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河本家住宅家相図の研究(4)

0803河本03ナンド01家相図02sam


ナンドの謎

 家相図との比較で最も理解できないのが主屋のナンドである。広間側からみると、古風な高敷居があり、17世紀末の建立当初には稲わらなどを敷き詰めた寝間であったことを十分想像させる。それが今は数寄屋座敷の構えをしている。表の座敷とナンドの間には押入スペースが2列並ぶが、絵図では前側の一列のみで仏壇を中央に置き、向かって右に押入を前後2ヶ所、左に置戸棚を配する。ナンドは絵図も現状も八畳だが、いまは広間と玄関を分ける間仕切りに沿って建具が入り、その前側を押入・収納スペースとしている(↓)。このため、八畳の広さを確保しようとすると、北側の壁・間仕切りは絵図よりも半間奥側にずらす必要がある。絵図では、北側の左半一間は建具、右半一間は押入とするが、現状は左半一間は板のない床構え、右半を引違戸にして北側の新ハナレへの連絡路としている。結果、絵図にみえる五畳の間はいまは四畳を二分している。
 ナンドの様式は数寄屋色が強く、おそらく離れや主屋-客間中間の六畳(ナンド南西の間)と近い様式であり、幕末~明治の意匠のように思われる。家相図制作以後の大きな修築があったと考えるほかなかろう。家人の言によれば、家の「主人」の部屋であり、庭側に独立の門も備えている。家の子どもでさえも入ることが許されていない禁忌の部屋であったという。家相見をしたときにその部屋に入ることができなかった可能性すらなくはないので、今後検討の対象にしていくべきだと思いました。


0803河本03ナンド03棟通り01
↑ナンド南側の押入  ↓ナンド北側の床構え
0803河本03ナンド02床まわり01



0803河本04離れ04家相図01


離れの増改築

 現状の離れは南から四畳・六畳・八畳の並びになっている。3つの座敷の続き間で、第二の客間のようにもみえるが、家相図をみるかぎり、幕末のころは南の四畳を土間二畳+クド付板間、畳一畳+戸棚として玄関兼台所の役割を担わせ、北側の六畳座敷の奥に雪隠を設けているので、ある程度独立した世帯?の生活スペースのような匂いがしている。手前の四畳は今は二畳二室の畳敷きに変わっている(↓)。


0803河本04離れ01 




 奥の六畳は今は八畳に拡大されている。絵図の床が幅半間でその隣を押入にしていたのに対して、現状は床が一間でその隣を違い棚として書院造の格式を強化している。居住者の生活スペースが接客の場に変容していったのだろうと推察される。床の対面の壁中央に縦方向のひび割れがあり、隅の柱が立っていた痕跡のような気がする、そうして床を見直すと、まぐさが新しくなっている。
 同じ八畳間の東壁の南端近くにも壁のひび割れを確認できる。とくに小壁の破損が激しい。絵図をみると、客間から続く廊下が床付六畳(今の八畳)にあたり、その位置を出入口にしていた。今は東側に縁がついて南まわりで中央の六畳間に入るが、かつては縁がなく、北側の床付六畳と連絡していたことが分かる。家相図以降の、おそらく明治期に改修・増築がなされたのであろう。ナンドの修築時期と重なる可能性が高いと思われる。(教師)


0803河本04離れ02長い床01 
↑八畳の床  ↓(左)床対面の壁ひび割れ  (右)旧戸口の痕跡(ひび割れ)
0803河本04離れ03壁のひび01 0803河本04離れ03壁のひび02縦01


 今回の調査の収穫は大きく、今まで就活の影響で低迷していた私の卒論も進めることができそうです。夏休みの間に、今回の調査をもとに家相図の間取りをトレースして当時の間取りを推測したり、フォトスキャンを用いて重ね撮りした写真を3Dデータにしたりしていきたいと思います。学生最後の夏休み、勉学と遊びの両立を目指して有意義な二か月にしたいと思います。(小次郎)


0803河本01記念写真001


【関係サイト】
2018年度卒業論文概要(1)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2012.html
2018卒業論文中間報告(2)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1919.html
河本家住宅家相図の研究
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1864.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1865.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1868.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1867.html
(5)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1998.html
琴浦町倉長家の家相図調査
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1957.html
フォトスキャンを活用した文化遺産の分析(2)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2011.html

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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