寅さんの風景-マイ・バック・ページ(5)

(3)物語の遷ろい
翌朝、「因州佐治」紙漉き業者の大型車で倉吉を出発(図28)。さくら(倍賞千恵子)を通して満男の待機場所を知った二人は海岸線沿いに車を走らせ、砂丘をめざす。砂丘に到着するや否や、寅さんを残したまま泉は車を飛び出し、砂丘の馬の背に向かう。果たして、そこでは満男が待っていた。狂喜する若い二人・・・へたる寅。

その後、いきなり場面は河原宿の「新茶屋」に変わる。合流した三人は鮎尽くしの割烹料理を二階座敷で食べている。まもなく女将の聖子(吉田日出子)が帰宅し(図29)、三人と面会。寅さんは恋敵だった板前の亭主が1年前に千代川の暴れ水で死んだことを知らされて驚き、自分のふざけた口ぶりを女将に謝罪する。「仏ほっとけ」を口癖とする寅さんが、このときだけは顔色を変え、急ぎ墓参りへ(図30・31)。墓参後、すっかり日が暮れてしまい、女将の熱心な誘いもあって、三人は新茶屋で一泊することを決めた。その夜、お客が消えて従業員を早めに帰らせ(図32)、女将と寅さんは差しつ差されつつ酒を酌み交わし、酔った女将が色仕掛けで寅さんに迫ろうとするその瞬間・・・二階から覗き見していた満男が前のめりになりすぎて手すりを壊し、中庭の池に急降下。水しぶきとともに濡れ場は水泡に帰す。





翌朝、満男は泉に付き添われて森下医院へ(図33)。頭に包帯をぐるぐる巻きにしたまま二人は自転車に乗って千代川(八東川)の堰堤までサイクリング(図34)。その堰堤を前にした二人の会話は寅さんの女性観を知るに欠かせないシーンである(図35)。

(満男)あのおじさんはねぇ、手の届かない女の人には夢中になるんだけど、その人がおじさん
のことを好きになると、あわてて逃げ出すんだよ。もう今までなんべんもそんなことがあって、
そのたびに俺のお袋は泣いてたよ。「バカねぇ、お兄ちゃんは」なんていって。
(泉)どうしてなの? どうして逃げ出すのっ??
(満男)わかんねぇよ。
(泉)自分のおじさんのことでしょ、どうしてわからないの?
(満男)つまりさぁ、綺麗な花が咲いているとするだろ。その花をそっとしておきたいなぁ、って
いう気持ちと、奪いとってしまいたいという気持ちが男にはあるんだよ。
(泉)ふぅ~ん・・・
(満男)あのおじさんはどっちかというと、そっとしておきたいなっていう気持ちのほうが
強いんじゃないかな。
(泉)じゃぁ先輩はどうなの?
(満男)えっ・・・おれっ? いや・・・奪い取ってしまうほうだよ・・・なんちゃってね!
と言って石を遠目に投げたところ、草陰の釣り人(笹野高史)の頭にあたって激怒され、追いかけられて二人は土手の上まで駆け上がった(図36・37)。【続】

