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『鳥取県の民家』を訪ねて(13)

0612江津01松本家01主屋01 0612江津01松本家01主屋02紫陽花


№029⑨松本家住宅 

 6月12日(続々)。県立中央病院の北にひろがる江津(えづ)は、伝統的集落と新興住宅区が融合した広範囲の自治区です。『鳥取県の民家』掲載の№029⑨松本家住宅は、事前に住宅地図等で情報を得ており、カーナビに誘導され迷わずたどり着けました。敷地の大きな庄屋の宅地に茅葺き屋根を道路から遠望できるのですが、まわりは新しい住宅街になっていて、両者のギャップに驚きを禁じえません。先生が何度か玄関でインタフォンのボタンを押され、104に問い合わせて電話もかけてみたのですが、ご不在でしたので、広大な屋敷地の外側をぐるりとまわることになりました。


0612江津01松本家01主屋03背面01 


 松本家は戦国時代に武家が帰農して大庄屋なった家柄ですが、主屋の建造は幕末に下ります。当初、平面は六間取りでした(↓)が、改修激しく、調査時では九間取りになっていました。構造形式は入母屋造平屋建で、正面側は下屋(庇)を桟瓦葺きにしていますが、背面側は広い範囲が桟瓦葺きになっています。『鳥取県の民家』(1974)を確認すると、昭和47年の調査時でも断面図をみると、背面側は今と同じ広さが桟瓦葺きであったことが分かります。


江津01松本家02主屋02復原平面01 江津01松本家01配置図


 すでに述べたように、№029⑨の近隣はニュータ ウン化しており、マンションやアパートが軒を連ねています。こうした新興勢力との関係からなのか、監視カメラが各所に設置されており、コンクリートブロックや金属の塀柵により屋敷の防御性を高めています。ただし、長屋門や土蔵は報告書の状態を維持しているようにみえました。この日までに『鳥取県の民家』掲載の東部民家10棟をすべてみたことになりますが、こうした開発地区で旧状を維持しているのは№029⑨のみであり、今後ヒアリングなどの再調査が必要になるかもしれません。(八木部長)


0612江津01松本家02周囲01 0612江津01松本家02周囲02
↑土蔵とその周辺 ↓長屋門と周辺の宅地
0612江津01松本家02周囲05長屋門 0612江津01松本家02周囲04宅地03


0612江津01松本家02周囲04宅地02 0612江津01松本家02周囲04宅地01


民家変容のパターン

 これまで3回のフィールドワークにより、『鳥取県の民家』(1974)に掲載されている東部の第三次調査対象10件をすべて訪問した。わずか10件ではあるとはいえ、それぞれの現状は多彩であり、ここ45年の変容パターンを類型化できる。なお大字(おおあざ)のみ示すものは鳥取市内所在。

A類:指定による民家の保全
A-1現地保存  
 №016③矢部家住宅(八頭町用呂・国) №027⑦福田家住宅(紙子谷・国)
 №011②木下家住宅(布袋・県) №030⑩奥田家住宅(猪子・県) 
A-2移築保存  
 №012④三百田家住宅(若桜町吉川→屋堂羅・県)

B類:未指定だが茅葺き屋根を維持
B-1茅葺き露出     
 №029⑨松本家住宅(江津)  
B-2茅葺き鉄板被覆  
 №021⑤谷上家住宅(余戸)
  
C類:未指定のまま平屋建茅葺きから中二階和風住宅への改修
 №025⑥西尾家住宅(八頭町万代寺) No.006①米山家住宅(岩美町外邑)

D類:未指定のまま撤去
 №023⑧西尾家住宅(赤子田) 

 こうして類型化してみた場合、次世代への継承がほぼ担保されているのは国/県の文化財指定を受けているA類の5件のみである。また、県内には登録文化財の民家も増加しつつあるが、それらは『鳥取県の民家』とは無縁のものが大半を占める。やや古いデータだが、県内の指定・登録文化財民家の一覧については以下のサイトを参照されたい。  http://www5e.biglobe.ne.jp/~minjamin/mp-totorri.htm

