中国道蕎麦競べ(12)


そば切りたかや インタビュー
11月11日(水)、前日の民博訪問に引き続き、研究室有志で鳥取市古郡家にある「そば切りたかや」を訪問し、店長さんからじっくりお話をうかがいました。まず最初に4年生4名が先行してたかやに行き、もりそばをいただきました。店内はゆったりした雰囲気が心地よく、写真を撮影しながらもゆっくり店内のスケープを堪能しました。蕎麦はコシがあり、喉ごしも良く、とても美味しかったです。たっぷりの量で食べきれるか不安でしたが、清々しい辛さの大根おろしとコクのあるだしの相性は抜群で、爽快感をもってさっぱりとたいらげることができ、とても満足しました。


店仕舞いした午後3時から、総勢7名で店長へのインタビュー開始。店長は若いころ、信州、東京、出雲など日本各地の蕎麦を食べ歩き、蕎麦に係わる知識を深めていかれたそうです。その経験によって発見した、店舗の在り方やメニューなど良いと思ったものを現在の経営に反映されています。蕎麦屋を始められたのは2000年前後というから、本学(私学)の開学(2001年)とほぼ同時期です。鳥取駅の裏(南)側で開業されたのですが、5年ほどで火事にあい、古郡家で活動していたNPOの呼びかけにより、現在の敷地に移転されました。古郡家は郊外農村エリアにあり、駅裏より不便な場所に思えますが、駐車場を確保できるという利点があり、車の普及した現代社会にあっては、郊外農村だとしても不利にはならない、と考えられたそうです。この点、山間部の蕎麦屋の経営とも通じていると思いました。
農業倉庫の改装と陶芸への指向
そば切りたかやは、戦前に竣工した村(現JA)の農業倉庫を改装した店を構えています。改装の設計と施工は、社寺建築の設計・施工に習熟した知り合いの工務店に依頼したそうです。テーブルとイスの高さやデザインにもこだわりがあり、食事しやすいと感じていた先輩のお店のテーブルを採寸して高さを決め、デザインは民芸調に流れすぎないないようにしたとのこと。また、器にも拘りがあり、親交のある岩美の岩井窯の器を多用され、また展示されています。蕎麦を食べながら器の良さを感じてほしいし、器によって料理の味が変わることを知ってほしい、とおっしゃいました。
展示物にも拘りがあります。四季それぞれで、水墨画の屏風、昭和映画のポスター、金魚、骨董などの陳列物を変えています。この場合、「四季」という時間的な概念が重要であり、室内にあっても季節を感じてほしいという願いがあるようです。これは、お客の待ち時間とも関係しています。待ち時間を退屈せずにいられるように、展示物が多すぎず少なすぎないよう心がけておられるとのことでした。これと関連して、映画や博物館展示、イベントのポスターやチラシ等も壁に貼り付けたり、棚においたりしてあります。お客の暇つぶしに使える情報の塊とも言えますが、どんな情報でも提供するわけではなく、蕎麦屋にふさわしい美術・工芸・音楽会・映画などのチラシが大半です。かくいうASALABのイベントチラシも年2回ばかりおいてもらうのだと教授に教わりました。
蕎麦と清涼感
BGMはクラシック系、とくにバロックのチェンバロや弦楽器が主流です。教授はこれを大変お気に召されており、「蕎麦の清涼感によく合う」とコメントされるとご主人は大層喜ばれました。蕎麦のエッセンスは清涼感だと感じられているからです。本来、音楽はなくてもよくて、川のせせらぎや鳥のさえずりなどの自然の音を楽しむことができる「無音」こそが最良ともお考えのようでしたが、バイト女性陣のおしゃべりをかき消すため、という已むに已まれぬ事情もあるそうです(笑)。




