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実績報告(2019年度科学研究費)

研究題目: ブータン仏教の調伏と黒壁の瞑想洞穴 -ポン教神霊の浄化と祭場-

 研究実績の概要:   2019年度は8月に四川高原のギャンツェ・チベット族自治州でチベット仏教のストゥーパ、マニタイ、リンボン(石積)等を調査し、9月に第8次ブータン調査をおこなった。第8次調査の主フィールドはワンデュポデン県ポプジカであり、ガンテ寺、クブン寺、ケワン寺などで本堂の尊格配置、護法尊、ストゥーパなどについて調査した。とくにクブン寺は表向きドゥク派の仏寺だが、7世紀に起源が遡ると伝承されるボン教の寺院であり、本堂1・2階の中央間は仏像を安置するものの、2階の脇間はボン教の秘仏を祀る隠し部屋(ギョンカン)としている。中国の西蔵側には今もボン教寺院が散在するが、ブータンではここが唯一のボン教寺院である。
 ガンテ大学の仏教大学長と2時間ばかり面談し、白壁と黒壁の洞穴での瞑想の違いや護法尊の由来をご教授いただいた。学長によれば、白(善)と黒(悪)は必ずしも対立する概念ではなく、表裏一体の関係にあるという。たとえば、人間の心の中にも白(善)と黒(悪)が同居しており、黒い部分を浄化することで一定の神格に再生しうる。これはボン教神霊を調伏した護法尊ではなく、いわゆる憤怒尊と係るであろう。
 11月9日の建国70周年中国建築学会招聘講演(北京)で東大寺頭塔を復元的に論じる際、チベット密教のストゥーパの構造形式や境内との配置関係とも比較した。また、11月16日の中国科学技術学会招聘講演(福州)で木造建築の科学的年代測定について論じる際、ブータン各地に残る版築壁跡から採取した有機物の炭素14年代についても言及した。新年2月11日には、ブータンからカルマ・プンツォ博士(オクスフォード大学東洋学phd)を招聘してフォーラム「Human wellbeing from the view of Bhutanese Buddhism」を鳥取で開催する予定であったが、コロナ禍のため延期となった。今年度秋以降の再開で調整している。

 キーワード: ブータン チベット仏教 後期密教 護法尊 憤怒尊 調伏 ボン教 ポプジカ

 進捗状況と進展状況:  第8次調査では護法尊や憤怒尊の情報を多く得ることができ、ブータン唯一のボン教寺院「クブン寺」を訪問することもできた。ドゥクパ・クンレーの伝承に因むファルス信仰についても、民家軒先につるす木彫ファルスが剣と複合的に表現されることを実際に観察した。この場合、ファルスは魔除け、剣は無知を切り裂く武器である。また、高名な僧侶から長時間のヒアリングもおこなえた。こうした成果を、中国の建築学会(北京)と科学技術史学会(福州)で発表することもできた。中国とブータンは国交がないけれども、西北雲南や四川高原の旧チベット領カム地方はブータンと宗教/文化的なつながりが強く、昨年度は四川高原のチベット族自治区を訪れ、多くの情報を収集できた。二つの学会の招聘講演でも、チベット仏教やブータンの文化遺産について強い関心を抱いていただいたと確信している。ブータンと中国領チベット仏教文化圏の宗教文化/文化遺産の調査と研究を十分遂行したと思う。昨年度、唯一残念だったのは、ブータン史・チベット仏教学の大家、ローペン・カルマ・プンツォ博士を囲むフォーラム「Human wellbeing from the view of Bhutanese Buddhism(ブータン仏教からみた人間の幸福)」が新型コロナウィルスのため中止になったことである。コロナ・ウィルスが蔓延し始めた2月初旬のことだが、こればかりは防ぎようのない事態であった。国際状況を鑑みながら今年度内での開催をいまいちど模索したい。カルマ博士とは、昨年9月の第8次ブータン調査の際、首都ティンプーで面談し、鳥取でのフォーラムをご快諾いただいたばかりか、今年度は博士の故郷である中央ブータンの廃寺にご案内いただくことになっていた。コロナ禍が収束しない限り、実現がむつかしく、予算が執行できるか不安を抱えている。ブータンに近接する旧チベット領カム地方(西北雲南・四川高原)でも調査を継続したいが、こちらもコロナ禍の問題を抱えている。海外渡航が禁止される場合は、外国文献の翻訳や論文の執筆、報告書の編集に集中するしかないかもしれない。


 研究業績

1.国際学会招聘講演および審査論文
 浅川「従東大寺頭塔的復原看宝塔的起源-與蔵伝仏教卒塔婆的結構和配置相比較-」
  建国70周年中国建築学会建築史分会学術研討会2019(中国工業大学 2019年11月9日)
  論文:『中国建築学会建築史分会年会及学術研討会2019 論文集』(上):pp.58-72
     『2019年中国科技史学会建築史専業委員会年会及国際学術研討会論文集』:pp.71-85
 浅川「科学性年代測定和建築史研究-日本木造建築構件和不丹夯土墻遺跡的分析」
  2019年中国科技史学会建築史専業委員会国際学術研討会(福州大学 2019年11月16日)
  論文: (中文)同上論文集:pp.17-32  (日文):pp.1-16

2.その他の論文
 浅川(2019)「『賽の河原』の風景-摩尼山地蔵堂の考証と復元-」
    『地域イノベーション研究』vol.6(2018年度):pp.17-37 
 岡崎(2020)「中期密教の宝塔/多宝塔とチベット仏教ストゥーパの比較研究
    -構造と配置に関する基礎的考察-」2019年度公立鳥取環境大学大学院修士論文
 ガビラ(2020)「功徳と回向の石積み
    -モンゴル・チベット・日本の円錐/戒壇状堆石に関する比較研究」
    2019年度公立鳥取環境大学環境学部卒業論文
 谷(2020)「ブータン仏教の調伏と護法尊に関する基礎的研究
    -白/黒の対立と融合-」2019年度公立鳥取環境大学環境学部卒業論文 

3.報告書
 浅川・森(編)『能海寛を読む-「世界に於ける仏教徒」の口語訳と批評-』
    公立鳥取環境大学(118p.)

4.WEBサイト
風の谷 ポプジカ紀行-第8次ブータン調査
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2094.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2108.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2115.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2095.html
(5)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2109.html
(6)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2099.html
(7)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2118.html
(8)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2100.html

四川高原-ストゥーパの旅
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2137.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2141.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2142.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2143.html
(5)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2146.html

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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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