今年も、寅さんの風景(13)

前哨戦
10日〆切の原稿をほったらかしていたら、23日になって編集者から25日がデッドラインだとするやや不躾な宣告があり、内心では編者としては玄人ではないと直感したけれども、なんとか2日間で書き上げた。昨日、25日(水)の午前は、その詰めの段階であり、早く書き終われば摩尼寺の被災現場に駆けつけようと思っていたのだが、途中からそんな意欲も失せてしまった。午後一番で「寅さんの風景」の発表会を抱えていたからである。

文化庁の主任が三徳山の仕事で来鳥されることが決まっていた。登録記念物「摩尼山」の誕生に尽力してくださった方でもあり、短時間ながら急遽、摩尼寺参道の被災現場を視察していただくことになり、常識的にはわたしも参上すべきだが、時間がないものはないのである。わたし自身は行けなかったが、国の官僚が来るとなれば、県・市・寺の関係者は(珍しく一同に)現場に集結し、倉吉の会長までその場を訪問したというから驚きである。これまで登録記念物で「災害復旧」に補助金がでたことはないらしいが、なにぶんこのたびの集中豪雨は桁違いであり、首相自ら財政出動を宣言しているくらいだから、あるいは一定のサポートを得られるかもしれない・・・確証はありませんが。

2018プロジェクト研究1&3発表会
同日午後1時からの「寅さんの風景」発表会は無事に終了しました。構成は以下のとおりです。
1.イントロ(安冨)
2.第13作「寅次郎恋やつれ」1973年 (白井、鈴木)
3.第19作「寅次郎と殿様」1977年 (大賀、小川、岡田)
4.第27作「難波の恋の寅次郎」1981年 (嶋田、松浦、宮永)
5.第38作「知床慕情」1987年 (佐藤、許、村上)
6.第44作「寅次郎の告白」1991年
①ストーリー(川乗、柴田)
②再現ロケ(新、沖田、峯)

パワポは何回も校正したので、上々の出来になっていましたが、残念なことに、スピーチで噛む学生が多く、またスライド・チェンジのタイミングがずれるところもあって、わたしのまわりで聞いていた上級生たちも「聴きづらかった」という感想を述べておりました。前日、食堂で出会った複数の学生には「しっかりスピーチ練習しておくように」と指示しておいたんですが、実際には練習していない学生が大半だったということでしょうね。せっかく苦労してつくったパワポなのに、もったいないことをしました。もちろん例外もあって、第38作「知床慕情」をスピーチした1名の声がよく通っていて、上級生等からも好評でした。



必然的な泉と寅の再会
内容的には、やはり鳥取を舞台とした第44作「寅次郎の告白」(1991)がおもしろく、再現ロケ撮影はもちろんですが、泉ちゃんが鳥取に来たのは偶然ではなく必然であったという新しい解釈は昨年なかったアイデアで斬新でした。上に示した場面、つまり上京して就職活動に失敗した泉ちゃんが、寅さんに「今度はいつおじちゃまに会えるのかしら」と問いかけると、寅さんは答えます。
泉ちゃんが俺に会いたいと思ったときだよ。
このやりとりが伏線になっていて、その後、名古屋の実家から家出する泉ちゃんはたまたま鳥取に向かったのではなく、無意識のなかで鳥取に向かえば寅さんに巡り合えるという予感めいたものをもっていたであろうという見方です。果たして、泉ちゃんは倉吉で寅さんに出会うわけですが、寅さんは抱きつく泉ちゃんに何も言わない。泉ちゃんがしゃべりたいことを黙って聞いてあげる。人の気持ちに寄り添う寅さんの思いやりをつよく感じさせるシーンです。

コメントは3名の先生から頂戴しました。一人目(男性教員)のコメントはなかなか質(たち)がわるい。講演を聴かずに眠っていたのか、もともとセンスがないのか分かりませんが、「寅さんは究極のKY」だと言って、学生に意見を求めるのです。「寅次郎の告白」の感想で、女子学生が「相手の気持ちに寄り添って自分からは口を開かない寅さんだからこそ、まわりの人たちから愛されるのだ」と述べたばかりであるにも拘わらず、「究極のKYだ」とコメントするセンスには内心あきれ返ったというのが当方の本音です。

若い女性教員は「これまで寅さん映画をみたことがないので聞きにきた。寅さんサミットって何ですか」という質問があった。わたし自身参加したことはないのですが、ネット情報を頼りにしてリプライした。寅さんサミットは毎年11月に葛飾柴又で開催されるイベントで(今年は11月3~4日)、ロケ地となった自治体が特産物をもちよったり、風景の変化を示すパネル展示をしたりするようで、どうも寅さんの格好をしたおじさんたちがあちこちうろうろ歩き回るらしい。

倉吉と安部駅でのロケに同行した会長さんも発表会を聴講してくださっていて、鳥取県内のロケ再現については目をシロクロさせて聞いておられましたが、ここだけの秘密をお話しましょう。「寅次郎の告白」の発表までは爆睡しておられたのです。後ろに座っていた院生によると、開始直後からずっと眠っていて、鳥取篇になって突然目を覚ましたそうです。午前中から摩尼寺で活動して疲れてたのかもしれませんが、その姿は鳥取西高SGHを彷彿とさせるものでありました・・・


倉吉在住の会長さんからは町並み保存を例にとり、重要伝統的建造物群保存地区に選定されたエリアでは「寅さんの風景」がよく残っているが、選定から外れたエリアでは伝統的な景観が崩壊しているという指摘がありました。そんなん、学生がパワポで説明したばかりのことじゃありませんか・・・今回は重伝建として島根県の津和野と温泉津も登場しました。
昨年の発表は十年に一度の上出来でした。わたしのプロ研指導史に残る傑作だったかもしれません。昨年、寅さんを演じた2年生も聴講しに来ておりました。そんな背景があるためか、スピーチの拙さも手伝って、やや物足りない印象をもたなかったとは言えませんが、今年も普通に良い出来の発表会だったと思います。
学生のみなさん、ありがとう、お疲れ様でした。


↑最後の集合写真