fc2ブログ

風の谷 ポプジカ紀行(4)-第8次ブータン調査


ガンテ仏教大学02


白黒の表裏

 9月7日(土)。ガイドのウゲンさんが、高僧へのヒアリングをセッティングしてくださったので、ガンテ仏教大学へ行きました。お話してくださったのは、この仏教大学の校長先生をしているケンポー・ワンチュクさん(43)です。中央ブータン出身で15歳の時に出家、ガンテ寺仏教大学や、南インドのマスリにある大学院で学んだのち、仏教学校の教師先生になり、1年ほど前からガンテ仏教大学に戻ってきたそうです。大変お若いのに校長を務められているエリートですが、3年3か月3週間と3日の瞑想はガンテ大学内のメディケーションセンターで行ったため、崖寺の瞑想洞穴ではしていないとのことでした。
 仏教大学につくとすぐにジンジャーチャイと飴で絡めたポン菓子でもてなしていただきました。そういえば、今年はバター茶を飲んでいません・・・


ガンテ仏教大学01


 その後、食堂からジムカン(僧坊)へ移動してお話を伺いました。
 黒の瞑想洞穴は悪霊の調伏のため、白の瞑想洞穴は悟りに至るための瞑想をする、と私たちはこれまでのヒアリングで理解してきました。しかし、校長先生は、仏教では黒と白の洞穴に区別はないとおっしゃいます。黒は厳しさ、白は優しさを表しています。そしてこの「厳しさ」というのは、怒りを以て厳しくするという意味ではなく、優しい気持ちがあるからこそ厳しくするというもので、優しさと厳しさは実は同じなのだと教えていただきました。黒の洞穴で悪霊の退治のために祈るのも、その悪霊の魂を極楽(仏教世界)に送るためにすることなのだそうです。校長先生の場合、白と黒を「善なる仏教尊格」と「邪悪なボン教悪霊」という図式でとらえているではなく、人間個人の性を善良な部分(仏性=白)と邪険な部分(黒)で理解し、じつは両者は表裏一体のものなのだが、後者を浄化し「憤怒尊」として極楽に送ることを意味されているように思いました。これまで仏堂や仏間の壁画でみてきた歓喜仏などはみな憤怒の顔をしていますが、これは人間の邪悪な部分の表現なのかもしれません。調伏による「護法尊」と人間の悪性を浄化した「憤怒尊」は明瞭に識別しなければならないのです。
 ボン教についてどう考えているかうかがうと、チベットで始まったのがボン教で、インドで始まったのが仏教なのだが、始まりは同じくらいの時期ではないか、また、白ボンは仏教と似ているが、黒ボンは自然崇拝的で動物を殺すから仏教と似ていないなどとお話しくださいました。釈迦の創始した仏教はボン教より起源が新しいと考えられています。それが、癪にさわるのか、仏教の側は釈迦以前の「過去仏」をある時期から重要視するようになります。釈迦の過去仏もあれば、多宝如来なども過去仏の一つです。そうした過去仏の存在により、仏教の起源をボン教と同等の古い時期まで遡らせようとしている気がしました。先にのべたように、白と黒は表裏一体で大差ないとのことでしたが、ボン教の白と黒の違いなどの点から、ボン教の仏教への影響に関して、さらに考察する余地があると思いました。

 校長先生は初めて日本人に話をしたそうで、大変張り切ってお話をしてくださいましたが、全体的に、お話の内容は難解であり、私はメモを取ることで精いっぱいでした。


ガンテ仏教大学集合写真01 ガンテ仏教大学集合写真02



クブンラカン景観01 


ブータン唯一のボン教寺院

 この日の午後はクブンラカン(KUBUM LHAKHANNG)へ行きました。ここはブータンでも唯一残っているボン教寺院です。ただし、ニンマ派仏教と習合しており、中心的な部屋に仏尊を祀っています。たとえば、2階の中央の部屋には仏壇があり、釈迦や弥勒菩薩などが祀られていました。その脇の小さな仏塔は、管理人さん(在家信者)によると、7世紀からあるものだそうで、ガイドのウゲンさんも驚いていました。この仏塔の横の柱にはボン教の僧侶の写真が飾られています。ボン教の僧侶は、赤い袈裟の下に青色の着物を着ていることが特徴だそうです。
 ボン教の守護神は奥の脇部屋に祀られていました。秘仏であり、厨子の中に隠されています。この部屋は、柱や壁にドクロが描かれていて壁や垂れ幕も黒色でした。ドクロは生贄を表しているそうです。仏壇に飾られているトルマは仏教の物とは少し異なっており、使い方も違うそうです。ボン教の守護神は男女それぞれ15柱あり、この寺は女性の守護神を祀っています。


クブンラカン景観03 クブンラカン お経


 3年生が管理人さんにヒアリングしている間、私とザキオさんは寺院と周辺建物の配置図を描きました。この寺院も門前から約150m離れてストゥーパが建てられていました。寺院が山の斜面に建っている上に、海抜高度は3200mだったので、山歩きが好きな私でも、斜面を上り下りを繰り返すとヘロヘロになりました。


クブンラカン遺跡01


 歩き回っていると、古い石でできた壁のようなものを見つけました。先生が、管理人さんに聞くと、もともと寺院が建てられた際の本堂の跡とのことです。つまり遺跡です。7世紀開山の縁起をもつ寺院であり、どれぐらいまで年代の遡る遺跡なのか興味深々ですが、残念ながら、石積みの壁跡なので炭素14年代測定用サンプルをとることはできませんでした。

クブンラカン外観01 クブンラカン外観02 クブンラカン外観03


 私とザキオさんで描いた配置図を元にインパルスで測量しようとしましたが、管理人さんとウゲンさんが渋い顔をしています。なんでも、古くて貴重な寺院で国から財政補助も受けているから、あまり大々的に測ってほしくないそうです。残念でしたが、ウゲンさんたちに迷惑が掛かってしまっても大変なので、細部まで測ることはしませんでした。測量は十分にできなかったものの、ヒアリングをはじめ、大変貴重な寺院を見学することができました。

 ガンテ寺仏教大学の訪問やボン教寺院の調査など、ブータン滞在の中でもかなり情報量の多い日でしたが、これまでの考えをかなり修正しなければならないと感じました。(バレー)

クブンラカン04


《参考サイト》
風の谷 ポプジカ紀行-第8次ブータン調査
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2094.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2108.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2115.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2095.html
(5)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2109.html
(6)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2099.html
(7)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2118.html
(8)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2100.html

風に吹かれて-第7次ブータン調査
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1883.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1888.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1881.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1886.html
(5)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1892.html
(6)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1891.html
(7)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1895.html
(8)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1900.html
(9)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1896.html
(10)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1899.html
(11)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1893.html

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

魯班13世

Author:魯班13世
--
魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カレンダー
08 | 2023/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR