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寅さんの風景-マイ・バック・ページ(10)

20171028河原町文化祭40周年02 図73 河原町文化祭40周年記念講演「寅さんの風景」(2017年10月)


5-6 おかえり寅さん

 2019年末から今年(2020)にかけて、映画界は「男はつらいよ」50周年第50作で湧きかえるはずだった。公開初日は年末27日。その何ヶ月も前から、テレビやネットで第50作「おかえり寅さん」の広報に接し、期待に胸は膨らむばかり。2020年は新作の話題一色になると思っていた。しかし、新型コロナの嵐は寅さんまでも吹き飛ばし、その勢いは今でも已む気配をみせていない。唯一の救いはBSテレ東の「土曜は寅さん!4Kでらっくす『男はつらいよ』」シリーズの放映である。4Kデジタル修復された鮮やかな画像の寅さんを性懲りもなくまた全巻録画している。修復された画像だけでなく、くるまや(旧とらや)の店員、三平ちゃん(北林雅康)をMCとする冒頭のイントロ(寅さん裏話)はマニア必見の情報群である。さて、「お帰り寅さん」について語る前に、どうしても触れておきたい作品がある。


20171028河原町文化祭40周年 図74 同左客席最後列


(1)虹をつかむ男
 「男はつらいよ」シリーズは昨年(2019)の今ごろまで全49作と言われていたが、第49作「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」(1997)は第25作のリメイク版であり、「男はつらいよ」を一人の俳優が演じた世界最長の作品と認定するギネスも、公式記録としては全48作としている。
 平成8年(1996)、四国を舞台とする第49作「寅次郎花へんろ」が構想されつつあった。しかし同年8月4日、主役の渥美清さんが亡くなったことで制作は中止を余儀なくされ、シリーズそのものも打ち切りとなる。「花へんろ」は、マドンナに田中裕子(2回目)、特別ゲストに西田敏行を迎えることが決まっていたが、撮影はまだ始まっていなかった。「虹をつかむ男」は西田敏行と田中裕子を主演に格上げし、「男はつらいよ」常連キャスト総出演で渥美清追悼のために制作された正月映画である。


図73 脇町劇場(オデオン座) 図75 脇町劇場(オデオン座)

図76 重伝建「脇町南町」(徳島県美馬市・1988選定) 図76 重伝建「脇町南町」(徳島県美馬市・1988選定)


 舞台は徳島県脇町のオデオン座。「うだつの町並み」で知られる美馬市の重伝建「脇町南町」(1988選定)とは川を挟んで対岸にある。オデオン座の正式な旧名称は「脇町劇場」で、創業は昭和9年(1934)。戦後、歌謡ショー等で多くの芸能人が公演し、地域に欠かせない娯楽の殿堂となっていたが、平成7年(1995)に老朽化などの理由により閉館された。映画「虹をつかむ男」を制作した翌年にはすでに使える状態になく、映画館としての内部は別の建物で撮影したという。
 「虹をつかむ男」の好評を受けて、取り壊し予定であったオデオン座は市の文化財に指定され、修復後、脇町劇場(オデオン座)として活用されている。「うだつの町並み」と対照的な昭和戦前の擬洋風建築(近代化遺産)として、いまでは観光の目玉の一つになっている
 「虹をつかむ男」の主題は映画である。田舎町の古ぼけた映画館(オデオン座)で世界中の名作をみせたいカッチャン(西田)の奮闘と叶わぬ恋を描いた人情喜劇。父親と喧嘩して家出した亮(吉岡秀隆)は、安い賃金に不満をこぼしながらも、カッチャンをとりまく人間模様と映画の素晴らしさに目覚め、オデオン座でのアルバイトを楽しむようになっていく。映画館では、「雨に唄えば」「禁じられた遊び」「東京物語」「野菊の如き君なりき」などの名作が次々上演されるが、経営は火の車・・・カッチャンはマドンナ八重子にも失恋し、ついに店じまいを決心するが、映画仲間に助けられて危機を乗り切る。


20170325法連寺(ブータン山寺)01 図77 法連寺講演「男はつらいよ-ブータン山寺放浪記」(2017年3月)


 新装開店とともに亮を実家に帰すことになり、最後に二人でみることになった送別の映画が・・・「男はつらいよ」第一作。二人はこの作品を鑑賞しながら、大声で笑い続けた。しかし終盤になると、その笑い声が聞こえなくなる。カッチャンは涙にむせんでいた。探偵ナイトスクープ前局長のあの演技は、これが源流かと思うほどの泣きっぷりである。
 翌日、亮を空港まで送った帰途、かっちゃんは一人寂しく車を運転しながら、「俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ・・・」と鼻唄を歌う。その車が走り去った直後、衝撃のシーンがあらわれる。突然、寅さんが鄙びたバス停から出てきてぐるっと一まわり。ほんの10秒余りのCG映像に心臓がばくばく鳴って、動悸がとまらない。涙腺は緩む。これが、寅さん没年に制作された映画であり、事実上の第49作だと私は思っている(ギネスは認定しないだろう)。
 こうした過去の作品の取り込みやCGの活用は、翌年公開された「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」でも散見される。そうしたコラージュ手法を究極のレベルまで進化させたのが第50作「おかえり寅さん」なのだと思う。


20170325法連寺(ブータン山寺)02 図78 同左客席(法連寺庫裏)


