fc2ブログ

『鳥取県の民家』を訪ねて(18)

佐藤スライド1 0731期末発表会002コロッケ01


2019年度人間環境実習・演習B期末発表会(2)

1. 前期後半の活動
 
(3)フィールドワーク
 続いて、前期後半のフィールドワークについて報告する。中間発表までの調査は1度だけであったが、その後、4回のフィールドワークをこない、『鳥取県の民家』掲載の第3次調査対象民家のうち、東部の残り8件と中部の1件を訪問した。上(↑左)の中央あたりに掲載したのが現場で使った調書であり、ヒアリング情報などを記載している。ほかに、一眼レフとGPSデジカメによる撮影、ドローン空撮とオルソ写真の作成などい取り組んだ。


佐藤スライド2


 №027⑦ 福田家住宅  6月5日、最初に鳥取市紙子にある福田家住宅を訪れた(↑)。福田家住宅は『鳥取県の民家』刊行直前の昭和49年(1974)2月に、国の重要文化財に指定された。福田家主屋はチョウナ削りの部材痕跡、大壁構造、オダチ組の痕跡などから見て、17世紀に遡る県内最古級の民家と考えられている。大学のすぐ近くにこれほど古い民家があることに驚いた。保存状態は良好だが、現状は空き家であり、公開活用がなされていない。


佐藤スライド3


 №025⑥ 西尾家住宅  次に八頭町(旧郡家町)万代寺にある西尾家住宅を訪れた(↑上半)。報告書刊行時の世帯主ご夫妻が90歳を越えてなおご健在であり、大変丁寧におもてなししていただいた。その一方で、建物は大変わりしている。報告書刊行直後から改造が進み、平屋の茅葺から桟瓦葺の中二階型和風住宅に変わっている。たとえば、左側の写真はオーディオルームである。会社社長であったご主人の趣味の部屋であるが、奥さまは「何とかして!」と頭を抱えてられている。民家の保全度は低いが、近所にお子さんたちが住んでおり、この住宅は今後も存続していく可能性が高いと思われた。
 №021⑤ 谷上家住宅 下半は鳥取市佐治町(旧八頭郡佐治村)余戸の谷上家である。旧佐治村は県東部を代表する山間過疎地であり、谷上家を探しあてるのにも骨をおった。茅葺屋根を鉄板が覆っているが、内部の改装は少ないとのことである。


佐藤スライド4


 №011② 木下家住宅 上のスライドの上半は鳥取市(旧八頭郡)河原町布袋の木下家住宅である。主屋と長屋門は報告書刊行の昭和49年に県の保護文化財に指定された。現在、ご主人らは奥の新築ハナレにお住まいなので、主屋は事実上空き家になっている。主屋内部の部材の劣化はやや進んでいるが、カマドや囲炉裏などを含めて保存状況は良好であり、教授は、はやく国の重要文化財に格上げして公開・活用を図るべきだと仰っている。
 №030⑩ 奥田家住宅 下半は鳥取市猪子の奥田家住宅である。山間部の斜面を切り出した敷地に建つ城のような豪邸で、表の石垣壁の印象が強い。主屋は幕末に茅葺の平屋として建造されたが、明治期に桟瓦葺の中二階型に改変された。2013年に県の保護文化財に指定されたばかりで、保存状態はとても良いが、やはり公開・活用はなされていない。


佐藤スライド5


 №023⑧西尾家住宅 鳥取市赤子田の西尾家は、参勤交代の本陣として使われた大庄屋の家柄である。近年、主屋は撤去されたが、長屋門は残っている。
 №006① 米山家住宅 岩美町外邑(とのむら)の米山家住宅は、元は茅葺き屋根を鉄板で覆っていたが、報告書の編集時に大改修され中二階の瓦葺きとなった。 世帯主は県教委の幹部だったという驚きの現実である。派手な改装だが、1階の平面は古式を残しているという。昭和18年(1943)の鳥取地震で長屋門が崩壊し、土蔵4棟と茶室も売却されてしまった。
 この二件は建物の撤去が進んでいる(↑)。空撮で両者を比較してみた。一方は主屋、他方は長屋門がなくなっている。


