風に吹かれて-第7次ブータン調査(3)


ナギ・リンチェン瞑想洞穴
8月28日(火)、ブータンに来て2日目です。朝9:00頃ホテルを出発し、交差する川の中洲に建つプナカ城の門前でいったん下りて記念撮影をしてから、ソナガサ(SONAGASA)村へ向かいました。訪れたのは、14世紀にバングラデシュからやってきた来た僧ナギ・リンチェン(NAG GI RINCHEN)の瞑想洞穴ドゥブカン(DRUBHANG)です。ボン教の悪霊がナギの瞑想による調伏で護法尊(英語ガーディアン・デイティ)に浄化された神が祀られているとのことで、期待が高まります。
はじめにいまこの修行場を管理する住職さんをポラロイドで撮影し、村やお寺の名前を教えていただきました(↑右)。この写真をプレゼントするととても喜んでいただけました。岩陰にはツァーツァが沢山ありました。ツァーツァは遺灰を混ぜて108個(煩悩の数)作るそうです。日本の奈良時代に作られていた百万塔と似て、ツァーツァの裏側の中心に経典が挿し込まれています。先生がおっしゃっており、仏教の伝播の足跡をたどっているようで、物事を関連付けることは面白いと思いました。


住職さんの話を聞くと、この場所の守護神はもともと悪霊だったことがわかりました。かつてナギの母親が悪霊を捕まえて、その姿の内側にある魂を体から追い出し、代わりに母親の魂を入れたそうです。母親の魂がどこにいってしまったのか分からなくなったので、僧が瞑想すると、巨岩の中にあることが分かりました。その巨岩を割ると母親の魂があり、溢れんばかりのパワーが出たという伝承が残っています(この巨岩がある場所へはのちほど行きました)。


ギュンダッブとツォメン
ナギにより調伏されて悪霊から護法尊になったのが、ギュンダッブ(GYENDRAB)というプナカ谷の守り神です。今回の調査では、ギュンダッブの像の写真を撮らせてもらうことができました。「仏像さえ撮影しなければいい」ということで、洞穴の縁に祀られているギュンダッブは守り神でありながらも、仏像ほど重要視されていないことがよく分かります。第7次調査中、護法尊が偶像化しているのを見れたのは1日目(27日)のチメラカンとここだけでしたが、前者は撮影が許可されなかったので、ここでの撮影データは大変貴重なものです(一昨年のハ地区Z家の赤鬼ジョーと青鬼チュンドゥに比肩すべき)。第5次調査(2016)ではチュンドゥ・ラカンに近いハ地区のZ家民家仏間で赤鬼ジョーと青鬼チュンドゥを確認して以来の成果です。ドゥブカンの仏壇中央には十一面観音菩薩(チャットンチェントン)、向かって左と右手前にはナギの像が祀られていました。仏壇の横には比較的大きめのチベット式チョルテン(ストゥーパ)を構え、洞穴のいちばん奥にギュンダッブが祀られていました。水の守護神ツォメン(TSOMEM)もギュンダッブの脇侍として併祀されています。洞穴のなかにチョルテンがあることはブータンでは珍しいですが、インドの石窟寺院でも最初期のものは仏像ではなく、塔が内部にあるそうです。


↑内陣に露出する崖の岩とチョルテン ↓記念写真


ジャガ・ラカンの巨岩
次に私たちは、ナギの母親の魂が埋め込まれたという巨岩を見に行きました。この場所はジャガ・ラカン(JAGA LHAKHANG) と呼ばれています。母親の魂を隠したと岩に同じ自然物でリベンジをするために、ナギは瞑想で雷を呼び寄せ、雷のパワーでこの岩を割ったそうです。巨岩の一部には経文が彫りこんであり、壁に体を当て、文字を指でたどりながら読むことができます。巨岩の横には3色のストゥーパが建ち並んでいました。四方位の守護神を祀っているそうですが、4方位なのに3基なのかはガイドのウタムさんにもわからないとのこと…。ストゥーパにはそれぞれサンスクリット語のおまじないが書いてありました。こちらのおまじないの意味もサンスクリット語なのでわからないそうです。(バレー)

↑霊石山の御子岩より小さな巨岩 ↓経文の彫りこまれた岩


【連載情報】風に吹かれて-第7次ブータン調査
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