持続のコツ
そば切りたかやは、午前11時に開店し、午後1時過ぎには蕎麦が売りきれるほどの繁盛店です。ご主人によれば「繁盛」とか「成功」というほどでもなく、経営はとんとんで、「持続」という言葉がふさわしい、と謙遜されました。では、その「持続」のコツとは何か。最後にうかがいました。まずは何よりリピーターが大事だとお答えになりました。リピーターができれば、何度も足を運んできてくれるし、知人等に口コミで伝えてくれる。ただし教授によると、「常連客が店を潰す」という良からぬジンクスもあるそうです。これについてご主人は、客との距離感を付かず離れずぐらいに維持するのがよい、と反応されました。あとはメニューの問題で、教授のような蕎麦通は「もり」「おろし」「釜揚げ」などの素朴なメニューにこだわるが、経営としては「天ぷらそば」が鉄板で外せない、と強調されました。このほか書きたいことは山ほどありますが、以下、3年生に譲ります。
蕎麦屋の方に直接ヒアリングさせていただくという、とても貴重な経験をさせていただきました。今回の内容を卒業論文にもしっかりと生かしていきたいと思います。調査にご協力いただいた皆様に深謝申し上げます。(ころっけ)

酒も絵になる水商売
3年生は現在、男子が中国山脈周辺の蕎麦屋データベースを分担で作成、小霞さんはブータン食(とくに蕎麦食)のレシピを作成中です。11月11日(水)の「そば切り・たかや」さんでのインタビューにも全員が参加させていただきました。
「そば切り・たかや」は、2000年に鳥取駅近くに開店された後、2003年に今の古郡家の農業倉庫を改装し再オープンされました。マスターは、10代後半の時に出雲の門前蕎麦を食べて感激し蕎麦に興味を持ったそうです。その後は蕎麦の研究にあけくれ、信州を拠点に全国各地の蕎麦を食べ比べたそうです。地域の特色や店ごとの違いなどを経験し、バリエーション豊かな蕎麦を食べた結果、蕎麦に正解はないと思い至ったとのこと。
現在の古郡家での再オープンの際には、長野や鳥取の智頭・若桜で物件を探したあげく、当時JAが持て余していた農業倉庫を地域再生の意味も込めて活用しようと敷地を決めたと仰っていました。
店内はマスターのこだわりが詰まっていて、展示物が飾ってあったり金魚が泳いでいたりと、とても雰囲気が良いです。それらの秘訣についても話を伺ったところ、絵や展示物で視点に遊びがあれば場を持たせることができるのでは、という思いから実際に蕎麦打ちで用いた鉢や蕎麦用の器、彫刻など様々な展示を行っているそうです。また、展示物は寒色は夏、暖色は冬のように季節ごとに変えているそうです。BGMについては、本来なら無音が良いそうなのですが、厨房からの話し声や大きい音が聞こえるのを防ぐために流しているとのことでした。店内で用いる器についても、器は味に影響を与える重要な要素として、何人かでも気づいてくれたらいいなという思いがあると仰っていました。

メニューについて、お昼のみの営業でもお酒をおいています。水の商売であるので売れる売れないに関わらずおいているとのことでした。それに蕎麦屋なら「お酒も絵になる」とも。
お店として気を使っていることは、人あしらいが良くお客と付かず離れずの距離を保つことだと仰っていました(浅川先生によると、常連客が店を潰すことがこの業界ではあるそうです)。やはり、店内の雰囲気はづくりは意識されているようで、全国の蕎麦屋を訪ねて良いと思ったところは反映させ、気分良く帰れる店を目指していると仰っていました。
最後に、蕎麦屋として成功したと思うかどうかと質問したところ、大成功だとは思っていないけど続けていられるからよしよしくらいの気持ち。ただ、鳥取の人も蕎麦が好きなんだと知れて、蕎麦屋が増えたことは成功かなと回答いただきました。
とても貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。(教職4号)

《連載情報》中国道蕎麦競べ
(1)安来「まつうら」
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(2)新見「やな木」
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2275.html
(3)勝山「一心庵」
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2276.html
(4)津山城東とうふ茶屋
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2277.html
(5)美作滝尾駅-木楽
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2278.html
(6)床瀬そば
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2279.html
(7)高中そば-名草神社三重塔
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(8)EN-ナマステ
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(9)談山神社-橘-きみなみ
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(10)宇陀「一如庵」
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(11)再訪-ひむろ蕎麦
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(12)そば切りたかや インタビュー
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2302.html
(13)走馬観花-平福宿の「瓜生原」
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(14)「みちくさの駅」ゼミナール
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(15)再訪-床瀬そば
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(16)そば処「伊とう」
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(17)そばの店「右衛門五郎」
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(18)蕎麦と旬のお料理「ろあん松田」
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(19)摩尼寺門前 門脇茶屋
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(20)八郷の里の猫
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