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『鳥取県の民家』を訪ねて(21)

0731藤井02スライド① (2)

2019年度人間環境実習・演習B期末発表会(5)

4.二つの関連文献から

(1)『失われゆく古民家』
 最後に、二つの重要な関連文献について考察する。関連文献の1冊目は『失われゆく古民家』である。本書は木島幹世氏と写真家の池本喜巳氏が共同で日本海新聞に連載したものを、幹世氏の息子である史雄氏が編集して出版したものである。木島幹世氏は高校教員、教育委員会職員を経て、県立博物館の初代学芸課長を務めた。
 原本となる記事は1973年2月15日から1974年10月3日まで計50回にわたって日本海新聞に連載された。その記事は県立公文書館で全コピーしている。この新聞連載は、1973~74年に編集・刊行された『鳥取県の民家』と時期がみごとに一致している。本書に含まれる民家についても一覧表と分布図を作成した。
 新聞掲載の時点で、すでに多くの古民家は「失われゆく」状態にあった。「この連載の写真と文章でうつしとられた姿が唯一のよすがとなったものも少なくない」と史雄氏はあとがきで語っている。

0731藤井02スライド② (2) 0731藤井02スライド③ (2)

 本書の写真撮影を担当した池本喜巳さんについて少し説明しておく。池本さんは1944年、鳥取市に生まれ、日本写真専門学校を卒業。鳥取市で写真事務所を営むかたわら、世界的な写真家である植田正治氏の助手を長く務めた。作品集は数多いが、ASALABと関わりのふかい大雲院や三徳山の写真集を刊行されている。

 『失われゆく古民家』では計49件の古民家が紹介されている(他の1回は土蔵アラカルト)。地域別にみると、

   東部:24件、うち『鳥取県の民家』と重複している民家は12件
   中部:24件、うち12件重複
   西部: 1件、うち1件が重複

 西部の民家数が極端に少ないこれは幹世氏と池本氏が鳥取市を活動拠点としていたこと、また昭和57年(1982)に木島幹世氏が病に倒れ、企画が終了したことと関係している。じつは50回の連載終了後、続編の準備を進めていたが、幹世氏がなくなり、続編の原稿が公開されることはなかった。この続編はおもに県西部の民家を対象にしていたのではないかと推定される。

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 上は新聞連載の初回記事である。すでに何度か紹介した市内江津の松本家のレポートで、『鳥取県の民家』第三次調査の対象にもなっている。この記事では江津村の歴史、間取りと住まい方、細かい意匠について説明されている。当時の松本家がどのように利用されていたのかなどをうかがえる貴重な資料と言えるだろう。


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 ほぼ同年に作成された『失われゆく古民家』と『鳥取県の民家』は重複掲載の民家が少なくなく、『失われゆく古民家』についても一覧表と分布図を作成した。一覧表の形式は『鳥取県の民家』一覧表とほぼ同じだが、連載順に連載番号を振っており、単行本の掲載ページも示している。なお、『失われゆく古民家』では建築年代が明記されている民家が少ないため年代の代わりに構造形式を記入した。

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 上は『鳥取県の民家』と『失われゆく古民家』を合体した一覧表である。第三次調査番号と新聞連載番号を併記している。
0731藤井02スライド⑧
  『失われゆく古民家』の分布図です。49件の民家を分布図におとしています。凡例は以下のとおり。

    ●: 『鳥取県の民家』と重複する民家
    ○: 『失われゆく古民家』のみの民家

0731藤井02スライド⑨

 上が二つの本に掲載されている民家を合体させた分布図である。番号を表記する際、初めに『鳥取県の民家』第三次調査番号、次に新聞掲載番号をもってきている。凡例は以下のとおり。

  〇: 『失われゆく古民家』掲載の民家
  △: 『鳥取県の民家』掲載の民家
  ●: 両書に重複掲載の民家

 『失われゆく古民家』の執筆者は建築の専門家ではないため、むしろ民家での生活様式や集落の状況に目をむけている。『鳥取県の民家』ではわかりにくいソフトな情報を「失われゆく古民家」で補うことができ、両者は相互に補完的な役割を果たしている。(お嬢)


【連載情報】
(01)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2042.html
(02)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2044.html
   №016④三百田家(若桜吉川・県指定)  №012③矢部家(八頭用呂・国重文)
(03)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2046.html
(04)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2050.html
(05)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2051.html
(06)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2052.html
(07)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2053.html
(08)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2054.html
(09)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2055.html
   №027⑦福田家(紙子谷・国重文)  №025⑥西尾家(八頭万代寺)
(10)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2056.html
   №021⑤谷上家(佐治余戸)
(11)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2059.html
   No.011②木下家(布袋・県指定)  No.006①米山家(岩美外邑)
(12)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2060.html
   №023⑧西尾家(赤子田)  №030⑩奥田家(猪子・県指定)
(13)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2061.html
   №029⑨松本家(江津)
(14)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2069.html
   №040⑯小椋家(木地山)
(15)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2070.html
   №029⑨松本家(江津)2回目
(16)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2071.html
(17)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2075.html
(18)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2076.html
(19)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2077.html
(20)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2078.html
(21)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2079.html
(22)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2080.html
(23)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2081.html
   №023⑧西尾家(赤子田)2回目
(24)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2082.html
   №086㉝福田家(日南上萩山)  №082㉜長谷家(日南萩山)  №088㉞石川家(日南笠木)
(25)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2083.html
   No.104㊲乃木家(日野黒坂)  №103㊱細木家(日野黒坂)  №097㊱内藤家(日野板井原)
(26)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2084.html
(27)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2085.html
(28)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2086.html
   №.051㉑小木家(東伯赤碕)  №052㉒門脇家(東伯赤碕)
(29)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2087.html
(30)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2088.html
   No.044⑱牧野家(関金町郡家)  No.041⑰鳥飼家(関金町大鳥居・県)
(31)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2089.html
   No.033⑫前家家(青谷奥崎)  №031⑪小谷家(鹿野町鹿野)
(32)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2102.html
   No.076㉚下原家(江府町俣野)  No.081㉛車家(江府町貝田)
(33)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2105.html
   No.106㊳生田家(伯耆町三部)  No.107㊴足羽家(伯耆町二部)
(34)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2106.html
   No.071㉗森田家(淀江町西尾)  No.070㉖田山家(淀江町淀江)
(35)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2096.html
   No.039⑮原田家(湯梨浜方面)  No.037⑫正木家(湯梨浜橋津)
(36)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2097.html
   新聞No.25中島家(岩美大谷)  新聞No.10福田家(鳥取市国安)
(37)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2098.html
   新聞No.22吉村家(鳥取市立川)  新聞No.11岩田家(鳥取市立川)
(38)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2116.html
   新聞No.20岡本家(国府町木原)  新聞No.18 山本家(国府町神護)
(39)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2117.html
   新聞No.16奥本家(用瀬町)  新聞No.17徳永家(用瀬町)
(40)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2122.html
   No.045⑲河本家(琴浦町箆津)  No.046⑳河本家(琴浦町箆津) 

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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