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いい加減に学ぶ中国語講座(5)

1117陳大尉宮02楼門04正殿01 1117陳大尉宮02楼門04正殿03内部01


陳大尉宮を読む〈三〉

 昨夜の漢文調読み下し文は、ちょっとおかしな文章になってしまいました。今夜はまともな日本語に直してみましょう。

【福建·羅源】陳太尉宮(福建三大宋代木造建築之一)
 福州の華林寺大殿、莆田の玄妙観三清殿、羅源の陳太尉宮正殿は、福建(閩)地方の三大宋代木造建築の至宝と称賛されています。前二者は繁華街にあり、訪問しやすいので、衆人の熟知するところとなりました。陳太尉宮は福州市羅源県の深山にあるため、交通ははなはだ不便です。しかも、正式にはずっと対外的な開放がなされていなかったので、名声露わにならず、関係資料もまた多くはありません。かつて三回陳太尉宮に出向いた人がいるのですが、運気はじつにひどいものでした。一回めはもろに門前払いをくらい、何もみることはできず、ただちに打って返しで自宅に戻りました。二回めは廟門の中に入ったのですが、正殿の手前まで至るや否や町役場の役人が次々あらわれ、「出ていってください」と請われました。「北京の専門家がいらっしゃって修復作業を視察・指導しているので、無関係の方はみな(参拝を)控えていただいている」と言うのです。三回めは道半ばにして小雨が降り始め、廟門に着くと固く閉ざされているのに出くわしたのですが、幸い後からやってきた参拝者数名が香火管理人に連絡してくれたので付いていくと、思いがけず幸運にも廟に入ることができました。ところが、これら参拝者の焼香・占卜が終わるのを待って、管理人はただちに門を閉め始め、立ち去ってしまったのです。こういうわけで、(参拝者に)付き添って宮を撮影する時間は半時間もありませんでした。しかも、雨天の殿内は光が足らず暗すぎて,撮影条件はまったく理想的ではなく、重要な部分を撮り損ねてしまったのです。このように、その人は3回めの行程も失敗してしまいましたが、(陳太尉宮をみて)興奮を覚えたのです。


1117陳大尉宮02楼門04正殿05胴梁柱01 1117陳大尉宮02楼門04正殿05胴梁柱02


 個人の体験に基づくならば、陳太尉宮正殿は華林寺や三清殿と同類の福建東南地区の宋代遺構ではあり、様式・技術・改修方法すべてにおいてよく似ているものの、全体の保存状況では、陳太尉宮正殿があきらかに当初の姿に近いものです。細部をみても、古式・古風を備えているように思います。とりわけ太径の梭柱(↑)、大型の櫨斗、まんまるとした月樑(↓)、および形式独特の挿肘木が折り重なる畳門はすべて忘れがたい印象を残しました。


1117陳大尉宮02楼門04正殿07もや01小屋組02 1117陳大尉宮02楼門04正殿07もや01小屋組01


 陳太尉宮を説明するにあたっては、その淵源について語らざるをえません。この宮は羅源県中房鎮乾溪村の南の小山の斜面上に位置しています。五代梁の開平三年(909)に創建され,もとは陳氏の家祠でした。王審知(十国閩の初代の王)の入閩(福建進軍・侵入)に随い、陳蘇がこれを建てたのです。貞明元年(915)、陳蘇は世を去り、祠に奉祀られたので「高行先生祠」と改称されました。宋の嘉定二年(1209)、陳蘇は勅命により「英恵侯王」に封じられました。嘉熙三年(1239)には「顕祐嘉応侯王」に加封され、祠の前側に宮殿を建造し「大宮」と称します。同年,陳蘇の十五世孫にあたる陳慶が金に抗って功あるも、十八歳にて沙場(戦場)に死し、「都統伏魔太尉」に封されて宮に祀られて、(建物は)拡張され「陳太尉宮」と改名されたのです。以後、何度も修理・増築を重ねました。現状は門楼・舞台(清)、両側の配殿(明・清)、正殿(南宋)より構成され、建築面積は1,155㎡です。1985年に第二次省保(福建省分保護単位)、2001年に第五次国保(国家重点文物保護単位)に登録されています。


