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ヒマラヤの魔女(3)

サンチ サーンチ・ストゥーパ群


ブータンの宝塔〈1〉

 今年(2018)のブータン調査で驚いたのは、パロ空港から土産物店が一掃されていたことである。数軒の店舗が民芸品などの販売を競いあっていたのが嘘のように鎮まり返っていて、ただ一軒だけが蕎麦粉のパックを棚に並べているだけだった。空港内で何か良くないことがあって、政府の介入があったとしか思えない。空港では、外国人むけの図鑑や絵本をみるのを楽しみにしていたので、とても残念な気持ちになった。
 ブータン王立航空(ドゥク・エアー)の機内誌『タシデレク』を今年も持ち帰った。ブータンの文化に係わる4ページ程度のエッセイが数本掲載されており、そのうち1~2本は教材として使えるだろうと気楽に考えた。その後、P2&P4「ヒマラヤの魔女」のテキストをゼミ生とともに話し合ったのだが、そういえば、ストゥーパ(宝塔)に関する作品が含まれていたので、あれがいいということになって、あっさり決まったのだが、読んでみると、なかなかの難物であった。英語以前に仏教の基礎用語を学ぶ必要がある、とは思う。しかし、仏教用語を使えば使うほど、苦労して訳した日本語テキストの意味は理解しにくくなっていく。だから、あえて漢字塗れの難読仏教用語を使う必要はないのかもしれない。書籍情報は以下のとおり。


fig00TASHIDELEK「Stupa」_0102


   Kezang Namgay
   “Stupa: anchoring the mind to the truth ”
   TASHIDELEK July-August, 2018:pp.60-63, Drukair


     ストゥーパ: 真実にむかう心のよりどころ
                              
                   ケザン・ナムゲ

 歴史的に初めて悟りを開いたブッダ、すなわち釈尊に信者がたずねました。「どうしたら、あなたがお亡くなりになった後、あなたを忘れないでいられるのでしょうか」と。釈迦は黙したまま上着(シャムサ)を脱いで四角に折りたたみ、地面の上に置きました。それから、自分の托鉢(ルンザ)をひっくり返して衣の上に置き、鉢の中軸線上に茎の棒を垂直に立ち上げたのです。心の師へ捧げるマンダラ修行において、ブッタの精神(タサガタ)を表現するためにストゥーパ(宝塔)のミニチュアを奉納するのです。
 ストゥーパ(宝塔)は五大要素からなる仏教精神の立体的な宇宙観、すなわちマンダラを三次元的に表現するものです。その五大要素は人体と相互依存の関係にあり、物体が融合するにあたって、互いに溶けあっていきます。その四角い基礎は硬い「地」(大地)を表しています。水の雫(しずく)のようにみえる球体は「水」を象徴しています。三角形は「火」を表しています。三日月は反転したアーチ形の「天」を象徴しています。先細になる円は「宇宙」を表現しています。


fig01TASHIDELEK「Stupa」_03


 釈尊の涅槃(入滅)の後、彼の遺体はブッダ(如来)の記憶を共有するため、8基のストゥーパ、すなわちチョルテン・デゲに分配し奉納されました。(訳注:これを「八分起塔」と言い、以下はその説明。その形状については最下段の図をクリック)

1)蓮華の宝塔
 積み重なった蓮の形をしており、吉兆を示し奇跡的な釈迦の誕生を象徴しています。誕生後、釈尊は蓮華の咲いた四つの方位の内側で七歩あるきました。その四方位は、四つの限りない愛、すなわち、優しさ、哀れみ、喜び、平静を象徴しています。

2)悟りの宝塔
 この悟りのストゥーパは、ブッタガヤのマガタ国でマラ(無知・欲望・嫌悪から生じる精神的な苦悩・混乱・二面性)を克服した釈迦を祝福しています。

3)多くの門戸をもつ宝塔
 悟りを得た後、釈尊は6月4日にベナレスのサルナートの鹿野苑(ろくやおん)で初説法(初転宝輪)しました。その説法とは四諦(四つの高貴な真実*1)、六波羅蜜(六つの完全な徳*2)、八正道(八つの尊い道*3)のことです。

4)転生の宝塔
 42歳のとき、ブッダは、その場所で輪廻転生した母の優しさに報いるため、兜率天界の法輪を転じ(説法し)ました。このストゥーパに固有な特徴は各辺に3段の梯子を有するところです。

5)大いなる奇跡の宝塔
 ブッタは知的な論議と奇跡を演じることで、マラと異教徒を打ち負かしました。このストゥーパは勝利の記念碑としてリチャヴィ王国に建設されました。

6)調停の宝塔
 マガタ王国のサンガ(信者)の間で起きた論争を解決した釈尊の技と智恵を記念しています。このストゥーパには四辺に同等の八角階段を設けています。

7)完全勝利の宝塔
 釈迦は80歳のとき、涅槃に入る決意をしました。信者たちの願いによって3カ月長生きしました。

8)涅槃の宝塔
 釈尊はウッタルプラデシ州のクシナガラで80歳のとき涅槃に入られました。ストゥーパを建設し、それを周廻して、塔にひれ伏し願いをかけることのご利益は古代の説法で述べられています。釈迦はブッダ・ストゥーパ(如来宝塔)の建設には18の利点があると説いています。①王子または王女として生まれ、幸運な人物として完璧な②身体、③美貌、④鋭い知性ある包容力をもつ。⑤名声、⑥富、⑦長寿を楽しみ、⑧立派な使用人の側近を伴う⑨首長となる。⑩他者に援助を与え、⑪明晰な声は全方面で賞賛されて⑫神の祝福をうけ、⑬万能の君主による王国や、大なり小なり⑭ブッダの特徴を伴う金剛杵のような身体を獲得する。そして、高位の世界で⑮⑯⑰三度輪廻転生し、⑱すばやく涅槃に至る。【続】


fig03TASHIDELEK「Stupa」_04 八分起塔の図



【注】
*1  四諦(したい): 仏教が説く4種の基本的な真理。苦諦、集諦、滅諦、道諦をさす。
 苦諦(くたい) - 迷いのこの世は一切が苦(ドゥッカ)であるという真実
 集諦(じったい) - 苦の原因は煩悩・妄執、求めて飽かない愛執であるという真実。
 滅諦(めったい) - 苦の原因の滅という真実。無常の世を超え、執着を断つことが、
          苦しみを滅した悟りの境地であるということ。
 道諦(どうたい) - 悟りに導く実践という真実。悟りに至るためには八正道によるべき。

*2 六波羅蜜(ろくはらみつ): 大乗仏教の求道者が実践すべき6種の完全な徳目のこと。
  (1) 施しという完全な徳(布施波羅蜜)
  (2) 戒律を守るという完全な徳 (持戒波羅蜜)
  (3) 忍耐という完全な徳 (忍辱波羅蜜)
  (4) 努力を行うという完全な徳 (精進波羅蜜)
  (5) 精神統一という完全な徳 (禅定波羅蜜)
  (6) 仏教の究極目的である悟りの智慧という完全な徳 (般若波羅蜜)

*3 八正道(はっしょうどう): 涅槃に至るための8つの実践徳目である
  正見、正思惟、 正語、正業、正命、正精進、正念、正定のこと。
  八正道は釈迦が初説法(初転法輪)において説いたとされる。
  四諦のうちでは道諦にあたり、釈迦の説いた中道の具体的内容ともされる。


【連載情報】
ブータンの宝塔(1)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1936.html
ブータンの宝塔(2)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1937.html
フライング・ファルス(1)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1934.html
フライング・ファルス(2)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1935.html

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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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