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男はつらいよ-倉吉長屋物語(5)

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文化財行政の曲がり角

 春晴れのなか、倉吉市河原町の長屋群跡地を視察しました。ごらんのとおりです。中部地震以前の計画では、小川財団は5軒長屋を壊して大型自動車(バス・トラック)の駐車場にする計画でした。ところが、そもそも旧道(八橋往来)は大型車両乗り入れ禁止でありまして、当初の計画は変更せざるを得なくなった。この空き地をいったいどう使うつもりなのか。
 2016年の県中部地震以前、奥にみえる土蔵をレストランにする予定だったと聞いていますが、いまはどうなっているのか、さっぱり分かりません。5軒長屋の撤去に公金が投入されたのか、あるいはまた土蔵は登録文化財でも県指定文化財でもないのに、補助金によって改修がなされるのか、いっさい情報が公開されません。
 下の写真は左が最近、右の写真が昨年11月のものです。微かに残されていた重伝建の夢はこの長屋群の撤去で完全に潰えました。卒業したパディさんにフォトスキャンのオルソ写真を作成しておいてもらったのが唯一の救いです。パディさん、ありがとう!


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 すでに何度か述べたとおり、文化財保護を任務とする市教委文化財課が少なくとも中部地震以前の段階で文化遺産撤去の指導的役割を果たしたことが今も残念でなりません。その責任者はこの四月で開発側の部局に異動してしまいました。後任は文化財の専門家ですが、町並みに愛着があるかどうかわかりません。日本の地方自治体で文化財行政を牛耳っているのは考古屋さんたちです。考古専門の技師さんたちの大半は史跡と埋蔵文化財にしか興味がない。建造物・町並み・美術工芸・民俗・名勝・文化的景観など多岐にわたる文化財保護の課題を抱えているのに、頭の中にあるのは発掘現場のことばかり。もちろん例外的な専門家もいます。われらが会長さんなどは文化財を多面的に俯瞰できる例外的な考古学者ですが、鳥取県内にこういう人材は本当に少ない。


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↑昨年度末に登録文化財申請した旧O家土蔵の壁は相変わらず剥落し、屋根にはブルーシートが被さったまま。県中部地震から一年半が過ぎてなおこうなんです。これが地方の実情です。しかし、未来がないわけではない。河原町の未来を託すべき建物になったと言って過言ではありません。


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 じつは県全体が文化財行政の大きな曲がり角を迎えています。高速道路の事前発掘調査がほぼ終わり、ここ十年ばかりの間に雇用した多数の若い考古技師さんたちの働き場所がなくなってしまったのです。そうした若手には「文化財学」の再研修をおこなうべきでしょうね。史跡や埋蔵文化財だけに拘らず、建造物・町並み・美術工芸・民俗・名勝・文化的景観などあらゆる分野に対応できる人材に生まれ変わってもらわなければ困ります。考古学の出身だけれども、他の分野の調査能力、報告書作成能力、保全・整備・活用などの手法等を身につける必要がある、ということです。
 先日、文化庁の主任文化財調査官と電話で雑談したんですが、文化財保護法が改訂され、文化庁が京都に移る今こそ組織・体質改善の好機としてとらえるべきだというポジティブな提言をいただきました。今年も鳥取にお呼びして、関係者の前で話をしてもらおうか、と思っています。私、個人的にはでしゃばってはいけないとも思っていますし、もとより私の助言など誰も聞きいれてくれないのですが、文化庁の提案なら皆受け入れてくれますからね。

 スティ・ポジティブ! 
 鳥取県に新しい文化財保護の制度と組織が誕生することを陰ながら願いつつ。


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↑河原町の町並み緑化修景のため、コンクリートブロックに初雪かずらを植えたのは2015年10月のことでした。2年半経ってこの状態です。十年がかりですね。初雪かずらは品のよい壁隠しになってくれるでしょう。

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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