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雲のかなたへ-白い金色の浄土(10)

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心向北京

 飛来寺のホテルを出て二時間半あまり車に乗り、16日の午前10時45分、一行は升平鎮阿東村に着いた。海抜2580m。まずは表敬の礼を示すべく村政府をめざすが、あやかめさんが遅れ気味で心配になる。動物好きの彼女は、通りを練り歩く牛の群れの撮影に熱中していた。これもまた大事な観察の一つである。牛追いに追われて町並みを足早に走りすぎる牛たちは純粋なヤクではない。ヤクとカウの混血種と思われる。カウベルの音がやわらかで微笑ましい。


0916阿東100牛01 0916阿東100牛02sam


 村政府の役人さんたちはとても親切であった。3人の職員すべてがチベット族であり、恒例のポラロイド撮影儀式を経て意思の疎通をはかってからヒアリングを始める。マニタイのことを詳しく教えてくれたし、これから調査すべき民家を推薦してくれた。気になるのは戸口のマグサ上に貼りつけられた「心向北京」の大きな四文字である。赤くぬられている。その下中央の看板に注目すると、「中国共産党阿東村総支委員会」と書いてあり、その文字色はやはり赤い。「北京に心を向けよ」とは、「中国共産党の思想・政策に従え」と同義のメッセージであろう。もっと噛み砕いていうならば、「ラサではなく北京を向け」、つまりチベット仏教の法主たるダライ・ラマではなく、共産党中央に従え、ということである。金沙江以北の地に住む蔵伝仏教信者たちは、今なお(あるいは今だからこそ)赤い支配者たちへの反発を根強くもっている。そのことの裏返しとして「心向北京」の赤文字を読み取るべきではないか。


091606阿東村プゾナユン寺00 091606阿東村プゾナユン寺03


プソナユン寺 

 村政府の隣に陸屋根の民家があり、訪ねてみたいと希望すると、職員の一人が戸口まで連れていってくださった。しかし、鍵がかかっていて内部にだれもいないことが分かったので、方位を反転させ、高台の上にある寺院をめざした。そこはまさに片田舎の山寺であり、ラマや僧侶は一人もいなかったが、マニ車をもつ3人の老婦が寺を周回している。さっそくポラロイド作戦を展開。ご機嫌は上々になるばかりか、人物や寺の名前を画像におさめることができた。寺名はプソナユン寺という。


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 プソナユン寺は崖に沿って建つチベット仏教の寺院だが、ブータンのように洞穴を伴っていない。二つの大きな仏堂風の建物の間にマニ車の覆屋を置く。老婦たちは、なんとか本堂を開けようとしてくれたが、鍵を保管する僧侶は消えうせており、内部の参観は叶わなかった。境内では、一人ひとりがマニ車をまわした(↑)。収穫は、境内からの眺望である。そこから集落の建物が隅々までみえる。瓦葺きの建物に混じっていくつか陸屋根の民家を俯瞰できたので、ここでまたポラロイドを使って撮影した。街まで下りて、ポラをみせれば、古民家のある場所まで連れていってもらえると期待したのである。


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↑マニ車をまわす  ↓境内からみた街中の民家
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老壇泡椒牛肉麺

 境内から街に下りて再び村政府の役人さんにポラ写真をみせる。街中にあるこの民家に入りたいとお願いすると、またしてもそこまで連れていってくださったが、先ほどの巻き戻しであり、どうやら住人たちは畑にでているようで、家には鍵がかかっていた。仕方ないので昼食ということになったが、さてどこで食べるか。
 うろうろしてみたところ、村政府に近い場所に比較的大きな広場があり、その奥のほうに売店兼食堂があるようで、おそらく何か食べられるとしたらここしかないだろうと直感し、店に向かった。店の前方には吹き放ちのスペースがあり、ビリヤードの台が置いてあって、男たちが戯れていた。目つきが結構真剣なんで、

  「賭けてるんかな?」

と誰かが誰かに問いかける。赤い北京中央当局にはみせたくない風景であった。


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 昼食はカップラーメン(方便麺)に即決した。ブータンでもアムドでも、いちどの調査につき1回はカップラーメンを食べる機会を設ける。なんだ情けない、と思うなかれ。カップラーメンは結構な楽しみなのである。とくにブータンでは、タイ製のトムヤンクン・ヌードルが病みつきになっている。あの旨辛さには中毒性がある。日々の食事とは異なったアクセントとなる点、麗江のマクドナルドと似ていないこともない。カップヌードルの選択は会長に任せることにした。辛い物が嫌いな会長は、最も温和な色をしている薄緑蓋のヌードルを選んできた。その名も「老壇泡椒牛肉麺」。老壇というのはたぶんメーカーの名前で、泡椒は酢漬の青唐辛子のこと。ちなみに、漬物のことを中国では「泡菜」または「酸菜」というので、泡椒を酸椒と書いたって意味は通じるだろうと思う。


0916阿東003食堂02インスタ麺


 さて、薄緑色のパッケージの穏やかさはまったくのみせかけであり、蓋の右端下側に示された唐辛子の辛さ標示をみると、5本のうち4本が赤くなっている。いわゆる「激辛」の部類に属する麺であることが食べる前から明らかになった。蓋をあけてみると、3つの粉末スープが入っている。どれも辛いのだろうが、いちばんの問題は下中央の辛味噌で、これを全部使ったら大変になるだろうと、各自1/4~1/3程度を入れたのだが、それでも辛くて、なんとか麺だけをすくいあげたが、スープを口にする気にならなかった。正直なところ、トムヤンクン・ヌードルとは雲泥の差である。ブータンのランチパック(弁当)を恋しく思った。
 阿東は不便で不清潔なところもたしかにあるが、わたしが調査研究に躍動した1980~90年代の匂いをなお残す点、懐かしい気持ちが湧いてこないでもない。陸屋根の古民家群に期待が高まっていった。 【続】


0916阿東003食堂02インスタ麺02 0916阿東003食堂03煮込みうどん
↑(左)方便麺  (右)後ででてきた手作りの煮込み麺。辛くしないように頼んでおいたのだが、十分辛かった。

【連載情報】
雲のかなたへ-白い金色の浄土(1)
雲のかなたへ-白い金色の浄土(2)
雲のかなたへ-白い金色の浄土(3)
雲のかなたへ-白い金色の浄土(4)
雲のかなたへ-白い金色の浄土(5)
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雲のかなたへ-白い金色の浄土(13)
雲のかなたへ-白い金色の浄土(14)
二人の感想-ブータンから西北雲南の旧チベット領まで
雲のかなたへ-白い金色の浄土(15)
雲のかなたへ-白い金色の浄土(16)

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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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