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2017年度学内特別研究費実績報告

中国青海省・西蔵自治区におけるチベット仏教僧院の予備的調査研究

 2015年度の本学教育研究特別助成「中国青海省におけるチベット仏教系僧院の予備的調査研究」では、青海省文物考古研究所と交流を図りつつ、西寧~青海湖周辺の主要なチベット仏教ゲルク派の僧院を視察した。2017年度に採択された学内特別研究費助成「中国青海省・西蔵自治区におけるチベット仏教僧院の予備的調査研究」はその続編であり、青海湖から青蔵鉄道等を使って西蔵自治区に移動し、まずはラサでゲルク派と係わるポタラ宮・大昭寺・小昭寺・セラ寺・ノルブリンカ宮などを視察後、南下してツェタンを訪問した。ツェタンはチベット最古の王朝「吐蕃」の初代国王ソンツェンガンポ(581-649)の故郷であり、歴代吐藩王を埋葬する方墳(一辺100~140m)が少なくとも10墓確認されている。さらに周辺にはミンドゥリン寺、サムエ寺、ヨンブラカンなどの仏教僧院に加えて、城壁・城跡が残り、城下町にあたる集落の保全状態も良好であり、今後の有力な調査候補地になるであろう。
 一方、11月には、チベット・ブータン仏教史の第一人者、今枝由朗氏(京大特任教授)を招聘し、「ブッダが説いたこと」を主題とする研究講演会を開催した。この研究会には中村元記念館東洋思想文化研究所の研究員など仏教関係研究者が多数参加し、今後のチベット仏教比較研究ではブータン、チベット、アムドなどに加えて、西北雲南高地が重要な意味をもつことなどを討議した。
 2015年と2017年の予備的調査の結果、青海省(アムド)・チベットのゲルク派とブータンのドゥク派では仏教修行のあり方や伽藍構成、周辺環境の適応が大きく異なることが明らかになった。ブータンでは岩山の絶壁に貼り付くようにして境内を構え、少し奥まった崖の岩陰・洞穴に瞑想修行場を設ける。対して、青海(アムド)・チベットの高原地域では比較的なだらかな平坦地に境内を構え、裏山に瞑想洞穴(修行洞)を設ける場合もあるが、むしろ境内を顕密の二大エリアに区分し、隠された密教側のエリアで「活仏」になるための修行に取り組む。顕密併習を原則とするチベット仏教ではあるけれども、チベット側のゲルク派では顕教、ブータン側のドゥク派では密教の比重が大きい。一方、生態的な適応を考えるならば、上に述べたように、東ブータンに近い西北雲南の高原地域が比較研究のフィールドとして重要な意味をもつであろう。今年度、幸いにして「ブータン仏教の調伏」を主題とする科学研究費(基盤C)が採択されたが、2015~16年度に申請したようなチベット・アムド・ブータンなどのチベット仏教修行場を包括的に把握し、相互比較に取り組む大型申請に再度挑戦したいので、中国側の調査対象地域を拡大するための予備的調査を継続しようと思っている。なお、昨年度の調査成果概要については、研究室のブログに7回連載した。


 青蔵鉄道-吐蕃の道(1) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1602.html
 青蔵鉄道-吐蕃の道(2) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1711.html
 青蔵鉄道-吐蕃の道(3) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1713.html
 青蔵鉄道-吐蕃の道(4) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1712.html
 青蔵鉄道-吐蕃の道(5) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1714.html
 青蔵鉄道-吐蕃の道(6) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1715.html
 青蔵鉄道-吐蕃の道(7) http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1719.html

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魯班13世

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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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