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実績報告(2019年度環境大学特別研究費)

 研究題目: 四川高原カム地区のチベット仏教と能海寛の足跡に係る予備的調査研究

 研究実績の概要: 2019年8月20~28日、浅川、岡﨑滉平(本学大学院生)、何大勇(雲南民族大学教授)、韓正康(四川省民族研究所助理研究員)の4名で四川省甘孜藏(カンゼ・チベット)族自治州を訪問し調査した。本研究は当該地のチベット仏教遺産と能海寛の行程追跡の両方をめざし、同州の康定~丹巴~炉霍~色達~理塘~巴塘の踏査を目標にしていたが、色達~巴塘の距離は数百キロあり、能海が金沙江沿岸で足止めされた巴塘への移動は断念した。ただし、『能海寛遺稿』に記録の残る大渡河の瀘定橋を訪れた。一方、色達にはチベット仏教最大の寺院「ラルンガン大僧院」があり、外国人はめったに参拝できない高山の聖地である(標高4,000m)。調査対象はストゥーパ(宝塔)とマニタイ(摩尼堆)に焦点を絞った。両者は複合する傾向にある。昨年雲南で発見したマニタイについては、前期から凌立氏の論文「浅談藏族崇尚摩尼堆的缘由」(2005)を和訳して調査に備えた。この論文によると、マニタイは森林・湖畔・橋の袂・辻などに設置され、かつては狩猟のための防御壁であり、神霊(聖)と人(俗)の境に立つ道標でもあった。近年は死者を供養する役割が強化されており、親族に不幸があると、板石に「オン・マ二・ぺメー・ホーン(観音菩薩は心の中に)」の六字真言を彫って積み上げる。以前は幼少期から真言彫りの技術を習得したが、現在では専門の職工に機械彫りを依頼する。その工房も訪問した。四川での観察例では卒塔婆風の標柱はなく、墳丘状の積石のみ。雲南と同様、地下に遺骨の類は一切埋納しない。凌氏によれば、標柱は武器・狩猟具の意味があり、魔除けの道具であるという。武器を呪法具とする傾向は仏教の転法輪(戦車の車輪)がまさしくその類であり、モンゴルの石積オボーでも槍を突き刺す。真言を刻む板石を寺院に寄進する場合もある。德格県のザシ寺では、真言刻みの板石を数十万枚積み上げて壁とする「石経城」をみた。ストゥーパについては、仏教とボン教の両方でデータを収集した。今回とくに境内とストゥーパの位置関係に注目した。日本古代の特殊な仏塔遺跡(東大寺頭塔など)の解釈に貢献する可能性があると考えたからである。


 研究成果 ブータン、チベット(西蔵)、青海省(アムド)、西北雲南(カム)に続いて四川高原(カム)を訪問し、チベット仏教の普遍性と多様性をさらに実感した。昨年の西北雲南では民家の再建・新築が進んでいたが、四川省には伝統的な住宅・民族建築がよく残っている。仏教寺院、ストゥーパ、マニタイも各地にあり、ブータンでは絶滅状態のボン教寺院も各地に現存している。今後、調査を継続するに値するフィールドだという思いを強くした。なお、建国70周年中国建築学会国際シンポで重慶大学の研究者と交流を深めた。今後、共同研究に発展させたいと思っている。

《研究業績》 
①浅川(2019)「従東大寺頭塔的復原看宝塔的起源-與蔵伝仏教卒塔婆的結構和配置相比較-」建国70周年中国建築学会建築史分会学術研討会2019(11月9日講演@中国工業大学)『中国建築学会建築史分会年会及学術研討会2019 論文集』(上):pp.58-72 
②岡﨑(2020)「中期密教の宝塔/多宝塔とチベット仏教ストゥーパの比較研究-構造と配置に関する基礎的考察-」2019年度公立鳥取環境大学大学院修士論文 
③ガビラ(2020)「功徳と回向の石積み-モンゴル・チベット・日本の円錐/戒壇状堆石に関する比較研究」2019年度公立鳥取環境大学環境学部卒業論文。
④浅川・森編『能海寛を読む-「世界に於ける仏教徒」の口語訳と批評-』公立鳥取環境大学(118p.)
⑤ LABLOG 2G 連載「四川高原-ストゥーパの旅」
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2137.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2141.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2142.html
(4)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2143.html
(5)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2146.html


《おまけ》 令和元年度 学長裁量経費特別助成(研究旅費)実績報告
カルマ・プンツォ博士の招聘および同行者旅費
(フォーラム「ブータン仏教からみた人間の幸福」開催のため)

 ブータン史およびチベット仏教学の大家、ローペン・カルマ・プンツォ博士(ロデン財団理事長・オクスフォード大学東洋学phd)が2020年2月3日‐9日に京都大学大学院教育学研究科で集中講義をされることが決まっており、この機会を利用して2月9日-12日に本学に招聘し、京都・奈良の華厳教および密教寺院を訪問した後、「ブータン仏教からみた人間の幸福(Human wellbeing from the view of Bhutanese Buddhism)」と題するフォーラムをまちなかキャンパスで開催すべく準備を進めていたが、1月下旬から新型コロナ・ウィルス感染症が日本国内でもひろがり始め、カルマ博士は来日を断念された。
 当時、クルーズ船と武漢からの帰国者を除く日本国内の感染数は非常に少なく、日本国民は平常の生活を送っていることを強調し、何度もメールで説得にあたったが、ブータン厚生省およびロデン財団から出国を控えるよう要請があり、博士自身さんざん悩まれた末、日本国内よりもむしろ経由地であるバンコクの感染状況を危惧され、2月1日に正式に訪日を断念された。結果、2月3日‐9日の招聘は水泡に帰し、交付額128,200円は全額返納した。

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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