佐藤スライド6


 №040⑯ 小椋家住宅 6月26日には人形峠に近い中部三朝町の木地山集落を訪れた。小椋家は『鳥取県の民家』刊行後、三朝町の指定文化財になったが、転居する所有者の申し出により、2016年に指定が解除された。主屋は茅葺だが、今は鉄板で覆っている。空き家化して数年経っており、地震や豪雪の影響で内部の傷みが大きくなっている。


佐藤スライド7


 №029⑨ 松本家住宅  県立中央病院に近い鳥取市江津の松本家は非常に特殊な状況にある。この一帯はニュータウン化が進み、新しい建物が軒を連ねているが、旧大庄屋の松本家は、指定・登録などを拒否しながら、露出した茅葺屋根を自発的に維持し続けているのである。じつは松本家は周辺の宅地開発の主体者でもある。

 以上のように、私たちは前期で11件の民家を訪問したが、『鳥取県の民家』 刊行から45年が経ち、さまざまな変容を遂げていることを確認した。この変化については「民家変容のパターン」で考察する。 (ころっけ)


【連載情報】
(01)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2042.html
(02)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2044.html
   №016④三百田家(若桜吉川・県指定)  №012③矢部家(八頭用呂・国重文)
(03)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2046.html
(04)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2050.html
(05)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2051.html
(06)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2052.html
(07)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2053.html
(08)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2054.html
(09)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2055.html
   №027⑦福田家(紙子谷・国重文)  №025⑥西尾家(八頭万代寺)
(10)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2056.html
   №021⑤谷上家(佐治余戸)
(11)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2059.html
   No.011②木下家(布袋・県指定)  No.006①米山家(岩美外邑)
(12)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2060.html
   №023⑧西尾家(赤子田)  №030⑩奥田家(猪子・県指定)
(13)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2061.html
   №029⑨松本家(江津)
(14)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2069.html
   №040⑯小椋家(木地山)
(15)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2070.html
   №029⑨松本家(江津)2回目
(16)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2071.html
(17)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2075.html
(18)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2076.html
(19)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2077.html
(20)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2078.html
(21)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2079.html
(22)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2080.html
(23)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2081.html
   №023⑧西尾家(赤子田)2回目
(24)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2082.html
   №086㉝福田家(日南上萩山)  №082㉜長谷家(日南萩山)  №088㉞石川家(日南笠木)
(25)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2083.html
   No.104㊲乃木家(日野黒坂)  №103㊱細木家(日野黒坂)  №097㊱内藤家(日野板井原)
(26)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2084.html
(27)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2085.html
(28)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2086.html
   №.051㉑小木家(東伯赤碕)  №052㉒門脇家(東伯赤碕)
(29)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2087.html
(30)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2088.html
   No.044⑱牧野家(関金町郡家)  No.041⑰鳥飼家(関金町大鳥居・県)
(31)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2089.html
   No.033⑫前家家(青谷奥崎)  №031⑪小谷家(鹿野町鹿野)
(32)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2102.html
   No.076㉚下原家(江府町俣野)  No.081㉛車家(江府町貝田)
(33)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2105.html
   No.106㊳生田家(伯耆町三部)  No.107㊴足羽家(伯耆町二部)
(34)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2106.html
   No.071㉗森田家(淀江町西尾)  No.070㉖田山家(淀江町淀江)
(35)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2096.html
   No.039⑮原田家(湯梨浜方面)  No.037⑫正木家(湯梨浜橋津)
(36)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2097.html
   新聞No.25中島家(岩美大谷)  新聞No.10福田家(鳥取市国安)
(37)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2098.html
   新聞No.22吉村家(鳥取市立川)  新聞No.11岩田家(鳥取市立川)
(38)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2116.html
   新聞No.20岡本家(国府町木原)  新聞No.18 山本家(国府町神護)
(39)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2117.html
   新聞No.16奥本家(用瀬町)  新聞No.17徳永家(用瀬町)
(40)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2122.html
   No.045⑲河本家(琴浦町箆津)  No.046⑳河本家(琴浦町箆津) 

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

魯班13世

Author:魯班13世
--
魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カレンダー
04 | 2023/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR