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入梅前のこと(3)

2019古代都城の空間操作01表紙


 アメリカが連覇しましたね。サッカーの女子W杯です。どうしても、日本を倒したオランダを応援したくなりましたが、アメリカの底力は桁違いのものでした。ヨーロッパがアジアに取って代わった今大会の勢力構造の変化のなかで、ひとりアメリカだけが旧態然として最強の力を誇示している。ワンバック+ソロの時代よりも今のほうが強いのではないか、と思わせるほどでした。地元フランス、イングランド、オランドを倒しての優勝は価値あるものです。対して、日本はね・・・オーラがありません。ベスト4以上の舞台にふさわしいと感じたのは岩渕選手一人だけだった。東京五輪では、せめてベスト8に入ってほしい。

古代都城の空間操作と荘厳

 さて、もう3週間近く前に遡りますが、研究所時代の同僚から新作の書籍が送られてきました。研究所入所は先輩でしたが、同い歳であり、たびたび同じ現場班で平城を掘り、同時(2001年3月)に退所して大学に移りました。しかし、能力には雲泥の差があった。著者に対するまわりの評価は「数学者のような考古学者」であり、発掘の技術も最上位級ということで羨望の眼差しを集めていた方です。新著のタイトルは上下に示すとおりであります。なにぶん都城を主題としているだけに、ページを開く前はおもに研究所時代の論考をまとめたものかと予想していたのですが、いざ中身をみると、さほどに古い考察は一篇だけで、他はすべて退所以降のものでした。このあたりも、わたしと全然ちがいます。
 目次と書籍情報を掲載させていただきます。

著者: 岩永 省三(九州大学総合研究博物館 教授)
書題: 古代都城の空間操作と荘厳

   序論
 1.大嘗宮移動論-幻想の議政官合議制-
 2.大嘗宮移動論補説
 3.大嘗宮の附属施設
 4.内裏改作論
 5.二重権力空間構造論-並列御在所の歴史的評価-
 6.古代都城における帝国標章の浮沈
 7.日本における都城制の受容と変容
 8.老司式・鴻臚館式軒瓦出現の背景
 9.正倉院正倉の奈良時代平瓦をめぐる諸問題
 10.頭塔の系譜と造立事情
 11.段台状仏塔の構造と系譜
 12.蟹満寺本尊・薬師寺金堂本尊をめぐる諸問題
   あとがき

出版社:: すいれん舎 (2019/6/7)  A5版 484ページ 5,500円+税
ISBN-10: 4863695829    ISBN-13: 978-4863695825
  
 アマゾンの内容紹介によると、「古代天皇大嘗宮の移動に隠されたものは何か、天皇の宮と譲位した太上天皇の宮の関係はどうだったのか。古代天皇の代替わり遺跡を紐解き、古代王権の本質に迫る労作」となっており、天皇交替の昨今にうってつけであり、専門書にしては値段も手ごろなので、よく売れるのではないかと期待されます。



2019古代都城の空間操作02裏表紙頭塔 裏表紙の一部


頭塔の復元案

 恥ずかしい話なのですが、本書の贈呈をうけ、ただちに返信のレターパックを送った直後、裏表紙に掲載されていた上の図面に気づきました。頭塔の復元図です。本文を確認すると、第10章の369ページに平面図と立面図が掲載されています。あらら・・・大変なことではありませんか。
 2000年度末に刊行された『史跡頭塔調査報告』の編集は著者が担当し、わたしは復元に係る考察の部分を担当しました。頭塔の復元については、研究所の先輩たちが取り組んでいて、五重塔案や七重塔案が概報・年報に掲載されていましたが、流れが変わったのは1993年の楊鴻勛先生(中国社会科学院考古研究所研究員)来日からです。楊先生はわたしが同研究所で学んだ際の指導教官であり、いわば師匠なのですが、93年に奈文研が正式に招聘し、各地をご案内しました。そのさい頭塔も半時間ばかり視ていただき、夕刻に研究所の製図室でくつろいでいたとき、突然ひらめかれたらしく、「4Hの鉛筆をもってきて」と指示されるや、ドラフターで頭塔の復元案をスケッチされ始めたのです。わずか20分ばかりの間に楊先生は3つの復元立面を描き、うち一つの案にはパースまでつけられました。その3案のうちの2案を下に掲載します。


チベットの方形段台型仏塔(14世紀_03 講義資料


 最上層に伏鉢状の円形構造物を配する楊先生の復元は、初め日本人の先輩研究者に「根拠がない」ということで受け入れられませんでしたが、まもなく堺市大野寺土塔(8世紀)の最上層で円形の基礎遺構が検出され、評価せざるをえなくなります。問題は最上層におく「宝塔」が、空海の密教招来とともに日本にもたらされたとする日本建築史の常識から逸脱してしまうことです。しかし、よく考えてみれば、聖武天皇が造営した華厳宗総本山東大寺の本尊「毘盧遮那」は、サンスクリット語のVairocana(ヴァイローチャナ)の漢音訳であり、「光明遍照」を意味しているので、真言宗の 「大日如来」にほかなりません。聖武天皇は知ってか知らずか、大仏殿の造営は密教の思想下にあるものであり、東大寺附属の頭塔に宝塔が含まれていてもなんら不思議はないと私は考えていて、そのように講義しています。
 私の復元案は楊先生の復元案をもとにして、宝塔部分を八角円堂風に変更していますが、決して見栄えがよくないので、講義では楊先生の案だけ紹介して拙案はゴミ箱に投じておりました。そうした案が旧同僚の大著の裏表紙において復活したことに驚き、今度は絵葉書で礼状をしたためた次第です。

 ちなみに、最近毎年訪問しているチベット・ブータン地域には宝塔・多宝塔に類するチョルテン(ストゥーパ)が無数に存在し、ボロブドールと似た段台型仏塔も多数みられます。おもに14世紀以降、おそらくは17世紀以降のものが大半ではありますが、それはいわゆる胎蔵界系の密教マンダラを立体化したものとして理解できると思われます。そうしたものが、8世紀の日本に存在した。それはボロブドールの建設された時代でもあります。もちろんボロブドールと頭塔に直接的な系譜関係はありませんが、新しい密教が躍動した古代インドの波動が南北両派の末端にまで及んだとみるほかないように推測しています。


チベットの方形段台型仏塔(14世紀_01 講義資料

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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