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魏志倭人伝を読む(6)

 12月12日(木)、2年生が魏志倭人伝を読み終えました。大変難しい漢文でした。とりわけ魏の皇帝の詔に出てくる卑弥呼への返礼の品々がやっかいです。巷間でよく知られている金印や銅鏡以外にさまざまな織物などが送られています。原文は非常に複雑な表現になっていて、先達諸氏の業績に頼らざるをえませんでした。魏志倭人伝講演会の資料としては間に合いませんでしたが、重要な基礎知識を身につけて会に臨むことができ良かったです。学生に感謝!

魏志倭人伝(三)

 卑弥呼はすでに年老いていますが、弟がいて補佐しています。(卑弥呼が)王となってから彼女をみた者は少なく、奴婢千人を侍らせていますが、ただ男子が一人いて、飲食を給し、お言葉を伝え、お住まい(居処)【注30】に出入りしています。宮室、楼観(ものみぐら)、城柵をおごそかに設け、つねに人がいて、武器をもって守衛しています。
 女王国の東【注31】にむかって海を千里余り渡ると、また国があり、みな倭種です。さらにその南【注32】には侏儒国があります。身の丈3~4尺(1m前後)で、女王国から4000里余りのところです。さらに東南【注33】にいくと、裸国と黒歯国があります。船に乗って1年かかります。倭の地について問いたずねると、海中の洲島のようなところであり、断続的に陸地があって【注34】、海中に点在したり、陸地が長く続いていたりします。
 景初二年(西暦239年)【注35】の六月、大臣のナトメ(難升米)等を帯方郡に派遣し、魏の皇帝に面会して朝献したいと求めてきました。帯方郡の長官、劉夏は役人を遣わして、都の洛陽まで使者を連れて行きました。その年の12月、皇帝【注36】は詔して倭の女王に伝えました。

  親魏倭王卑弥呼に詔します。帯方郡長官の劉夏は使者を遣して、貴国の大臣ナトメと
  その次使ツシゴリ(都市牛利)を都まで連れていき、貴女の献上した男の奴隷4人、
  女の奴隷6人、まだら織の布【注37】二匹【注38】二丈を皇帝のところまで持って
  きました。貴女の所在地ははるか遠いところであるにも拘わらず、使者を遣わせ貢物を
  しました。この行いは甚だ忠孝であり、貴女をいとおしく思います。これからは貴女を
  親魏倭王と認め、金印と紫綬(紫の組紐)を与え、おごそかに箱入して帯方の長官にわたし、
  貴女に寄贈させます。(この金印をもって)倭種の人びとを鎮め治め、できる限り忠孝で従順
  であるようにさせなさい。貴女の使者、ナトメとゴリは遠い道のりを苦労して歩いてきて
  くれたので、ナトメを率善中郎将、ゴリを率善校尉とし、銀印と青綬(青の組紐)を与え、
  面会して労い、帰国させます。いま深紅の布地に交竜模様を施した錦を五匹、深紅ちぢみ
  の毛織物を十張、茜色の絹を五十匹、紺青絹を五十匹、貴女への返礼とします。とくに
  貴女には、紺布地の小紋の錦を三匹、細い花模様の毛織物を五張、白絹を五十匹、金を八両、
  五尺刀を二本、銅鏡を百枚【注39】、真珠と鉛丹(赤い顔料)をそれぞれ五十斤与え、
  すべておごそかに箱入してナトメとゴリに渡します。二人が帰国したら受け取り、
  すべての品を国中の人にみせ、魏国が貴女をいとおしく思っていることを知らしめなさい。
  こういうわけで、丁重にして貴女に素晴らしき品々を贈るのです。

