魏志倭人伝の新しい解釈-田中章介先生講演会(予報2)


弘法も筆の誤り
12月4日(水)、日本海新聞のカルチャーコーナーに講演会の広報記事がでました(↑右)。執筆は会長さんです。データを受信直後、わたしは誤字に気がついた。いちばん要となる部分の誤字だったもので、そりゃ目にとまります。午後からのゼミの休憩時間を利用して、学生全員に誤字探しをしてもらいました。なんとかひとりふたり気付いてくれた。その部分は、魏志倭人伝の引用する
収租賦有邸閣
の六文字に含まれております(どの文字が間違っているかはご自分で確認してください)。
この六文字は従来「租賦を収むに邸閣あり」と続けて読み下すことが多かった。この場合、「年貢を納める大倉庫がある」という気楽な口語訳になります。しかし田中先生は「収租賦。有邸閣。」の二文に分けるべきだと主張されています。こういう読み方をする東洋史の先達も、もちろんいなくはない。なぜ二文に分けるのか、と言えば、租賦の「租」は物品税、「賦」は人頭税にあたるものであり、とりわけ後者は倉庫に納めるものではないからです。この問題には、もっと大きな社会的意味が関与してきます。
「賦」とは労役・兵役を担う人間を提供することであり、倭人伝の記載では「生口」という語がこの種の奴隷的存在に近いと考えられます。邪馬台国が倭国連合30ヶ国の他の国々からこうした「生口」を徴用していたとするならば、倭国連合における邪馬台国は非常に強い権力をもっていたことになり、それは中央集権的な制度を匂わせます。一部の学生はアメリカ合衆国におけるワシントンD.C.のような国だという意見を述べましたが、そんな緩い連合ではなく、むしろ後の平城京のように強固な中央集権制が3世紀前半に成立していた可能性を示唆する六文字だとみなすべきでしょう。
そしてまた「邸閣」という用語も気になります。『三国志』にはたしか「邸閣」の用例が11ヶ所あって、倭人伝以外の記載はすべて「軍用倉庫」として記載されている、と理解されていました。しかし、租賦の「賦」が貝偏に「武」のつく言葉なわけですから、倭人伝の場合も、邸閣に武庫の匂いがしないわけではない。最近の研究では、邸閣は物品税を納める倉庫、武器庫、その管理施設を含む複合体としてとらえられる傾向にあり、わたしはさらに「邸」に客館の意味があるとすれば、周辺諸国の客人(生口=奴隷)を収容した建物まで含んでいた可能性があるとみています。だとすれば、邸閣は「租」と「賦」の両方に関与することになり、とりわけ賦と関連の深い軍事用施設の一部とみなせないこともないように思われます。この点、邪馬台国の軍事力の大きさをいっそう感じさせるものであり、人頭税の存在とともに注目されるべきでしょう。
この六文字の解釈こそが、田中先生による「魏志倭人伝の新しい解釈」の前半部分にほかなりません。会長さんは、この大事な部分を・・・・・・弘法も筆の誤りです。
《連載情報》魏志倭人伝を読む
(1)漫画と文献で読む魏志倭人伝
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(2)後漢書倭伝(一)
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(3)魏志倭人伝(一)
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(4)後漢書倭伝(二)
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(5)魏志倭人伝(二)
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(6)魏志倭人伝(三)
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(7)宋書倭国伝(一)
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青谷上寺地遺跡を訪ねて
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2157.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2158.html
魏志倭人伝の新しい解釈-田中章介先生講演会
( 予報1 )http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2132.html
( 予報2 )http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2140.html
(レポート)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2156.html
(大学HP)http://www.kankyo-u.ac.jp/tuesreport/2019/20191223/