 さて、調査対象10件のうちの5件が指定されたのだから保存率は高いのかしれないが、すでに述べたように、県東部の指定民家の場合、修理のための補助金を出すだけで非公開としているものばかりであり、「活用」の方策が未だに講じられていないので、県民の認知度は低く、また空き家化が目につき始めている。後継者の問題を考えると、「今後の保全が担保されている」という見方は楽観的すぎるのかもしれない。
 一方、D類はすでに主屋が撤去されているので、今後行政等が口出しできる対象ではなくなっている。B・C類については、№029⑨のみ指定・登録の可能性を残す。B・C類も、当然のことながら、過疎に伴う後継者の問題は深刻な影を落としている。そんななかで№025⑥は、調査当時のご夫妻がご存命であり、現代生活に適応可能な改修がなされているので、おそらくは住みやすく、また息子さん・娘さんが近隣に居住されていることもあって、後継の状況は他の9件に比べれば希望がもてるのではないか、と予想された。
 もう一つ言っておきたいことがある。これもすでに指摘しているのだが、第3次調査の対象は「庄屋」クラスの民家ばかりであった。戦国時代の武将が帰農して大地主になる、という由緒をもつ家柄が大半を占め、古くからの姻戚関係もあって所有者が相互によく認知しあっている。緊急調査として、まずこれら豪農の屋敷が選ばれたのは順当と言えば順当だが、すこしでもいいから保全度の高い小作農の民家を含めてほしかった。そういうクラスの民家を文化財保護の対象にすることはより難しいのかもしれないが、記録保存だけでもしておくべきではなかったか、と思っている。[教師補遺]
  
【連載情報】
(01)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2042.html
(02)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2044.html
   №016④三百田家(若桜吉川・県指定)  №012③矢部家(八頭用呂・国重文)
(03)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2046.html
(04)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2050.html
(05)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2051.html
(06)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2052.html
(07)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2053.html
(08)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2054.html
(09)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2055.html
   №027⑦福田家(紙子谷・国重文)  №025⑥西尾家(八頭万代寺)
(10)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2056.html
   №021⑤谷上家(佐治余戸)
(11)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2059.html
   No.011②木下家(布袋・県指定)  No.006①米山家(岩美外邑)
(12)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2060.html
   №023⑧西尾家(赤子田)  №030⑩奥田家(猪子・県指定)
(13)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2061.html
   №029⑨松本家(江津)
(14)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2069.html
   №040⑯小椋家(木地山)
(15)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2070.html
   №029⑨松本家(江津)2回目
(16)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2071.html
(17)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2075.html
(18)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2076.html
(19)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2077.html
(20)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2078.html
(21)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2079.html
(22)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2080.html
(23)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2081.html
   №023⑧西尾家(赤子田)2回目
(24)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2082.html
   №086㉝福田家(日南上萩山)  №082㉜長谷家(日南萩山)  №088㉞石川家(日南笠木)
(25)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2083.html
   No.104㊲乃木家(日野黒坂)  №103㊱細木家(日野黒坂)  №097㊱内藤家(日野板井原)
(26)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2084.html
(27)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2085.html
(28)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2086.html
   №.051㉑小木家(東伯赤碕)  №052㉒門脇家(東伯赤碕)
(29)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2087.html
(30)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2088.html
   No.044⑱牧野家(関金町郡家)  No.041⑰鳥飼家(関金町大鳥居・県)
(31)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2089.html
   No.033⑫前家家(青谷奥崎)  №031⑪小谷家(鹿野町鹿野)
(32)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2102.html
   No.076㉚下原家(江府町俣野)  No.081㉛車家(江府町貝田)
(33)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2105.html
   No.106㊳生田家(伯耆町三部)  No.107㊴足羽家(伯耆町二部)
(34)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2106.html
   No.071㉗森田家(淀江町西尾)  No.070㉖田山家(淀江町淀江)
(35)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2096.html
   No.039⑮原田家(湯梨浜方面)  No.037⑫正木家(湯梨浜橋津)
(36)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2097.html
   新聞No.25中島家(岩美大谷)  新聞No.10福田家(鳥取市国安)
(37)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2098.html
   新聞No.22吉村家(鳥取市立川)  新聞No.11岩田家(鳥取市立川)
(38)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2116.html
   新聞No.20岡本家(国府町木原)  新聞No.18 山本家(国府町神護)
(39)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2117.html
   新聞No.16奥本家(用瀬町)  新聞No.17徳永家(用瀬町)
(40)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2122.html
   No.045⑲河本家(琴浦町箆津)  No.046⑳河本家(琴浦町箆津) 

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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