サテンドール(ⅩⅩⅥ)


十月桜の記憶-農村カフェ
五時を過ぎると日の暮れも早く、上方往来(因幡街道)に沿ってたつ長屋門の入口に設えられた灯籠のあかりがまぶしくきらめいているのが見えた。あかりを注視すると、
因幡街道 平福宿
農村カフェ 記憶
播州平福本陣
神吉氏別庭跡庭園
(旧田住邸)
と書いてある。「農村カフェ」とはまた有触れたようで、少し間をおくと、新鮮な呼び方に思えてきた。「記憶」という店名も、気持ちはよく分かる。髭のマスターに誘われるまま、そそくさと中に入った。どうやら、宮本武蔵が幼少期に母と暮らしたところであるらしい。農村カフェという言葉どおり、民家の内部は大きく模様替えなどしていない。庭を隔てて長屋門の対面にある奥座敷が喫茶室になっている。経営者のご夫妻はIターン者で、7年前からここに住みついてカフェを始めた。ご主人は、地域振興文化研究所の代表でもあり、限界集落遊休資産再生、国際交流事業計画、CATV企画・制作なども手がけられている。
予約すれば割烹料理を食べさせてただけるが、普段のメニューは自家製羊羹と柿を添えたコーヒーセットのみ(500円↓右)。


座敷から庭を覗きみると、梅のような花が満開になっている。奥様が「十月・・・」と答え、矢継ぎ早にわたしが「・・・桜」と続けた。平福で「十月桜」の仇を取った。十月桜の咲き乱れる用瀬総合グラウンドでFCセクストンの東西対抗血戦はおこなわれるはずだった。それが台風で消滅した。こういう桜があの土手に咲いていたんだな。

ご主人はわたしより何歳か上の方で、東京住まいが長かったと聞く。いまは姫路にも家があるようで、平福のこの家は別荘兼カフェのようなものかもしれない。いつもの御託で、土蔵を転用したジャズ喫茶をやりたい、と告白した。オーディオ機器とインテリアで一千万円ぐらいかかるかな、と思っていたのだが、その半分以下でいけるというアドバイスを頂戴した。そして、土蔵もいいが、長屋門は如何かということで、去り際に長屋門の内部をみせていただいた。たしかに、15席ぐらいのこじんまりとした店に衣替えできそうだね(↓)。
黄昏流星群風にいうとですね、儲からなくてもいい。自分を取り戻したいだけなんだ・・・

