純情篇。寅さんがマドンナに恋して、最後はあっさり振られる初期の典型バージョンだが、旅先(五島列島)で登場する宮本信子と森繁久彌の演技も圧巻。発表では、離島などの僻地の風景が一般社会からはみだした寅さんの姿とよく似合うことを強調した。発表者2名のうちの1名は奄美群島加計呂麻島の出身である。最終の第48作「紅の花」の舞台となった離島である。全員で鑑賞する余裕はなかったが、DVDを貸してあげたところ、「贔屓目かもしれませんが、いちばん面白かったです」の感想でした。きっと鳥取出身者が「告白」に抱く感情に近いものなんじゃないかな。
3番目は「私の寅さん」。やはり寅さんがマドンナにあっさり振られる初期の定型バージョン。どういうわけか、発表風景の写真が一枚もありませんでした。ごめん!

4番目は「口笛を吹く寅次郎」。マドンナに想いを寄せられ、相思相愛であることを知りながら、はなればなれになっていく中期の逆定型バージョン・・・の中の最高傑作。アマゾンのレビューも最多です。どういうわけか、3人の学生が入れかわり立ちかわり発表しました。
5番目は「夕焼け小焼け」。宇野重吉、太地喜和子の名演が際立つ作品。これを全48作中のベストと評価する人も少なくありません。龍野揖保川の夕焼け空にあわせて三木露風作詞の童謡「赤とんぼ」が流れるシーンは、まるで時間がとまったような錯覚を覚えます。



6番目は「かもめ歌」。北海道奥尻島に住むすみれが寅さんに連れられて上京し、夜間高校に通いながら成長していくのですが、最後は函館からやってきた恋人と結婚を決意し、寅さんを激怒させる展開。テキヤ仲間の娘を親代わりのようにして大事にする寅さんだが、淡い恋愛感情を抱いていたからこその怒りだったようにも思えます・・・最初のほうで柴又のおまわりさんが配ってまわる少女誘拐犯の似顔絵は寅さんに似ているし、すみれの恋人にも似ています。


最後は鳥取を舞台とした「寅次郎の告白」。前半は映画のストーリー要約と感想、後半に「カチンコ再現撮影」をもってきて、全体の結論として「風景のパッチワーク」を指摘しました。山田洋次監督のスタッフは、鳥取県中東部の景勝地を精査し、ストーリーにふさわしいロケ地を選んでいますが、ロケ地相互の関係性は薄く、パッチワークのように風景地をつないでいることを結論の一つとしました。それらの風景地は、山河についてはほぼ変化ありませんが、建物や町並みはいままさに解体しようとしています。
「寅さんの風景」が消えていこうとしているのです。

発表終了後、2名の教員からコメントをいただきました。うち1名は葛飾柴又在住の新任N教授で、ロケ地ツアーにも参加いただいた。N先生は学生たちが、寅さんを「中学中退」としたのは間違いで、柴又工業高校中退のはずだとディテールをついてこられたんですが、小生は「かもめ歌」で中学中退だから夜間高校への入学が認められないシーンなどがあり、おそらく作品によってやや説明が変わっているのではないか、とお答えしました。すると、N先生は第2作『続 男はつらいよ』 (1969)で「高校中退」だという場面があるので、やはり作品によって設定が異なる可能性があると思われるにいたりました。
1・2年生の発表は堂々として見事なものでした。これまでプロ研を十数年指導してきていますが、有数の発表であったと喜んでいます。