002平面図

 〈平面図キャプション〉 平面配置からみると,陳太尉宮は坐西朝東で、やや南に偏り、外觀は十字形を呈しています。山あいの窪地に位置するため、周辺は樹木に遮蔽され、全景を撮影する方法はありません。これは見取り図です(↑)。あまり正確でなく、(写真等の)寄せ集めで描いたものです。


1117陳大尉宮02楼門02細部01 1117陳大尉宮02楼門03藻井01
↑↓楼門(畳門)軒下細部
1117陳大尉宮02楼門02細部02 1117陳大尉宮02楼門02細部03


1117陳大尉宮02楼門04正殿06ひさし01小屋組01 瓜柱を使った巻朋の架構(配殿)


 この文章を読んでもよくわからぬ建築術語が最後のほうにまとめてでてきます。①「太径の梭柱」とは胴張柱でしょう。②「大型の櫨斗」とはたぶん「(皿斗付)大斗」、③「まんまるとした月樑」は写真にみるとおり、「円形断面の虹梁」でしょう。④「挿肘木が折り重なる畳門」は牌坊のように幾重にも挿肘木がせり出した楼門であるのは疑いないところです。①胴張柱は法隆寺西院に代表される白鳳様式、②皿斗? ③円形断面の虹梁 ④挿肘木は大仏様(鎌倉初期)の重要な細部です。②④は法隆寺西院でも確認されるので、やはり古代及び中世初期の仏教建築において福建(南朝)と日本の繋がりは強いと言えます。
 さて、このブログ記事は百度百科よりも年代観が精密であり、陳蘇祠堂の創建が五代梁の開平三年(909)であると年代を特定しており、嘉熙三年(1239)に陳蘇の十五世孫にあたる陳慶が金に反抗して戦死し、祀堂が再建・拡張されたと記しており、その成立年代を南宋としています。そして、正殿(南宋)、配殿(明・清)、門楼・舞台(清)という時代分けをしていますが、じつは正殿庇の部分と配殿は瓜柱(↑)を使ったほぼ同じ架構をしています。つまり、中庭に面する正殿の庇部分は配殿と同時期に改修されたものと考えられます。そうした年代差は挿肘木の様式にもはっきりあらわれています。南宋の素朴な挿肘木と明・清の華やかな挿肘木に数百年の歴史差を感じ取ることができるのです。


1117陳大尉宮02楼門04正殿06ひさし02挿ひじき01
↑正殿庇の挿肘木 ↓配殿の挿肘木 いずれも明清期。正殿内側の柱に南宋期の素朴な挿肘木がついています。
1117陳大尉宮02楼門04正殿06ひさし02挿ひじき02 


『魯班営造正式』の掩角

 陳大尉宮の外周をまわって撮影したとき、懸魚に似た化粧板が軒の隅木隠しに使われていることが気になり始め、エクスカーションに参加した先生方に訊ねました。同済大学の李湞教授曰く、「あれは『魯般営造正式』の掩角だ」と。民族建築学者としてこれだけでは引き下がれません。地元では何と呼んでいるのか、その方言呼称が気になってきたのです。今度は若い女性研究者が管理人などに聞いてくれました。結果は、以下のとおり。

  掩角 yang3 jiao3 (魯般営造正式)
  掩嘴 yang3 zui3 (閩東方言) *数字は声調を示す

 『魯班営造正式』は明代以前に成立したとされる民間工匠技術書であり、同済大学に留学していたころの研究主題の一つでした。最近の研究によれば、 『魯班営造正式』に記載された建築は、おそらく元代の江西~福建地方のものであろうということです。陳大尉宮で、それを裏付ける証拠を垣間みたように思いました。以下、掩角の写真をどがんと掲載します。【完】


1117陳大尉宮00掩角03

1117陳大尉宮00掩角02 1117陳大尉宮00掩角01 

1117陳大尉宮00掩角05縦01 1117陳大尉宮00掩角06

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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