と。正始元年(西暦243年)【注40】、帯方郡の長官、弓遵建中校尉の梯儁らを派遣し、詔書・印綬を携えて倭国に到り、倭王に拝謁してこれらを与え、詔を代読して渡し、黄金と錦、絹織物、刀、鏡や贈答品も授けました。女王は魏使の言に応じて挨拶し、謝意を示しました。
 その4年(西暦243年)【注41】、倭王は大臣のイトギ(伊声耆)・ヤザク(掖邪狗)ら8名を(魏に)派遣して、奴隷・倭錦(やまとにしき)・赤青の絹・緜衣(絹の衣服)・帛布(白絹)・丹(赤い顔料)・木弣(木製の弓束)【注42】・短い弓矢を献上しました。ヤザクたちは、率善中郎将の印綬を授かりました。その6年(西暦245年)、皇帝は詔して黄幢【注42】を帯方郡経由で(女王に)与えました。
 その8年(西暦247年)、帯方郡の新たな長官に王頎が就任しました。倭の女王、卑弥呼はもとから狗奴(くな)国の男王ヒミクコ(卑弥弓呼)と仲が悪かったので、倭のソシ(載斯)・ウオ(烏越)らを帯方郡に派遣し、戦争しあっている状況を説明させました。魏は塞曹掾史の張政らを派遣して、詔書と黄幢を(倭に)もって行き、ナトメに拝謁してこれを与え、檄文を作成して激励しました。

 卑弥呼が死にました。大きな墓(塚)を作りました。直径100歩あまりで、徇葬する者は奴隷100人あまり。その後、男子の王を立てたのですが、国中の人びとは従いませんでした。入れ代わり立ち代わり誅殺しあって、当時千人あまりが殺されました。そして、卑弥呼の養女トヨ(台与)が13歳になったので王として擁立したところ、ようやく国内が治まりました。張政らは檄文をもってトヨを激励しました。トヨは倭の大臣、率善中郎ヤザクら20名を派遣し、張政らの帰国を送らせました。そのまま魏の中央官庁【注43】にまで至り、男女の奴隷30人を献上し、白い真珠5000個、青玉(ヒスイ)2枚、珍しい模様の雑錦20匹を貢物としました。【完】


【注】
 30)「居処」については、後続する「宮室楼観城柵」の冒頭にもってきて「居処・宮室・楼観・城柵」と読む研究者もいるが、「宮室」「楼観」「城柵」はそれぞれ独立した建築の類型であるのに対して、「居処」は建築でなく、「住むところ」という意味なので、3つの用語とは異なるカテゴリーである。「居処は宮室、楼観、城柵を・・・」と読むこともできるが、本稿では前の文章に含むべきと考えた。後漢書倭伝(一)の注10)参照。
 31)東は正確な方位ではなく、西の可能性あり。
 32)方位反転の可能性あり。
 33)やはり方位反転の可能性あり。
 34)原文「絶在」:  「絶えたりあったり(断続的に点在する)」の意か。
 35)景初三年(239)の間違いとも言われる。
 36)当時の魏皇帝は明帝(曹叡)。第2代皇帝。文帝曹丕の長男。
 37)原文「班布」: まだらに織られた布。原料は麻、苧麻などともいわれる。
 38)原文「匹」: 衣物一着分を作ることのできる布の単位。古代にあっては、馬一頭分と交換する高価な絹の長さに相当し、40cm×2.3m程度か。
 39)ここにいう「銅鏡」を三角縁神獣鏡とみる説が古くからある。近畿全体で数百枚出土しているが、九州では一枚も発見されていない。
 40)魏皇帝は少帝(曹芳)にあたる。
 41)原文「𤝔」: おそらく「弣」の誤字。後続する「短い弓矢」との関係から弣(ゆづか=弓束)とみるのが妥当であろう。

弣(ゆづか) 弣(ゆづか)02

 42)原文「黄幢」: 黄色い垂れ旗。黄は中華の象徴。いわゆる「錦の御旗」であり、官軍のシンボルとなる。
43)原文「台」 : 役所を意味する。

《連載情報》魏志倭人伝を読む
(1)漫画と文献で読む魏志倭人伝
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2113.html
(2)後漢書倭伝(一)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2119.html
(3)魏志倭人伝(一)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2125.html
(4)後漢書倭伝(二)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2131.html
(5)魏志倭人伝(二)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2134.html
(6)魏志倭人伝(三)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2153.html
(7)宋書倭国伝(一)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2155.html
(8)「弥生の衣食」再現
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2162.html

青谷上寺地遺跡を訪ねて
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2157.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2158.html

魏志倭人伝の新しい解釈-田中章介先生講演会
( 予報1 )http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2132.html
( 予報2 )http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2140.html
(レポート)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2156.html
(大学HP)http://www.kankyo-u.ac.jp/tuesreport/2019/20191223/

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Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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