内モンゴルのオボーを訪ねて(1)

オボーとモンゴル人
オボーとはモンゴル平原で築かれる積石です。モンゴル遊牧民はそれぞれの地域において小高い丘、湖畔や峠などの聖域にオボーを建設します。一般的には石で積み上げられた円錐形のモニュメントであり、積石の上に細柳や樹木を挿し、中心に宝珠柱を立て、草原を旅する際のランドマークにします。また、宗教的な祭祀対象でもあります。モンゴル族は毎年定期的にオボーを祭り、民族の繁栄、家畜の繁殖などを祈願する年間行事をおこないます。今はチベット仏教の尊格を祀る場合も少なくなりませんが、チベット仏教浸透以前から北アジアの遊牧民族に普及していたテングリ(天神)信仰やガジル(地神)信仰とより深く関与しています。遙か昔からモンゴル族の祖先はオボー祭祀をおこなっていました。
オボーの起源に関しては、韓慧娟[121003120]が以下のように指摘しています。
早在公元3世纪、于蒙古高原崛起的匈奴人率先跃上马背的同时、
草原上祭拜大自然的敖包也随之形成。
(早くも3世紀、モンゴル高原に勃興した匈奴人が率先して馬の背に跨がると
同時に、草原で大自然を祭拝するオボーも出現してきました。)
司馬遷の『史記』匈奴列伝には、「五月、琉城大会があり、其れを先に祭り、天地鬼神を祭る」、『北史』高車伝には「五世紀半ば、北魏の大衆、競馬畜殺し、歌い娯楽し、ひらひらと舞う」と記される。古来、モンゴル族はあらゆるモノに神霊が宿ると信じ、アニミズム信仰が発展するにつれて、オボーを神霊降臨の場所だと認識するようになりました。そうすることで、モンゴル人は、神霊に守られていると信じることができるのです。私は2019年9月14日~9月16日、内モンゴル自治区に里帰りし、内モンゴル自治区ダルハン・ムミンガン連合旗の4つのオボーを調査してきました。

ホンゴルオボー
2019年9月14日(土)、朝7時に家を出発し、フフホト市より180㎞離れたダルハン・ムミンガン連合旗に向かいました。9月13日(金)~9月15日(日)はちょうど中国の「中秋節」で、全国三連休の時期でしたので、高速の渋滞、事前に約束していたガイドさんにドダキャンされ、大変な一日となりました。
午前10時になんとかダルハン・ムミンガン連合旗に到着し、新しいガイドさん二人と合流できました。本日のメンバーは6人、私の家族4人とダルハン・ムミンガン旗のガイド2人です。ガイドさんはハブラーさんとムンへ・バートルさん。早速スケジュールを確認し、現在地から94㎞離れたホンゴルオボーに向かいました。


私有地の馬の群れ


午前11:30ころ到着しました。ホンゴルオボーは海抜1.669mの山頂に建設された私有オボーです。私有オボーは近年流行りだした新形式です。外観・構造や祭祀方法は古代オボーと明らかに違います。古代のオボーは石を戒壇状に積み上げたものですが、最初期のオボーは素朴な祭壇のような集石でした。ただ天地を祭ることを目的とした「壇」でしたが、さほど厳格な宗教刊行もありませんでした。その後、人びとの宗教認識が深まるにつれ、シャーマンの巫術の影響も受け、テングル(天神)を敬うことから祭祀性の強いオボーに変容していきました。
シャーマン(巫覡かんなぎ/ふげき)は神霊の力で戦争の勝敗、家畜の繁栄などを占います。居住地域の人びとにとってオボーは守護神のような存在になりました。とくに、シラ・シャシン(チベット仏教)の浸透によって、人びとのオボー信仰及び祭祀・儀式も変化しました。たとえば、今のオボー祭祀は主にラマ僧によって執りおこなわれ、オボーの装飾物にもチベット仏教と関係あるものが増えています。昔のような集落ごとのオボー祭祀から今の私有オボー祭祀になったのも少なくはないです。私有オボーを造営する家系は必ずしも大家族ではなく、それぞれ自分の祖先の忌辰(命日)に祭祀をおこなうことで、子孫の守護を願います」とガイドのハブラーさんは車中で教えてくださいました。正直、私もいままで私有オボーがあると思いませんでした。ハブラーさんの話を聞いて現代のオボー造営の慣行や祭祀・儀式が複雑になってきたと思いました。


↑左右に小石積みが3つあります
ホンゴルオボーに近づいていくと、鉄網で囲まれた馬の群れを見かけました。私有地の証です。この牧場の主はハブラーさんの知り合いだったようで、早速調査を開始しました。ホンゴルオボーは高さ9m、直径約8m、三段円錐形の戒壇状を呈し、左右に3つずつ小さな石積みの痕跡があり、群集型オボーになりつつあります。レンガで舗装された台座からホンゴルオボーの造営年代はかなり新しいとわかります。【続】

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