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『鳥取県の民家』を訪ねて(22)

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2019年度人間環境実習・演習B期末発表会(6)

2.昭和40~50年代の鳥取

(2)『今和次郎「日本の民家」再訪』
 民俗学者の今和次郎(1888-1973)が大正年間におこなった民家調査の報告『日本の民家』は民家研究の古典であり、いまも岩波文庫版がたやすく入手できる。早稲田大学の中谷礼仁教授は、日本最初の民家調査本というべき『日本の民家』に掲載されている民家がいまどうなっているのかという疑問を抱き、瀝青会という調査研究グループを組織して、2012年に『今和次郎「日本の民家」再訪』という単行本を出版した。この著作は2013年度の日本建築学会著作賞を受賞している。

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 『日本の民家』の著者、今和次郎は東京芸大出身の画家だが、柳田國男門下の民俗学者でもあり、のちに生活学や考現学などの新しい視点をもった学問をおこしている。『日本の民家』のほかには『住生活』、『今和次郎集』など多くの著書を出版されている。


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 大正6年(1917)、今和次郎は早稲田大学建築学科の佐藤功一教授の誘いで白茅会という研究グループに参加。柳田國男師匠の調査に同行している。この活動などをもとに、大正11年(1922)に『日本の民家 田園生活者の住家』初版が刊行される。この本は出版後も内容の充実・更新がはかられ続けた。上(↑)右は、初版本の内容から今和次郎の足跡を示したものである。


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 『日本の民家』に掲載されている民家の中から、中国地方の例を紹介する。1つ目は出雲の農家、右に示しているのは今和次郎さんが描いたスケッチである。2つ目は石見の農家、3つ目は備後山間の灰小屋、4つ目は広島の農家である。このように、民家を暖かい筆致で描きながら、地元住民から得た情報をもとに、各地の民俗建築や人々のくらしが分かりやすく解説されている。


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 早稲田大学の中谷礼仁教授を中心とする瀝青会は、「『日本の民家』に掲載された家々がいま、どうなっているのだろうか」という想いから調査を開始した。すべてを紹介するのは不可能なので、瀝青会がおこなった中国地方の建築の調査についてお話しする。右は、瀝青会が推定した今和次郎の中国地方調査ルートである。これを追跡し、4件のうち、3件の民家敷地を特定することに成功している。広島の農家は、新しい木造建築に建て替えられており、灰小屋は昭和47年(1972)の河川の氾濫によって壊れてしまったので解体したとのことである。


酷評された『「日本の民家」再訪』

 最後に『今和次郎「日本の民家」再訪』に対する厳しい書評を紹介する。野村総合研究所の山形浩生氏は、自身のブログ「経済のトリセツ」で今和次郎の『日本の民家』については高く評価しつつ、瀝青会の『今和次郎「日本の民家」再訪』を酷評している。視点はおもしろいが、平凡な記述の反復で、明確な学術的視野を欠くというのである。その上で山形氏は以下のような2つの目的の論文に再構成することを提案している。まず第1論文では、今和次郎がなぜ一連の民家を選択したのか、主に環境との係りからその理由を明らかにし、選択民家の変容を今和次郎がどのように予想していたのかを文献研究により明らかにする。第2論文では、『日本の民家』掲載の標本民家がなぜ残存できたのか、あるいはできなかったのかを、主にフィールドワークで明らかにする、というものである。


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 山形氏の指摘などを踏まえながら、『日本の民家』と『鳥取県の民家』の異同について考えた。『日本の民家』の調査が始まった大正年間、日本の都市化が本格的にスタートし、郊外にもその影響が及び始めた時期であり、人々の生活と国土の景観は大きく変化していった。こうした危機意識を背景に「史跡名勝天然記念物法」(1919)が制定される。一方、『鳥取県の民家』では、高度経済成長を迎え、人々の生活空間である民家集落の景観が劇的に変化しつつある時期に調査が進んでいった。報告書刊行の翌年(1975)には、文化財保護法に重要伝統的建造物群保存地区(町並み保存)の条項が追加されている。このように、二つの著書は、人々の住まい方と国土景観に劇的な変化が訪れつつある時期に調査・記録がなされたという点で共通しているが、『鳥取県の民家』は文化庁主導による有形文化財としての民家の保存を目的としているのに対して、今和次郎は民家をとりまく生活習俗全般の記録化に関心を抱いていたと言えるだろう。

新しい知的刺激を求めて

 わたしたちは文化財保護のために、民家の追跡調査をしたわけではない。民家という物質文化を通して、鳥取がどのような方向に動こうとしているのかを見通したいと思っていたのである。そして、過疎と空き家化と後継者不足を目のあたりにし、「指定解除」という制度破綻の現実を思い知らされた。民家集落は急速に空洞化しているが、空き家になった建物の撤去すら容易ではないのである。しかし、それは想定範囲内の出来事でもあった。
 むしろ驚愕を禁じえなかったのは、文化財指定・登録を拒否しながら茅葺き屋根を維持している№029⑨松本家である。周辺の宅地開発に参画し、屋敷林を伐採して太陽光発電を事業化しつつ、「旧大庄屋の意地」として茅葺き屋根を露出のまま維持継承しているのである。今後の動向を注視せざるをえない。
 この調査から、こうした新しい知的刺激となる情報を得たいと願っている。後期は中西部の調査と分析を予定している。【完】(月市)


【連載情報】
(01)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2042.html
(02)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2044.html
   №016④三百田家(若桜吉川・県指定)  №012③矢部家(八頭用呂・国重文)
(03)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2046.html
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(09)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2055.html
   №027⑦福田家(紙子谷・国重文)  №025⑥西尾家(八頭万代寺)
(10)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2056.html
   №021⑤谷上家(佐治余戸)
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   No.011②木下家(布袋・県指定)  No.006①米山家(岩美外邑)
(12)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2060.html
   №023⑧西尾家(赤子田)  №030⑩奥田家(猪子・県指定)
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   №029⑨松本家(江津)
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   №040⑯小椋家(木地山)
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   №029⑨松本家(江津)2回目
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   №023⑧西尾家(赤子田)2回目
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   №086㉝福田家(日南上萩山)  №082㉜長谷家(日南萩山)  №088㉞石川家(日南笠木)
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   No.071㉗森田家(淀江町西尾)  No.070㉖田山家(淀江町淀江)
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   新聞No.22吉村家(鳥取市立川)  新聞No.11岩田家(鳥取市立川)
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   新聞No.20岡本家(国府町木原)  新聞No.18 山本家(国府町神護)
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   新聞No.16奥本家(用瀬町)  新聞No.17徳永家(用瀬町)
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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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