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2018年度卒業論文概要(2)

環オホーツク海沿岸狩猟民族の罠技法に関する比較研究
Comparative study on the trap techniques of the hunting peoples
in the coast areas around the Okhotsk sea             
                           SATO Yumi

1.研究の目的
 オホーツク海沿岸域に住む極東の諸民族は、古アジア系とツングース系に大別できる。古アジア系民族とは、ツングースが東北アジアに拡散する以前から居住していた先住民(チュクチ、コリヤーク、ニブフ、アイヌ等)を指す。対してツングース系は、古モンゴロイドから約2万5000年前に枝分かれした新モンゴロイドの一部で、寒冷地適応した身体的特徴を持つ民族(エヴェンキ、エヴェン、ウデヘ、オロチ、ナーナイ、ウィルタ、ウリチ等)を指す。これらのオホーツク海沿岸諸民族の狩猟文化を卒業論文の主題とし、各地の博物館等での標本調査、データベースの作成、罠の実用実験を踏まえて、実験民俗考古学的な比較・分析を試みた。


2018卒論概要写真_05佐藤 図01北方ユーラシア諸民族分布


2.罠の基本類型
 収集した罠具のデータベースは110点を数え、そのデータから分析すると、北方諸民族が使用していた伝統的罠具の構造は、単純で、罠の素材は自然の中で調達できるような木の枝や弦などを利用したものが多い。罠の殺傷能力は高く、仕掛け弓型・圧殺式・くくり罠型の3類型に大別される。その使い方については、ヒアリングと文献から考察する。

3.国立民族学博物館「罠具」の熟覧
 2018年6月4日に国立民族学博物館所蔵の北方ユーラシア地域の罠具27点を熟覧し、写真撮影、採寸、スケッチ等をおこなった。
 図2はサハリン地方ヤクートの仕掛け弓型の罠でテンやキツネ等の中型獣を対象にしており、獲物を獣道におびき寄せ、弓の弦につながった紐に触れると矢が発射する。図3はハバロフスク地方のナーナイ族の圧殺式罠で、リスやテン等の小~中型獣を対象とし、丸太等の重しを乗せた格子のストッパーが外れると格子が落下し獲物を圧殺死させ捕獲する。図4はサハリン地方ウデヘ族のくくり罠型で、オコジョ等の中型獣が対象であり、輪罠部分で首を絞めて捕獲される。[国立民族学博物館収蔵庫資料]


2018卒論概要写真_06佐藤 図02仕掛け弓(ヤクート) 


2018卒論概要写真_07佐藤 図03圧殺式(ナーナイ)

2018卒論概要写真_08佐藤 図04くくり罠(ウデヘ)



4.民族分布図
 データベースを基に罠具と狩猟対象動物に分け、分布図を作成し、比較検討した。それにより狩猟活動を食糧確保、あるいは交易品を目的としているか否かという点で違いがあることが分かった。北方ユーラシアの諸民族は、互いの交易関係を密にすることで不足した物資を補い合い生活を成り立たせてきた。とくにオホーツク海沿岸域やアムール流域では毛皮を主とした活発な「山丹交易」が行われていた。それにより毛皮に傷をつけない特徴をもつ圧殺式罠やくくり罠が使用され、イタチやリス等の毛皮が高価な動物を対象にした狩猟が広がっていった。一方でチュクチやサマギール等の極北地域の民族は僻地のため交易による毛皮需要が低く、効率良く食糧を得られるシカ等の大型獣を対象にした狩猟が行われてきたと言える。

5.板井原の罠具
 2018年6月6日と10月17日に智頭町板井原の山菜料理店「火間土」を訪問。オーナーである原田巌さん(87)に戦前まで使用していたという罠具についてヒアリングし、実際に針金で罠を作っていただいた(図06)。北方少数民族に類似する伝統的罠具が3種存在することが判明した(北海道アイヌのくくり罠・仕掛け弓型罠、ニブフのくくり罠)。残念ながら実物は残っていない。
 板井原は平家落人集落の伝承があり、平安時代末から鎌倉時代にはすでに人々が生活を営んでいた可能性がある。山林に囲まれた盆地の閉鎖的集落で自給自足の生活を近代まで営んでいたが、板井原川源流域では漁労ができないため、動物蛋白を狩猟動物(ウサギ・ヤマドリ等)のみに依存していた。「火間土」のメニューも野菜・山菜類に限られる。平安末からの名残がある集落であるからこそ、伝統的罠具が現在まで残っている可能性を想定した。

5.罠具の実験民俗考古学
①アイヌ民族のくくり罠に関する実用実験: 以上の考察が机上の空論にならないよう、実際に罠具を制作し、実用実験を試みた。北海道アイヌのウサギ用くくり罠を参考にし、捕獲作業2018年12月4日~12月11日の間に行い、場所は大学裏山(鳥取市若葉台)と宝山付近(鳥取市国府町)である。それぞれの場所に5個ずつ罠を仕掛けた。
②結果: 結論として獲物を捕獲することはできなった。罠が作動している地点もあり、動物が通っていると推測もできるが風等の自然干渉による可能性が高い。しかし、実験を行って明らかになったこともある。狩猟対象動物がウサギやイタチ等は現在、生息数が減少しているため、そもそも捕獲率が低く、伝統的罠具の構造は単純であるが故のテクニック、経験不足が要因として考えられる。

6.結論
 北海道・サハリン・アムール流域の罠具は、いくつかの共通した特性を持っていることが分かった。地域よる若干の違いはあるが罠具の形状や構造、使用方法に「共通の発想」がある。興味深いのは、鳥取県智頭町板井原集落でも類似した罠具が存在したことだ。すでに述べたが、板井原は「平家落人集落」伝説が残っており、閉ざされた外部からの干渉を受けにくい地域特性をもち、山菜採集や狩猟をして自給自足の生活をしていた。同時代、日本本土には「蝦夷(えみし)」と呼ばれるアイヌの祖先となる人々がおもに東日本に居住していた。蝦夷と平家難民は地域に隔たりはあるものの、少なくとも年代的には近しい関係にあり、罠具などの文化交流の背景として想定しうるかもしれない。
 北海道、アムール流域民族の罠具に共通性に関しては、オホーツク海を介し、山丹交易や帝政ロシアの毛皮需要が増えたことの要因や、周辺地域の戦争による影響から外部からの交流を経て発展し、類似したものが生まれていった可能性がある。しかし、どちらにおいても実証するのは難しいと言わざるを得ない。伝統的罠具は枝や紐等の自然素材を使用しているため、時間が経つと土に還って形を残さなくなる。筆者は「動物を狩る」という単純な目的のためにとられる手段は単純で原始的なものであると考え、無駄がなく、効果的な方法が洗練され、確立すると、罠具の特徴は自ずと共通する部分ができるのではないか、原始的であるからこそ突出した個性は発展せずに、現在まで継承されてきたと考察する。

【参考サイト】
卒業論文中間報告(3)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1920.html
梅雨の山里-板井原
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1812.html
過去への旅路-みんぱく訪問記(1)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1809.html

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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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