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旧小倉家住宅が登録有形文化財に答申!

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災害と登録制度

 文化庁の文化審議会は、2018年7月20日(金)、新たに209件の建造物を登録するよう文部科学大臣に答申した。この結果、登録有形文化財の総数は11,981件 (47都道府県925市町村(区))となった。鳥取県内では、以下の5件が答申の対象となり、年末には官報告示を受ける予定である。
  
  長田神社(鳥取市東町1丁目)  8棟
  高田家住宅主屋(鳥取市鹿野) 1棟  
  金平家住宅主屋(琴浦町太一垣) 1棟
  蚊屋島神社(日吉津村日吉津) 8棟
  旧小倉家住宅主屋・土蔵(倉吉市河原町) 2棟
     主屋:昭和11年(1936)  土蔵:大正4年(1915)


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 あれは、3年ばかり前の春の出来事であった。2013~15年度県環境学術研究費「倉吉打吹山麓の歴史的風致に関する総合調査」(2013-15年度)をようやく終えて新しい研究に軸足を移そうとしていた矢先、倉吉からお呼びがかかり、河原町東地蔵の裏手に建つ土蔵を取り壊す構想があるのでなんとかしたい、という相談に乗ったところ、とんとん拍子で登録文化財をめざすことになり、前期から3年生のメンバーを主体に主屋と土蔵の調査に着手した。とはいうものの、すでに建築・環境デザイン学科は解体しており、実測等の訓練を十分積んでいたのは大学院生のケントだけだった。スローペースではあったけれども、ケントに率いられて当時の3年生が旧小川家と隣の大鳥屋の実測作図を進めていき、後期になって申請書類の準備をはじめようとしたところに鳥取県中部地震が発生し、旧小川家の土蔵が被災して、白壁の一部が剥落し、屋根瓦がずれてブルーシートに覆われたまま今に至る。


0614河原町旧小川家06白壁破損03屋ね01 0614河原町旧小川家06白壁破損02
↑県中部地震での被災状況

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↑旧小倉家土蔵断面図(ケント作成)



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 そうした状況がまる一年以上動かないまま時が流れていったが、旧小川家の登録申請は、なんとしてでも調査を担当した学生たちの在学中に終えたいと地元にお願いし、この正月に申請がなされた結果、このたび日の目をみたということである。答申とは「内定」のレベルではあるけれども、事実上の決定であることはだれでも知っている。だから、もっと喜びを分かち合いたいのだが、なにやらどんよりした空気が漂っている。

 河原町の旧小川家住宅には、去る6月14日(木)、「寅さんの風景」のロケ地再現で訪れたばかりである。第44作「寅次郎の告白」(1991)のシーンを再現するために倉吉を訪問したわけだが、作中で舞台となる玉川重伝建地区は今も風景に変化が少ないのに対して、重伝建選定に至らなかった鉢屋川地区では風景が激変していることがロケシーンの再現で鮮明に読み取れることは先週の発表会でも報じたところである。そんななかで河原町の旧小川家住宅は鉢屋川や東地蔵の風致とあいまって残された数少ない景観資源になっているが、すでに述べたように、県中部地震の被災状況は2年を経て癒えていない。


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相次ぐ登録文化財の解体

 登録有形文化財が11,000件を超え、日本の文化財保存制度に著しい変革をもたらしたものと評価される一方で、「登録文化財の解体相次ぐ」という記事が相次いでいる。登録文化財はその文化財(の所有者)を顕彰する制度であり、補助金の支援がほとんどない。維持修理に補助金がでない制度であり、結果的にそれは登録文化財に致命的な打撃を与えかねない。たとえば、摩尼寺本堂を例にとると、本格的な修理には億を超える資金が必要だが、そんな費用はどこにもない。檀家もいない。そういう状態を踏まえるならば、遠くない将来に「解体」を余儀なくされることだってありうるだろう。
 そもそも登録という制度は、阪神・淡路大地震で被災した未指定文化財建造物を救えなかった反省に端を発している。火災・台風・地震などで被災した物件に対して援助の手を差し伸べないとしたら、未指定を登録にした意義はないことになるだろう。すでに2度報告したとおり、登録記念物「摩尼山」においても先の集中豪雨によって土砂崩れが発生し、その災害復旧が急務になっている。行政は登録制度の原点に立ち返り、災害復旧の対象として登録文化財・登録記念物をある程度優先すべきではないか。その場合、とくに重要な立場にあるのは国以上に自治体である。なぜなら国の重要文化財の場合、将来的には国から補助金が出るわけだが、登録文化財にその保証は全くないわけで、被災の状況によっては国の補助がなくとも、自治体独自での財政出動を可能にしておく必要があるだろう。その場合、松江市登録文化財兵庫県登録有形文化財などの補助金を伴う登録制度を見倣って、自治体独自の登録制度を確立しておくしかないのではないか。


0614河原町旧小川家05撮影時のスナップ 「寅次郎の告白」(1991)撮影時スナップ


 いまも奈良県は台風12号で大風が吹いている。居住地の被災はもちろんのこと、文化財にもまた相当の被害がでるだろう。くり返すけれども、被災した物件のうち指定文化財だけを補助しても意味はない。災害復旧に苦しむ登録文化財・登録記念物に対して積極的に救いの手を差しのべる制度改革を期待している。


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↑「寅次郎の告白」の場面 
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↑上と同じアングル

【関連リンク先】
・環境大学HP
https://www.kankyo-u.ac.jp/tuesreport/2018nendo/20180801/
・官報告示(11月2日)
https://www.city.kurayoshi.lg.jp/gyousei/div/kyouiku/bunkazai/1/1/5/#35

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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