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続・ハ地区の進撃(8)-第6次ブータン調査

0912ゲムラム家オモヤ00001 170912 ゲムラム家外観②


ゲンサ村ゲムラム家

 9月12日(月)午後。民宿に近いガキ家での調査を昼までに終え、午後は3棟目の民家の調査へ向かいました。グンサ村のゲムラム家です。2日前、民宿に向かう途中に発見した平屋建の民家です。
 ゲムラム家は2回訪問して調査の許可を得ようとしましたが、いずれも不在でした。ご主人は在家信者であり、しばしば大寺のラマに代わって、村内世帯の法要プージャを仕切っているようで、なかなか家にいらっしゃいません。11日の夕方、ようやく奥様が帰宅され、12日の調査許可を得ましたが、約束の時間に訪ねてもまたご不在でした。配置図をとりながら待っていると、近所から戻ってこられました。柵に囲われた広い庭に足を踏み入れると、2匹の小猫が出迎えてくれました。


170912 ゲムラム家 ねこ


 世帯主ご夫妻は近年、東ブータンのトンサから移住してこられたそうです。家は借家です。所有者は近隣に新しい住宅を建てられています。トンサの方言をケンパ語といいます。部屋の名前をたずねても、ハ地区の言葉をご存じないため、ケンパ語でお答えいただきました。正式な建築年代を特定できませんでしたが、ブータン民家の中でも稀少な平屋の民家であり、年代が古くないにしても、古式を残す建物であることが予測できます。
 ブータン民家は、ガキ家のように1階を家畜小屋にして2階を住居スペース、屋根裏(3階)を作業兼乾燥場にする形式が一般的です。それに対し、ゲムラム家は平屋造で、牛小屋2棟を別棟として設けています(↓右)。ガイドのウタムさんによると、このように平屋で家畜小屋を外に配する民家は南ブータンに多いそうです。その佇まいから、以前翻訳したクンサン・チョデンの絵本『心の余白』(Room in Your Heart)の表紙の家を思い出すと、先生はおっしゃっていました。


170912 ゲムラム家 作業風景① 170912 ゲムラム家 牛小屋 


 今回は1階平面図と立面図、屋根伏図の作成に加え、窓と扉の様子をスケッチし実測しました。屋根裏もできれば調査したかったのですが、在家信者のご主人が仏間の上に人があがるのを嫌がられたため、屋根裏に上がることができませんでした。学生3名は1階平面図・配置図の作成、ディティールの記録に尽力しました。
 方言の違いから、平面図を描いた後に部屋の呼び名も発音が微妙に異なっており、台所は「タプツァ」、仏間は「チェシュム」と呼ぶそうです。中央通路は特別n呼称はなく、道(ラム)と呼んでいます。北東に配す部屋は倉庫兼作業場にあたりますが、織物器タータを置いているため、タータ・ルームと呼ばれています。


170912 ゲムラム家 平面図 1F平面図


 ゲムラム家の仏間はガキ家にくらべると素朴ですが、さすが在家信者の家であり、数多くのタンカ(仏画)やポスター・カレンダー類が壁に貼られていました。ポン教の神パジェ・ラパニ、グルリンポチェの八変化の一つ「ペマジュネ」、弥勒菩薩ザワ・ゲンパ、ドゥク派の座主ジュケンポなどの姿が映されたポスターが貼られていました。ここでも先生はポラロイドと一眼レフでつぶさに神仏の調査をされました。


0912ゲムラム家仏間00001 
↑仏間正面 ↓ポラロイドによる仏画類の調査
170912 ポラロイド③ 170912 ポラロイド② 170912 ポラロイド①



170912 ゲムラム家 屋根伏図 屋根伏図


住まいを荘厳する旗ダル

 建物の外まわりには、屋根伏図(↑)からも読みとれるように、多種多彩な旗ダルが棚引いています。入口付近には、布にお経を書いたダルシン(経典旗)やマニダル(五色旗)、オモヤの屋根の中心にはギュンダルを立ちあげています。ギュンダルは一家の幸福を願うための旗で、毎年一回一週間ほどの期間を使って立て替えられます。その際、家族の幸せを祈る祈祷プージャがおこなわれます。また、あたかもダルシンのように屋敷地の内外にそびえ立つ針葉樹も目につきます。樹種はブルーパイン(五葉松=ヒマラヤゴヨウ)です。ゾンカ語ではトンフーシンと呼びます。
 約4時間半の作業を終えてゲムラムさんや猫たちとお別れし、民宿に戻りました。宿泊3日目の夕方、ソナムジンカの民宿では小川対岸の石焼き風呂を用意していただいており、ゆっくり暖かいお風呂に浸かって体をほぐしました。わたしは半時間でしたが、先生は約一時間、男子2名は一時間半も半身浴を楽しみました。効果は抜群で、体の隅々にパワーが溢れ、その余力は翌朝まで残っていました。
 お風呂のあとは郷土料理の夕食です。キンレイさんの美味しい食事を食べられるのもあとわずかだと思うと、名残惜しく感じました。


170912 ゲムラム家 カマド 旗 170912 ゲムラム家 畑
↑ダルシンとマニダル ↓ギュンダル
170912 ギュンダル

ゲムラム家 原型③ ゲムラム家 原型①


峠の民家

 翌13日、ハ地区から首都ティンプーに移動する峠の山道の路肩で、ゲムラム家とよく似た農家を発見しました。ただし、ゲムラム家は間口が4スパン、峠の民家は間口2スパンでトタン葺きになっています。窓など開口部のディテールもそっくりでした。ゲムラム家のような平屋建民家の原型とみなしうる建物だろうと思います。(きびたろう)


ゲムラム家 原型②

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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