『鳥取県の民家』を訪ねて(11)


No.011②木下家住宅
6月12日(水)、晴れ。今週もゼミ生一同、『鳥取県の民家』(1974)で調査報告された民家を訪ねるフィールドワークに出かけた。まず、私たちが訪れたのは鳥取市河原町布袋のNo.011②木下家住宅(県指定1974)である。予め電話連絡がとれていたため、ご主人に丁寧にご対応いただいた。外観だけでなく、土間など内部の撮影や、ドローンによる空撮も許可をいただいた。ヒアリングに対しても大変優しくお答えくださり、実際に生活されている方のお話をうかがうとても貴重な経験となった。


『鳥取県の民家』によると、木下家は江戸時代初期において鹿野城主亀井家の本陣をつとめた旧家で、亀井家の転封後も大庄屋などをつとめて家格を保ってきたという。主屋は報告書刊行の昭和49年に県の保護文化財に指定されており、案内板には「非常にきれいな状態の入母屋造平入平屋建住宅で江戸時代中期の大庄屋の家構えを今に伝える」とある。


今年の4月に主屋の茅葺屋根の一部を刷新した。県市の補助もあるが、自費負担も結構かかる。屋根はこうして一気に葺き替えるのではなく、10年ほどの周期で部分葺き替えや刺し茅をしているのこと。道路に面する茅葺きの門もとても立派で、教授は「長屋門とはいえない」規模だと言われたが、ほとんどの方は「長屋門」と呼ぶのに対して、家人はただ「門」と呼ばれるそうだ。


主屋平面はいまは整形六間取だが、広間型五間取に復原できる。特別に内部を見せていただくと、昔からの柱や梁だけでなく古式のカマドや囲炉裏、石板をくり抜いてつくられた流し台などがあり、江戸時代の風情をよく伝えている。教授によれば、きちんと整備すれば十分公開に値するとことである。調査を終えた後も優しく送り出してくださり、とてもありがたく感じた。(月市)


《教師補遺》 内部の部材は一部不朽が進んでいるが、古材や建具・民具をよく残しており、国指定に格上げする価値の民家ではないか、と思った。鳥取県の指定民家は、これまで調査した福田家、矢部家などに代表されるように、指定して修理の際に補助金を出すだけで、「公開」や「活用」に対して考慮がなされていない。重文及び県指定の民家について、真剣に「公開」「活用」の方法、及び指定文化財民家のネットワーク(スタンプラリー等)を練り上げるべきではなかろうか。





外邑の茅葺き民家
この日最後に訪ねたのが、岩美町外邑(とのむら)の米山家住宅である。米山家が外邑にあるのはもちろん分かっていたが、番地や電話番号などは全く不明であり、ともかく現地に行ってみての出たとこ勝負になった。まずは県道37号線に沿う集落の南端のほうでお話をうかがったところ、下手(北側)の地蔵さんの周辺に米山姓が集中するということで、そちらに歩いていった。そのお地蔵さんを過ぎたところで、茅葺き屋根を鉄板で覆った民家があり、No.006①ではないか思い、急ぎ斜路を駆け上がってお話を伺うと、どうやら地蔵の辻の小路の突き当たりにNo.006①があることが分かった。ちなみに、場所を教えてくださった鉄板被覆の茅葺民家も江戸時代に遡るという。ご主人にお礼を伝え、私たちは米山家に向かった。


No.006①米山家住宅
小路を上がって米山家の敷地についたところで、主屋の裏手からご主人が出てこられた。どうやら梅を収穫して水洗いの作業をしていらっしゃるようだった。大変にこやかにご対応いただき、外観の撮影とドローン空撮をご許可いただいた。
『鳥取県の民家』に報告されている茅葺民家の姿はすでになく、眼前にあらわれた住宅は切妻造瓦葺ツシ二階建である。こういう中二階型は平屋建の茅葺き部分を改装したものである。

一人住まいのご主人のお話によると、お父様は県教委の幹部クラスであり、民家緊急調査の段階から大改修を構想されていたという。当時は住まいとしての民家を保存することに警戒感があり、報告書刊行の45年前に茅葺き屋根の撤去に踏み切った。それまでは茅葺に鉄板を被せた屋根であり、文化財指定される可能性も十分にあったそうである。しかし、大雪で鉄板がめくれてしまうこと、文化財に指定されてしまうと改修の許可を受けるのに時間がかかること、当時は補助金も出なかったことなどから保存を避けたという。ただし、歴史ある建物ということで、屋根以外の構造はほとんど旧状を維持しており、内部は昔の状態に近いそうである。建築当初の内部の間取形式は不詳ながら、江戸時代中期の大庄屋層にみられる広間型五間取もしくは、その展開型である六間取形式のバリエーションと報告書では推定されている。


敷地には主屋のまわりに長屋門、土蔵4棟、茶室があったが、昭和18年(1943)の鳥取地震で長屋門が崩壊し、土蔵2棟と茶室も売却してしまっている。いまは味噌蔵1棟を残すのみだが、屋根の傷みが激しいという。
今回のフィールドワークでは、調査報告された民家のその後の変化の様々なパターンをみることができた。どの選択にも住んでいる方の想いが詰まっており、それらを感じ取りながら調査を続けていきたいと思う。(月市)


《教師補遺》 文化財指定された場合の規制の強さに対して教育委員会の重鎮がいち早く情報を察知し、報告書刊行の年に改造に踏み切ったという悲しい事例である。それもこれも、「保存」が学術価値ばかりに傾斜し、居住者や訪問者にふさわしい「活用」のあり方に配慮を欠いていたからとしか言い様がない。昭和40~50年代ならそれでよいとしても、これから先はそういうわけには行かない。登録文化財や重伝建に近い発想が指定文化財民家にも求められるであろう。

【連載情報】
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№016④三百田家(若桜吉川・県指定) №012③矢部家(八頭用呂・国重文)
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No.011②木下家(布袋・県指定) No.006①米山家(岩美外邑)
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