パリンカの夢(16)

居住環境実習・演習(Ⅱ)期末発表会 その2
3-1 蒸留実習
中間発表の段階では、北条ワイナリーやアグリネット琴浦などの会社を訪問して果実酒づくりを学ぶ予定を立てていたが、いろいろ情報を集めると、まず訪れるべきは鳥取県産業技術センターであることが分かった。灯台もと暗しで、若葉台にある。
産業技術センターは、企業の技術支援や受託研究、企業との共同研究に取り組む地方独立法人である。発酵生産科実験室では、鳥取県の特色ある新しい日本酒や果実酒などの開発、酒の品質管理にかかわる試験・研究開発をおこなっている。佐治の「どぶろく特区」も発酵生産科での実習からスタートし、2年後に製品販売に至った。
実験のために、奄美黒糖甘酒(発酵)、シードル(ニッカ)、韓国産ヘテ梨ジュース(発酵)を持ち込み、蒸留実験を2回反復していただいた。

蒸留器は基本的に大きく2つの部分に分けられる。醸造酒を沸騰させる煮沸部と、気化したアルコールを液化する冷却部である。醸造酒を100℃まで加熱し、水蒸気になったところで冷却し、再び液体にすることでアルコール分を抽出することができる。実験では、蒸留酒を200mlずつ測り、蒸留器にかけて、煮沸、気化、冷却を行う。抽出した液体をアルコール度数計に通して濃度を測定する。余ったもので試飲をした。


同じ実験を二度繰り返していただいた。アルコール度数は12~19%と低めである。おそらく煮沸温度が100℃に達しており、アルコールとともに多量の水分が気化・冷却されたためと思われる。果実酒を比較すると、梨パリンカの度数が林檎パリンカを6%ばかり上回っている。おそらく12%梨ジュースには砂糖が多く含まれているのだろう。糖はアルコールと二酸化炭素に化学変化するので、梨ジュースの方が糖分が多いと推定される。アルコール度数が低いにも拘わらず、一回の蒸留で抽出できる蒸留酒の量は元の醸造酒の10分の1ほどにすぎない。販売を前提とする場合、大量の醸造酒が必要になる。
3-2 パリンカ製作の課題
果実蒸留酒の風味については、林檎パリンカが林檎の香りを残しているのに対して、梨パリンカは梨の香りがほとんど感じられず、「日本酒みたい」「イイチコに近い」などの感想が多かった。イイチコとはアルコール度数25%の麦焼酎で、癖が少ない。言いかえるならば、風土性の弱い大衆焼酎である。
繰り返すけれども、梨パリンカは林檎に比べて風味を残さない。おなじ梨パリンカでも、洋梨の場合、糖度が高くて水分が少なくぬめりがあるのに対して、二十世紀梨は水分がとても多く、洋梨ほど糖度が高くない。この結果、梨の風味が消えてしまうのである。ちなみに、二十世紀梨は癖の少ない果実であるため、ケーキやジャムの素材としても特徴を出しにくいとパティシエさんがおっしゃっていた。
後日、別の機器で再度実験したが、蒸留酒の抽出量が著しく少なく、こんどはアルコール度数が高すぎるという結果になった。これについては、蒸留の時間が関係している。時間が短かすぎるから、加熱槽には果実の風味を残した薄いシードルと果肉が残っており、蒸留時間を長くすることで果実の風味をわずかでも強めることはでき、濃度の低い蒸留水が増える。アルコール度数を低く抑えるとともに、わずかながらでも果実の風味を強める可能性がある。ほかに、材料を二十世紀から長十郎や赤梨に変えるとか、酒に皮付きドライフルーツを漬け込むなどの工夫が必要かもしれない。

4-1 議員との対話
2017年6月19日、石破茂衆議院議員を応援する「どんどろけの会」の6月例会が開催され、「摩尼山-日本最大の登録記念物」と題する先生の講演の後、石破議員の東京事務所とネット通信がつながり、約10分間のWEB対話が実現した。
石破議員もブタペストでパリンカを飲んだ経験があり、鳥取県のどぶろく特区を支援してきた経緯もあって、比較的早くこちらの意図を理解していただけたようである。そして、「販路さえある程度確保できれば小規模の果実酒特区をつくるのはそう難しいことではない。やれます」という言質を頂戴し、会場からも割れんばかりの拍手で盛り上がったそうだ。過剰な期待は禁物だが、今後の活動を勇気づけられた。 【完】 (小次郎&ゆずまる)

【追記】 これで前期の基礎研究は終了しました。今後は教師が佐治の関係者と協議を続けていく予定です。