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『鳥取県の民家』を訪ねて(31)

⑫№033前家 外観.jpg
↑現状(2019)  ↓報告書(1974)
0816青谷01前家02外観 0816青谷01前家03復原図


中級武家の中門造

 最後に青谷と気高の調査をしました

 No.033⑫前家家住宅 鳥取市(旧気高郡)青谷町奥崎の民家。珍しく事前に電話がつながって予定を合わせていたこともあり、この日(8日)いちばん長い調査となりました。おいしい梨とお茶をいただき、ありがとうございます。切妻造の赤い桟瓦葺き、高二階の建物は報告書当初からほとんど変わっていません。ただし、倉吉などの近隣都市の状況に照らしてみれば、幕末の創建時には平屋の茅葺きであったろうと推定されます。
 見た目にはL字形平面の近代住宅のようでもありますが、これが「中門造」だというから驚きです。ここにいう「中門造」は北陸~秋田に特有な農家形式ではなく、簡略的な武家屋敷の形式です。前家家には棟札が残っており、家禄300石の鳥取藩士、中島時宜の居宅として慶応3年(1867)に建立されました。明治26年(と報告書に記載)、前家家がこれを購入し、徐々に改装がなされ、中級武士の屋敷構えがうすれていったとレポートされています。内部は傷みが大きく、とくに武家らしく細く繊細な柱による軸部は県中部地震(2016)の影響もあって歪んできています(↓右)。昨年も畳と縁(↓左)を改修されています。
 これまでの「民家変容のパターン」では武家を設定していないですが、これを「町方」の一部とするならば、E-3(未指定・未登録のまま外観をほぼ維持し、本来の機能を継承)にあたるでしょう。


⑫№033前家 改装した縁側.jpg ⑫№033前家 地震で傾いた柱.jpg 改装した縁と傾いた柱


 現在のご主人は歴史に興味をもたれています。それというのも、かなりな量の史料が残っているからで、それらを丁寧にファイリングされています。史料の中には、四代前の主人がこの家を購入したときの売買契約書まで含まれています(↓)。明治25年に金250円で中嶋嘉助という奉行から購入した民家であり、襖を修理した際に裏貼りの紙に中嶋嘉助の記録が出てきたそうです。この史料は報告書刊行当時は発見しておらず、調査後に出てきたものなので、今回が初公開となります。じっさい『鳥取県の民家』(1974)では「明治26年、前家権三郎氏に買い取られ」たとあるので、報告書の売買年代よりも一年古いことが明らかになりました。屋内の撮影に加え、このような貴重な史料までおみせいただき、本当にありがとうございました。


⑫№033前家 売買契約書.jpg


 現在は同じ敷地内のハナレに住む弟夫婦さんと5人で暮らしています。息子さんは鳥取市内在住。最後にドローンで空撮をさせていただきました。ご主人は農業に従事されており、農薬散布などとの関係からドローンに大変興味をもたれていました。


⑫№033前家 空撮.jpg



0816 ⑪№031小谷家 外観.jpg 
↑現状(2019)  ↓報告書(1974)
0816鹿野01小谷家01外観01 0816鹿野01小谷家01外観02


にぎやかな住まい

 №031⑪小谷家住宅 鹿野町鹿野の民家。もとの建物の構造形式は入母屋造平入茅葺(鉄板被覆)平屋建で、広間型三間取りでした。建築年代は江戸時代中期以前。それが今では、ごらんのとおり、新しい木造建築に変わっています。民家変容のパターンの場合、D-2型ですね。
 ヒアリングに協力してくださったのは奥様でした。39年前に鉄板被覆の茅葺主屋を撤去し、新居を建設。ハナレは以前のままの姿でと思っていたのだが、土壁の土がぽろぽろ落ちてくるようになったので、10年ほど前にハナレも改装したそうです。
 小谷家は代々和紙作りをおこなっていて、ハナレはその工場を兼ねていました。お父様も和紙づくりをしていたのですが、途中でやめてしまったそうです。現在はハナレと主屋を使い分け、ご主人とお父様、奥様、息子さん3人、お嫁さん一人の計7人でにぎやかに暮らしているとのことです。


0816 ⑪№031小谷家 はなれ.jpg 0816青谷01前家01図面sam


 8月16日の調査は以上の6件でした。非常に暑い中同行し指導してくださったザキオさんと会長さん、ありがとうございました。今回の反省はデータ整理をあまりやってこなかったことで、慣れない作業が続き、ひとつひとつの動作が非常に遅く、それに伴いブログへのアップも遅れてしまったことです。如何にザキオさんに頼っているか改めて分かりました。
 緊張感を持ちつつ、次は湯梨浜の方へ調査に向かおうと考えています。(八木部長)


0816 ⑪№031小谷家 隣の家の跡地(駐車場).jpg
隣家空き地は駐車場になった。

【連載情報】
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   №016④三百田家(若桜吉川・県指定)  №012③矢部家(八頭用呂・国重文)
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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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