近代化遺産は元気かい

湯沢からの礼状
秋田魁新報3月8日8面(文化面)に7段ぶち抜きで掲載された「近代化遺産は元気かい」は反響が大きかった。以下は、元秋田県教委の文化財保護スタッフでリーダー格だった方からのメール抜粋である。
(略)それにしても、30年間に指定登録済みを上回るほどの消滅件数になったのは、
どう振り返れば良いのか、記事を読み込んだ県内読者が、当時の事務局担当者に問い
あわせたのも分かるような気がします。解体消滅が避けられないとして、古材リサイクル
のような具体策の提言も傾聴すべきと思います。加えて、やはり文化財行政の体制強化、
そして文化財アーカイブ論のような方法論の確立は、どうしても、必要なことのように
読ませていただきました(文化庁長官に読ませたいです)。ある意味、この国をどうもって
行くか、とても、とても大きな問いかけの一端を、秋田の近代化遺産を材料に記事にして
いただきました。ありがとうございます。
これ以外にも県内外から暖かいコメントをメールで頂戴していたのだが、新学期になって郵便物を受け取りに行くと、メールボックスに達筆の葉書が投函されていた。『秋田県の近代化遺産』第3次調査で訪れた湯沢市の老舗醸造元、石孫本店社長さんからの礼状である。社長の奥様からも新聞社に「(新聞記事を読んで)土蔵を大切に維持しようとの思いを強くしました」との礼状が届いたそうだ。ささやかな雑文が紙面を飾ることで、登録文化財所有者の保存意識が高揚したという成果を実感し、とても嬉しく思った。多くの民家や近代化遺産が消滅し登録抹消されていくなかで、石孫本店は健全な保全活用を継続している稀少かつ貴重な例である。


今井町の静閑
一方、近畿の私立大学のベテラン教員からは久しぶりに電話を頂戴した。町並みのアーカイブを4Kで作成しようとしている方であり、重伝建「今井町」を素材に新しい研究に着手しつつあるということで、vrxplayerというフリーソフトと動画のデータを送信してくださった。このさいだから春休みを利用して、久しぶりに今井町を訪ねてみようと思い立った(患者は付き合ってくれなかった)。今井町や大阪の富田林は、町並みの質が猛烈に高いのに、それを町づくりに活かそうという意識が低い。観光客むけに町家等を改修した土産物店やカフェ等が少ないのである。信長と一戦交えながらも一目置かれた寺内町としてのプライドが遺伝子となって抑制を効かせているのか、高級な歴史的町並みを観光資源にしようという意欲が希薄である。観光振興の極致というべき倉敷などとは対極の閑けさに包まれている。



普段からそういう趣きの町なのだが、加えてコロナ禍の中にあり、人影は疎らもまばら・・・称念寺と勝明寺の桜は見ごろだというのに境内には誰一人いなかった。不要不急の外出を自粛すべき立場ではあるけれども、小雨に煙るこの古い町を歩いて何かに感染するとは到底考えられなかった。スーパーやコンビニよりはるかに安全な場所である。


考えてみれば、日本最高レベルとされる今井町の町並みは、Lablog/Lablog 2Gに初登場なので、簡単に紹介しておこう。町家はいわゆる土蔵造であり、壁面や垂木を漆喰壁で被覆している。屋根は本瓦葺、低いツシ二階建が多く、それらの建築年代は18世紀中期以前に遡るであろう。こうした古式の町家は他の地域と同じく切妻造平入が主流だが、比較的新しい町家は入母屋につくる例もあり、それが角地に建つ場合、1階の庇屋根を隅切している。これは今井町だけでなく、周辺の集落でも認められる。寺内環濠の内側では、8棟の町家と称念寺本堂が国の重要文化財に指定されている。環濠の西口脇に建つ城構の今西家はとくに有名であり、慶安3年(1650)の棟札を残す。


↑今西家 ↓今西家の近く
