パリンカの夢、もういちど(1)


梨美子-広岡農場物語(1)
12月13日(水)、雪のなか大学から車で進むこと約20分、私たちは広岡農場に到着しました。ここは梨の栽培をしている農事組合法人ですが、農業にとどまらず、ワインの本場フランスでも絶賛される果実酒を作りあげた醸造元でもあるのです。ログハウス風のオフィスに通していただき、そこで専務さんのお話を聞かせていただきました。窓外には近景に梨畑、遠景に鳥取の街が映り、とても美しい雪景色に包まれていました。
専務さんは、もともとお酒に強いわけではないのですが、あるときタイのビアホールでシードルを飲んだところ、お酒の飲めない人でも飲みやすいと思ったそうです。 しかし、シードルはやはり食前酒であり、何杯も料理に合わせて飲めるわけではないので、そこから梨を使って料理にふさわしい飲料を、と思ったのがお酒作りのきっかけでした。今まで、日本の梨をお酒やケーキの素材にすると、風味が出ないことを欠点だと私たちは思っていましたが、 逆に考えれば、それは長所でもあったのです。
地域の材料を使ってお酒を作る特区(規制緩和対象)は県内にも少なくありませんが、それらは必ずしも持続可能ではないと専務さんは仰っていました。それで、お酒を作るからには「道の駅」におくレベルではなく、本場フランスのミシュランで星をとっているようなレストランにおいてこそ一流であり、持続可能な商品として生き残る方法だと考えられたのです。ワインの本場に果実醸造酒で打って出るというのはハードルが高いと躊躇されてきましたが、味のわかる国で挑戦しないかぎり意味がない、と発想を逆転されたわけです。



フランスで通用するものをつくるため、徹底して味にこだわり、10年近くかけてついに梨の果実酒「梨美子(りこ)」を作りあげました。ほかにナシードルに近いスパークリングタイプの梨ワインや、梅酒「美梅子(うめこ)」などの製品もあります。これらの醸造工程は蒜山のワイナリーに委託しています。
こうして出来上がったお酒をはじめてパリに出展した際は、試飲すらしてもらえない状況でした。しかし、ミシュランの星付きレストランに自らボトルを持ち込み、シェフに試飲してもらったところ、かなりの高評価を得たそうです。
そんな漆原さんはエコツーリズムを目標に挙げています。ただ売るだけだったらインターネット販売でもできます。鳥取に実際に来てもらって、風景を眺めながらそのお酒を飲んだり、風土性のあるおつまみを一緒に食べたりすることが地域貢献になり、意味のあることだと仰っていました。
最後には、みんなで「梨美子」を試飲させていただきました(私は急遽運転係になったので飲めませんでしたが)。お酒の好きな先生も、お酒が苦手なゼミ生も 皆「梨美子」のおいしさに驚いていました。その味のレベルは「梨酒」の域を超えています。
この日は広岡農場に行って、とても良い話が聞けました。日本の梨醸造酒をあえてフランスで売るという発想と、それを本当に実行してしまうのがすごいと思いました。いろいろ苦労したこともあったと思うのですが、次はこうしたいというような明確な目標 とやる気を持たれており、なによりとても楽しんでやっているのだと感じました。
大学の近くに、こんな場所があったとは…! (あやかめ)

農事法人 広岡農場 〒689-1116 鳥取市広岡151 ℡0857-53-5308
http://www.hirooka-farm.com/