中国道蕎麦競べ(11)


再訪-ひむろ蕎麦
10月30日(金)、およそ15年ぶりに南波賀の「ひむろ蕎麦」を訪れた。目的は養父市の重伝建だったのだが、両者とも戸倉峠からそう遠くない位置にあるので、昼食は久しぶりにひむろの暖簾をくぐることにしたのである。店内はごらんのとおり、あいかわらず、ひむろの磨き丸太が屹立していて圧倒される。材木業のオーナーさんの趣味だけあり、建築・建具・テーブル・イスすべて木工であり、それらは素材としての木材の長所を引きだすことに腐心されているようで、さほど「民芸」調に流れていない。その点、智頭の「みちくさの駅」と共通するが、色紙や招き猫などの展示物がややキッチュに流れている感が否めない。自然な風情と薄い数寄屋っぽさをもう少し洗練させたほうがいいように思う。残念だったのは、中央の長テーブルに切られた大きな炉がパーティションで区切られていたこと。コロナ対策である。



わたしはおろしざる(冷)、家内はとろろ(温)を注文した。味は、どうしたわけか、以前ほどの感動がなかった。因幡に蕎麦の名店が増えた結果として相対的にそう思うのか、あるいはまた、シェフの交替があったのかもしれない。
木材は室内側ではほとんど変化がないのだが、外観では退色がやや目立つ。ここは難しいところで、経年に伴い骨董の風貌を獲得できるが、劣化の印象を免れ得ないのか、境界線は微妙である。古色塗りに効果があるような時期になっていると思ったが、木材業者さんだけに新材の差し替えで対応されるかもしれない。









養父市大屋町大杉重要伝統的建造物群保存地区
南波賀で蕎麦をたくり、ただちに戸倉峠に反転して車を進める。20キロばかり北上すると、東に折れる林道があり、そこから十数キロ走れば、兵庫県養父市大杉集落に至る。2017年、ここに兵庫県五番目の重要伝統的建造物群保存地区が誕生した。町並みの種別は「山村・養蚕集落」。この種別では全国で4地区め、西日本では初めての選定である(智頭の板井原が先んじていたらば・・・)。2006年度におこなわれた調査では、養父市内に495戸の三階建養蚕住宅を確認しており(二階建を含めるとさらに多い)、明治中期以降、近代的な高層養蚕施設兼住宅として隆盛を遂げた木造建築群である。


とりわけ大杉地区は、二階建と三階建の養蚕住宅が織り成す集落景観を著しく良好に保ち、養蚕業の最盛期の姿をよくとどめている。大杉には、江戸後期から昭和30年代までに建てられた主屋や土蔵などの伝統的建造物が集中しており、主屋27棟のうち12棟が三階建養蚕住宅という地域性に富んだ風景が展開している。切妻型の瓦葺屋根、抜気とよぶ換気装置、大壁造、大きな掃き出し窓の採用という形式で統一されている点に注目したい。


建造物の修理・修景は順調に進んでおり、ギャラリー、集会施設、民泊施設、公共トイレなどが整備されている。それらの風致に接し、景観の質の高さに驚かされた。公共トイレの隣に一級建築設計事務所があり、ホームアーキテクトというべき役割を果たしている人物の存在もうかがわれた。ただし、コロナ禍のせいか、どの施設も閉門しており、人気(ひとけ)がなかったのは残念である。
環境大学からわずか80キロ、車で一時間半のところにこれほど質の高い農村集落があることを知り、正直、驚きを禁じ得なかった。氷ノ山山麓という因幡側と共通する地盤で育まれた生業と生活空間を教材としてぜひ活用したいと思った次第である。





《連載情報》中国道蕎麦競べ
(1)安来「まつうら」
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(2)新見「やな木」
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(3)勝山「一心庵」
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(4)津山城東とうふ茶屋
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(5)美作滝尾駅-木楽
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(6)床瀬そば
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(7)高中そば-名草神社三重塔
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(8)EN-ナマステ
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(9)談山神社-橘-きみなみ
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(10)宇陀「一如庵」
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(11)再訪-ひむろ蕎麦
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(12)そば切りたかや インタビュー
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(13)走馬観花-平福宿の「瓜生原」
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(14)「みちくさの駅」ゼミナール
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(15)再訪-床瀬そば
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(16)そば処「伊とう」
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(17)そばの店「右衛門五郎」
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(18)蕎麦と旬のお料理「ろあん松田」
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(19)摩尼寺門前 門脇茶屋
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(20)八郷の里の猫
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