雲のかなたへ-白い金色の浄土(7)


デチェン・チベット族自治州博物館
9月15日(土)。少々頭痛がして目が覚める。まだ夜が明けていない。時計をみると午前6時(日本時間の7時)。高度計は3200mを表示している。朝食時に水餃子がでた。店の女主人は黒龍江省ハルピンの出身で水餃子を得意としており、店の看板メニューとしている。「ここに来てもう15年になる」が口癖のマダムである。朝食後、支払いで少々揉めた。どうも何さんのやり方が教授はお気に召さないようで、担当がラオルオに変わった瞬間、事態は解決した。この日はラオルオの親しいチベット族女性研究者のアツゥイさん(蔵族研究所)が参観先の手配をしてくださることになった。
朝食後、ホテルの「源鑫閣」を徒歩で出発。近くのデチェン(迪慶)藏(チベット)族自治州博物館に向かう。博物館前の広場には舞台がつくられ、何かのお祭りの会場になっているようだ。警察は無論、軍隊が警備にあたっている。


博物館の入口近くに、昨年訪問したラサ大昭寺門前に建つ「唐蕃会盟碑」のレプリカを教授が発見する。唐蕃会盟碑は9世紀に唐朝と吐蕃の間で成立した講和条約の内容を漢文とチベット語で刻んだもの。館内に入り少数民族関係の展示と、チベット(蔵伝)仏教関係の展示を見学する。民族展示では少数民族ごとにカラフルな衣装を着たマネキンが並ぶ。その中に仮面が展示してあったが、ブータンのツェチェ祭で使用される仮面と共通性がありそうで、興味深く感じた。上の写真は「羌姆」舞踏に使う仮面と衣装である。


続く仏教関係の展示室には、粘土を型押して作られた小型の仏像や仏塔が数百点並ぶ。おなじみのツァーツァ(擦擦)である。ブータンのツァーツァは遺灰を混ぜて作る超小型の塔で裏側中心部に経典を差し込んでいる。チベット側のそれは、7世紀代の吐蕃王朝期にインドからもたらされたという。小塔だけでなく、塼仏も含めて「擦擦」と称する。これを制作することで善行功徳を積むことができるとされ、塔の中に置かれるか、寺院などで祀られるようだ。
館から出ると、広場の舞台では、大音声の音楽とともにチベット族の民族舞踊が踊られ、多くの観客が集まっていた。軍の兵士が会場の上空にドローンを飛ばし看視しているのが眼に入る。

小ポタラ宮-ソンツェリン寺
いったんホテルまで帰り、車で郊外のソンツェリン(松賛林)寺に向かう。入場ゲートは寺院から離れた場所にあり、シャトルバスで移動する。松賛林寺はチベット仏教ゲルク派の寺院で、ラサのポタラ宮を造営したダライ・ラマ5世(1617 - 82)が雲南に創建した「小ポタラ宮」である。漢語では「帰化寺」ともいう。明末(17世紀末~18世紀初)の建築。文化大革命で破壊されたが再建されたという。

バスを降り、山門を入ると長い石段の参道が続く。参道の両側には院坊が並ぶ。高度計は3200mを指す。石段がきつい。なんとか本堂前の広場にたどり着く。頭痛がする。広場に面して「ツォンカパ大殿」(アムド出身のゲルク派開祖)、扎倉大殿、釈迦牟尼大殿が並ぶ。扎倉大殿の三層目に上がり、テラスから周辺の景観を眺める。その後、僧侶が店番をする売店でマニ車を衝動買いする。

↑本堂前 ↓扎倉大殿




扎西卡达蔵餐
市内に帰り、チベット料理のレストラン(扎西卡达蔵餐)で昼食。この会場はアツゥイさんがセットしてくださったものだが、これまで何さんに連れてこられたレストランとは全然ちがってとても美味しかった。アツゥイさんは調査すべき民家についても手配してくださったが、急遽所要が入り、友人2名とバトンタッチすることになった。突然交替となったので、教授はお礼することもできなかった残念がっておられた。

チベット族の木造住宅訪問
昼食後、チベット族の二人の男性に連れられて香格里拉空港近くの民家を訪問。所在地は香格里拉市尼史村称尼小組で、家名を桑巴達(サンバーダ)という。畑の中に建つ民家で、最近建築され新宅(案内者の自宅)と隣接して建つ旧宅(案内者の兄の家で今は空家)とがあった。両者とも主屋は方形で切妻造り2階建て、前面を塀で囲む中庭型である。旧宅の壁は日干しレンガを積み漆喰を塗るが、新宅は切石を積んだようにみえる。居住部分にあたる2階の内外が豊かな彩色・彫刻に彩られているのが印象的だった。

なお、築後60年という旧宅は空家化にともなって家財道具は移動されており、仏間の状況などを実見できなかったことが悔やまれる。このように、シャングリラのような奥地の農村地帯でさえ、すでにほとんどの農家が新築されており、この1~3年のあいだに青海省や西蔵自治区でみた状況とは大きく異なっている。とりわけラサからツェタンに至るエリアの車窓にみえた無数の伝統的チベット民居を懐かしく思い起こした。

↑新築住宅 ↓旧宅(空家)

【連載情報】
雲のかなたへ-白い金色の浄土(1)
雲のかなたへ-白い金色の浄土(2)
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二人の感想-ブータンから西北雲南の旧チベット領まで
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