中国道蕎麦競べ(9)-大和山城番外篇


談山神社十三重塔
9月19日(土)、桜井市の談山神社に参拝した。これまで何度か門前近くに至り、そのたびに訳あって素通りしてきたが、ようやく願いが叶って嬉しい。寺伝によれば、談山神社の縁起は大化改新にまで遡る。中臣鎌足と中大兄皇子が、改新のための談合をここ多武峰(とうのみね)でおこない、後に「談い山(かたらいやま)」とか「談所ヶ森」と呼ばれるようになったとされる。


中臣すなわち藤原鎌足の長男、僧定恵が唐から帰国し(678年)、父の墓を摂津からこの地に移して、十三重塔を造立した。その二年後に講堂(現在の拝殿)を建立して「妙楽寺」と号し、大宝元年(701年)、鎌足の木像を安置する祠堂(現在の本殿)を構えて「聖霊院」と名付けた。不審に思う点もある。これら一連の普請事業が天武持統朝、すなわち遣唐使の中断期にあたるからである。ただし、多武峰に古代の境内が存在したとすれば、鎌足の霊廟としての性格を強くもつ雑密系の僧院であったものであろう。


中国からみた場合、「妙楽寺」の創建期は初唐にあたる。初唐の塔と言えば密檐式の磚塔が主流であり、中国では現存しない純木造の層塔もそのころは存在した可能性があるだろう。そのような初唐の多層塔と十三重塔は関係があるのかないのか。願望を交えて憶測すれば、妙楽寺十三重塔は唐代密檐式磚塔の日本的表現であるとすれば刺激的だ。ともかく、世界唯一の木造十三重塔遺構である。
藤原氏の氏寺と言えば興福寺である。しかし、血脈・宗派の違いのため興福寺と妙楽寺は平安時代から不仲であったらしい。後者は奈良朝が一時期禁じていた修験道(雑密)の傾向を強くもつはぐれ山寺の一つであり、興福寺など南都七大寺から敬遠されていたのかとも思われる。十三重塔は承安3年(1173)、興福寺一派の焼き討ちで消失してしまう。文治元年(1185)に再興したものの、中世は南朝勢力に取り込まれたばかりに、永享10年(1438)、北朝軍に焼かれて灰燼に帰う。その後も戦火は絶えず、塔は享禄5年(1532)に再々建、伽藍全体は天正13年(1585)以降、秀吉と家康によって復興された。
明治の神仏分離~廃仏毀釈によって神道に改修し、「談山神社」と改名されて今に至る。大神(おおみわ)神社の神宮寺であった大御輪寺が大直禰子(おおたたねこ)神社に身をやつしたのと同じ道筋を辿ったことになる。


↑↓ 本殿(旧聖霊院)は隅木のない春日造。近隣にある宇陀水分神社と同形式である。縋破風の春日造と言ってもよいかろう。隅木を使う形式よりも古式であり、春日大社以前の原初的スタイルと考えてよいだろう。間口三間の大型本殿である。色彩などに桃山の匂いをぷんぷん漂わせている。重文。


↑↓拝殿は大掛かりな懸造。中に入れるのはありがたい。

↓西宝庫。春日大社の板倉に近いが、校木は板状の角材ではなく、面取りの五角形となっており、仏教系の匂いもわずかに残す。校倉における神仏習合か?




奈良に戻っても蕎麦屋通いの癖が抜けなくて、自宅に近い二軒を訪ねた。町中にある新しい木造の蕎麦屋なのだが、やはり趣きがちがう。「峠の茶屋」というか、「ぽつんと一軒屋」のような The 蕎麦屋 のイメージとはかけ離れている。
手打そば処 橘 ★★☆☆☆
奈良の北端にある自宅から木津川は近いはずだが、ナビの導く道筋は複雑きわまりなく、ずいぶん時間を要した。山中を越えて街中に出で、車道の角地に高い二階建の店舗を発見。内部は結構「密」で、こういう時期でもあるのだから、ソーシャル・ディスタンスを維持し、サーキュレーター(空気循環器)を設置するなどの工夫が欲しいところだ。時間をかけて一品を作っているので、結構待ち時間が長い。味は普通だと思う。すべての単品にミニご飯と漬物がつく。白ご飯なら、なくてよいんじゃないかな。
〒619-1154 京都府木津川市加茂町駅東1丁目9−10
0774-76-7951
1.8 ★★☆☆☆

↑昆布そば(温) ↓辛味おろし大根そば(冷)



蕎麦屋 きみなみ ★☆☆☆☆
ゆららの湯の隣にできた蕎麦屋。まさに生活圏にある街中の蕎麦屋である。感覚が戻ってきません。橘と同じ高い木造現代建築なのだが、インテリアどうにもキッチュに流れており、なにより器に驚いた。盛り蕎麦の並と大を注文したのですが、下↓の写真を見比べてください。とくに大の方、カレーライスの大皿じゃないの。蕎麦の店には骨董的な大人の趣味が行き届いていなければならない。都会にあって清浄な山水が望めないならば、塔頭の枯山水や水墨画にも似た演出を練りにねる必要があろう。残念ながら上下の二軒にはそうした配慮を感じないし、味覚や分量の面でも不満があった。
調子にのって舌を滑らせるならば、イオンの中にある丸亀製麺の讃岐うどんほうが断然安くて美味しい。近所に蕎麦屋があるのはありがたいことではあるので、持続不能に陥る前に改善を図ってほしいと思う。
〒631-0011 奈良市押熊町2201−1
0742-46-5503
1.3 ★☆☆☆☆


《連載情報》中国道蕎麦競べ
(1)安来「まつうら」
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(2)新見「やな木」
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(3)勝山「一心庵」
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2276.html
(4)津山城東とうふ茶屋
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(5)美作滝尾駅-木楽
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(6)床瀬そば
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(7)高中そば-名草神社三重塔
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(8)EN-ナマステ
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(9)談山神社-橘-きみなみ
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(10)宇陀「一如庵」
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(11)再訪-ひむろ蕎麦
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(12)そば切りたかや インタビュー
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(13)走馬観花-平福宿の「瓜生原」
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(14)「みちくさの駅」ゼミナール
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(15)再訪-床瀬そば
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(16)そば処「伊とう」
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(17)そばの店「右衛門五郎」
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(18)蕎麦と旬のお料理「ろあん松田」
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(19)摩尼寺門前 門脇茶屋
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(20)八郷の里の猫
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