図78 寅さんトークギャラリー(2020年1月)01 図79 寅さんトークギャラリー@河原城(2020年1月)


(2)おかえり寅さん
 公開翌日にあたる2019年12月28日、高の原イオンシネマで「男はつらいよ」50周年第50作「お帰り寅さん」をみた。映画館に足を運ぶのは数年ぶりのことである。諸々の映画の予告が終わり、松竹の富士山ロゴが映し出された瞬間から気持ちが高揚してきて、冒頭はいきなり鳥取砂丘。「寅次郎の告白」(鳥取篇1991)で家出した泉ちゃんが孤独に悩み、その後満男と再会する、あの砂丘のシーンから「お帰り寅さん」は始まった。唖然呆然としてスクリーンをみつめながら、誇らしい気持ちになる。
 満男は小説家に転じていて、新作が評判になり、八重洲ブックセンターで開催されたサイン会で泉ちゃんと再会する。泉は渡欧し、難民問題を扱うNGOのスタッフとして活躍していた。住まいはジュネーブにあり、もちろん結婚して家族もいる。二人とも現状の世界と少し似たところがある。満男は「三丁目の夕日」のポンコツ小説家茶川を彷彿とさせるし、泉ちゃんはジャン・アレジとの事実婚生活を匂わせる。ただし、二人の描き方は対照的で、満男は三丁目の茶川ほどだらしなくはなくて節度があり、中3の娘から慕われているのに対して、泉は歴代のマドンナと同様、訳ありの陰がある。事実、三浦半島の施設にいる父親と介護する母親の問題で頭を抱えているし、おそらく現実(アレジとの別居?)と同様、ジュネーブの家族生活にも何かあるのだろうと暗示させるが、それは最後まで明らかにされない。
 満男と娘の関係には、少々違和感がある。家族の基軸は母-娘の母系的つながりにあって、男たちは「粗大ゴミ」的存在であるはずなのに、ああしたあからさまな娘からの好かれ方を前提とする家族感をしばしば山田洋次監督は描こうとする。娘には新しい母親が必要、という条件設定についても、かつて泉は両親の離婚や母親の再婚に強く反発した経緯があるだけに、少々理解に苦しんだ。思春期の少女なら自分を産んだ母親以外に母親はいないと思っているだろうし、その分だけ母親代わりのおばあちゃん(倍賞智恵子)に依存するのが自然な成り行きではないか。


図78 寅さんトーク 図80 同左寸劇1-寅(ノア)と女将(涼子)


 主題は、満男と泉の恋の再燃である。満男は最後の最後まで自分の妻が他界したことを隠そうとする。泉は「そんな満男さんが好きだ」と言って別れ際の空港でキスをする。48作までの満男は寅さんに似てどん臭く、ここぞというところで脱線してしまうのだが、今回はそうではなくて、むしろ泉のほうからボディタッチを仕掛けてきたり、口説きに入っているような場面が散見された。この辺りに関しては、続編への布石かとも思うのだが、実際にどうなのかはわからない。恐縮ながら、あの別れの場面には若干不満がある。あれは、ヨーロッパ住まいの大人の女の口づけではない。男女とも口をふさいでの無呼吸状態に陥っている。ここは思いっ切り情熱を傾け、まわりが仰天するほどの濃厚なラブシーンに仕上げてほしかった。


図78 寅さんトーク02 図81 同左寸劇2-満男(Sくん)と泉(Sさん)


 あけみ(美保純)が亡父タコ社長の代役を必死で演じていた、視ていて可哀想なほどに。対して、満男は寅さんの代役ではなかった。もっと普通の常識ある日本人として設定されている。寅さんの代役はどこにも居ない。寅さんは回想シーンの中にだけいた。その回想カットインの場面になるたび胸を打たれる。寅さんの動作をみていると、元気が出てくるし、笑わされるし、西田局長のように涙がとまらなくなる。寅さんに戻ってきてほしい、と心底思った。この世知辛く堅苦しくニュートラルな時代を、寅さんならどう生きるか。何を語るか。生きるということの模範をもう一度示してほしい。叶わぬ夢ではあるけれども、山田監督にはぜひとも続編をお願いしたい。


図78 寅さんトークギャラリー(2020年1月)03 図82 同左集合写真

 
《第5章附記》 本章は以下の三つの講演記録をもとに成稿したものである。

 2017年 3月24日(土)  第18回法連寺(愛媛)文化講座@法連寺庫裏
  「男はつらいよ-ブータン山寺放浪記」
 2017年10月28日(土) 河原町文化祭40周年記念講演@河原町公民館
  「寅さんの風景-千代河原と上方往来河原宿の遷ろい」
 2020年 1月18日(土) 男はつらいよ50周年第50作「お帰り寅さん」上演記念 
  「かわはら宿・寅さんの風景ギャラリートーク」@お城山展望台「河原城」

 ご招聘いただいた前園実知雄先生(法連寺)、及び河原町・河原城関係者の皆様に改めて深く感謝申し上げます。また、会場の運営、発表・寸劇に協力しくれたすべての学生諸君にも、この場を借りて、御礼の気持ちを伝えたい。【完】


図78 寅さんトークギャラリー(2020年1月)04
図83 困ったことがあったらな、風にむかって俺の名前を呼べ!

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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