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男はつらいよ-寅さんの風景(14)

虹をつかむ男(表紙)


虹をつかむ男

 寅さんシリーズの第49作として構想されていた「寅次郎花へんろ」は、1996年8月4日に渥美清が逝去したことで制作中止を余儀なくされ、シリーズそのものも打ち切りとなった。「花へんろ」のロケ地は四国で、マドンナは田中裕子(2回め)、特別ゲストに西田敏行を迎えることが決まっていたが、撮影が始まっていたわけではない。「虹をつかむ男」は西田敏行と田中裕子を主演に格上げし、「男はつらいよ」常連キャスト総出演で渥美清追悼のために制作された正月映画である。
 こういう事情を知って、一月ほど前にDVDを通販で取り寄せたのだが、学期末の喧騒のなかで視聴がかなわなかった。この週末、ようやく映像をみた、2回繰り返して。
 舞台は徳島県脇町のオデオン座。LABLOGに登場したことがあるのはご存知でしょうか。徳島科学史学会で講演した後、美馬市の重伝建「脇町南町」(1988選定)を訪問して「うだつの町並み」をレポートしています。
 オデオン座は川を挟んで重伝建エリアの対岸にある。オデオン座の正式名称は「脇町劇場」で、創業・創建は昭和9年(昭和9年)に遡る。戦後、歌謡ショー等で多くの芸能人が公演し、地域に欠かせない娯楽の殿堂に成長していたが、平成7年(1995)に老朽化などの理由により閉館された。映画「虹をつかむ男」を制作した1996年にはすでに使える状態になく、映画館としての内部は別の建物で撮影したようだ。
 「虹をつかむ男」の好評を受けて、取り壊し予定であったオデオン座は市の文化財に指定され修復されて一般公開に至る。重伝建「うだつの町並み」と対比的な昭和戦前の近代化遺産として、いまでは観光の目玉になっている。


1115脇町14オデオン座01 2014年撮影


 「虹をつかむ男」の主題は映画である。田舎町の古ぼけた映画館(オデオン座)で世界中の名作をみせたいカッチャン(西田)の奮闘と叶わぬ恋を描いた人情喜劇。父親と喧嘩して家出した亮(吉岡秀隆)は、安い賃金に不満をこぼしながらも、カッチャンをとりまく人間模様と映画の素晴らしさに目覚め、オデオン座でのアルバイトを楽しむようになっていく。映画館では、「雨に唄えば」「禁じられた遊び」「東京物語」「野菊の如き君なりき」などの名作が次々上演されるが、経営は火の車・・・カッチャンはマドンナ八重子にも失恋し、ついに店じまいを決心するが、映画仲間に助けられて危機を乗り切る。
 新装開店とともに亮を実家に帰すことになり、最後にカッチャンと二人でみることになった送別の映画が、驚いたことに・・・??

 途中までは、ごく普通にみていた映画が、最終局面で劇的に変わっていく。感涙にむせぶ、とはこのことです。
 隠れた名作だ・・・心を動かされたわたしは、近所のツタヤに飛んでいき、第2作「虹をつかむ男 南国奮斗篇」をレンタルしようとしたのだが、在庫を確認した店員から「この店にはおいてありません」との宣告をうけがっくりきた。ところが、店員は続けて云う。「他店から取り寄せることは可能ですが、そうされますか?」。二つ返事でお願いした。
 映画「虹をつかむ男」がわずか2作で完結したことを残念に思う。寅フェチの立場から申し上げるならば、松竹は「釣りバカ日誌」ではなく、「虹をつかむ男」こそを「男はつらいよ」の後継として看板作にするべきではなかったか、としみじみ思うのだが、集客では「釣りバカ日誌」に及ばなかったのだろう。
 いまからでもよいので、山田監督ご健在のうちに制作を復活してもらいたい。




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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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